
2014年2月、舛添 要一知事が就任し、新たに動き始めた東京都。「都政の役割の第一は、都民の生命と財産を守ること」という使命を背負い、「世界一安心・安全な都市・東京」を目指して震災への備えやテロ対策、福祉や雇用の充実を図りつつ、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催準備を着実に進めるなど、多岐に渡る施策を講じている。
安心・安全な都市の実現に向けて必要不可欠な要素として、都市基盤の整備が挙げられる。東京都では近年、木造住宅密集地域における延焼防止や避難路・物資輸送路としての道路整備、ゲリラ豪雨等にも対応できる河川整備、水や物資の備蓄も可能な防災拠点としての公園整備などの施策に急ピッチで取り組んでいる。その中枢を担うのが東京都建設局だ。東京のインフラ整備から街づくりまでを担う同局は、都民の安全で快適な生活を影ながら支えているといっても過言ではない。
2014年2月、舛添 要一知事が就任し、新たに動き始めた東京都。「都政の役割の第一は、都民の生命と財産を守ること」という使命を背負い、「世界一安心・安全な都市・東京」を目指して震災への備えやテロ対策、福祉や雇用の充実を図りつつ、2020年のオリンピック・パラリンピックの開催準備を着実に進めるなど、多岐に渡る施策を講じている。
安心・安全な都市の実現に向けて必要不可欠な要素として、都市基盤の整備が挙げられる。東京都では近年、木造住宅密集地域における延焼防止や避難路・物資輸送路としての道路整備、ゲリラ豪雨等にも対応できる河川整備、水や物資の備蓄も可能な防災拠点としての公園整備などの施策に急ピッチで取り組んでいる。その中枢を担うのが東京都建設局だ。東京のインフラ整備から街づくりまでを担う同局は、都民の安全で快適な生活を影ながら支えているといっても過言ではない。
建設局に存在する異色の“貸付”業務
東京都建設局の中で、都市基盤の整備に欠かせない用地取得を主業務とするのが用地部である。同部では既存システムの老朽化に伴い、より効率的なシステム構築を目指して2012年にみずほ情報総研の提供する「地方公共団体向け貸付金管理システム」を採用した。同システムは、貸付決定管理機能、台帳管理機能、督促・延滞機能、交渉記録機能など、貸付事務に必要な機能を搭載したパッケージシステムである。
同部では、都市計画に基づき、インフラ整備に必要な用地の取得を各地区の建設事務所や公園緑地事務所などの用地課と連携して行っている。都市部は建物のある場所がほとんどのため、その土地や建物の所有者、居住者、事業者などに移転をお願いすることになる。東京都建設局 用地部 管理課長の小林 春寿氏は、「都民の方々と話し合い、ご納得のうえで移転を決めていただくことを原則としていますが、その際、個々の状況に応じて、代替地の紹介や都営住宅の斡旋、そして移転資金の貸付という3点セットの支援策を提供しています」と話す。
整備事業予定地として取得する土地の代金や建物の解体費、再建費、移転費などは法令に基づいて補償するものの、建物の経年分が差し引かれたり、移転先との土地価格の差などから、東京都が支払う補償金では不足することがある。その不足分を補う目的で「公共事業の施行に伴う移転資金貸付金」として一般の住宅ローンなどより低率で貸し付けを行い、事業予定地からの円滑な移転を促進している。現在の金利は、一般路線での貸し付けが年利1.0%、特定整備路線の場合は年利0.185%で、当初2年は無利息かつ返済不要とするなど、移転に協力する都民に配慮した仕組みとなっている。「バブル期と比べると利用者は減少し、現在は約320件、総額20億円程度の貸付を行っています。しかし、2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向けた道路や施設の整備、木造住宅密集地域の改善に向けたプロジェクトが進むことを考えると、今後の需要は高まると思われます」(小林氏)。
東京都の移転資金貸付制度は、1960年(昭和35年)にスタートした。システム導入以前は紙の台帳で管理し、納入通知書を手作業で発行、金融機関での納入を確認して手作業で消込みを行っていたという。「返済が滞っている利用者への督促や催告書類の作成・発送のほか、交渉なども担当者が直接行っていました。一方で、それらの経過記録は一元管理されておらず、効率的とはいえないものでした」と、同部 管理課 担当係長の高橋 大江氏は当時を振り返る。
そこで、2001年には合理的かつ効率的な業務の遂行に向け、債権回収会社(サービサー)に業務を委託し、併せて貸付・徴収業務のシステム化を行った。「当時のシステムは、当局の要件に基づいて独自開発したものでしたが、マウスでのカーソル移動ができない、必要な一覧表が自動作成できないなど、効率的とはいえないものでした。また、サーバーを局内に置き、サービサーとは専用線でつないでいましたので、維持費がかかるほか、トラブル対応に時間がかかるなどの問題がありました」(高橋氏)。貸付金管理業務は、建設局の中でも特殊な業務であり、職員の定期的な異動や組織の改編などにも対応できるよう、より効率的なシステムの導入が必要となっていったという。

用地部 管理課長
小林 春寿氏
東京都建設局の中で、都市基盤の整備に欠かせない用地取得を主業務とするのが用地部である。同部では既存システムの老朽化に伴い、より効率的なシステム構築を目指して2012年にみずほ情報総研の提供する「地方公共団体向け貸付金管理システム」を採用した。同システムは、貸付決定管理機能、台帳管理機能、督促・延滞機能、交渉記録機能など、貸付事務に必要な機能を搭載したパッケージシステムである。
同部では、都市計画に基づき、インフラ整備に必要な用地の取得を各地区の建設事務所や公園緑地事務所などの用地課と連携して行っている。都市部は建物のある場所がほとんどのため、その土地や建物の所有者、居住者、事業者などに移転をお願いすることになる。東京都建設局 用地部 管理課長の小林 春寿氏は、「都民の方々と話し合い、ご納得のうえで移転を決めていただくことを原則としていますが、その際、個々の状況に応じて、代替地の紹介や都営住宅の斡旋、そして移転資金の貸付という3点セットの支援策を提供しています」と話す。
整備事業予定地として取得する土地の代金や建物の解体費、再建費、移転費などは法令に基づいて補償するものの、建物の経年分が差し引かれたり、移転先との土地価格の差などから、東京都が支払う補償金では不足することがある。その不足分を補う目的で「公共事業の施行に伴う移転資金貸付金」として一般の住宅ローンなどより低率で貸し付けを行い、事業予定地からの円滑な移転を促進している。現在の金利は、一般路線での貸し付けが年利1.0%、特定整備路線の場合は年利0.185%で、当初2年は無利息かつ返済不要とするなど、移転に協力する都民に配慮した仕組みとなっている。「バブル期と比べると利用者は減少し、現在は約320件、総額20億円程度の貸付を行っています。しかし、2020年のオリンピック・パラリンピック開催に向けた道路や施設の整備、木造住宅密集地域の改善に向けたプロジェクトが進むことを考えると、今後の需要は高まると思われます」(小林氏)。
東京都の移転資金貸付制度は、1960年(昭和35年)にスタートした。システム導入以前は紙の台帳で管理し、納入通知書を手作業で発行、金融機関での納入を確認して手作業で消込みを行っていたという。「返済が滞っている利用者への督促や催告書類の作成・発送のほか、交渉なども担当者が直接行っていました。一方で、それらの経過記録は一元管理されておらず、効率的とはいえないものでした」と、同部 管理課 担当係長の高橋 大江氏は当時を振り返る。
そこで、2001年には合理的かつ効率的な業務の遂行に向け、債権回収会社(サービサー)に業務を委託し、併せて貸付・徴収業務のシステム化を行った。「当時のシステムは、当局の要件に基づいて独自開発したものでしたが、マウスでのカーソル移動ができない、必要な一覧表が自動作成できないなど、効率的とはいえないものでした。また、サーバーを局内に置き、サービサーとは専用線でつないでいましたので、維持費がかかるほか、トラブル対応に時間がかかるなどの問題がありました」(高橋氏)。貸付金管理業務は、建設局の中でも特殊な業務であり、職員の定期的な異動や組織の改編などにも対応できるよう、より効率的なシステムの導入が必要となっていったという。
改善要求を積み上げ、独自のカスタマイズで都民へのサービス向上に寄与
東京都建設局では、業務効率の向上、サーバーのメンテナンス性の向上、そしてセキュリティの向上という、3つの課題の改善に向けて新たなシステムの導入の検討を行った。「前システムからの改善要求点は、50点余に上りました。システム要件を固めてプロポーザル方式による選定を行い、みずほ情報総研の貸付金管理システムを採用するに至りました」(小林氏)
新システムはパブリック・クラウド環境での構築とした。「専用線のコスト削減が実現できたほか、担当者が自席のパソコンからシステムにアクセスできるようになりましたので、利用者をお待たせする時間が短縮されました。サーバー、データストレージを外部のデータセンターに置くことで、災害対策や情報セキュリティ対策も大きく向上しました。保守や障害対応の面でも安心できます」(高橋氏)また、個人情報の取り扱いの観点から、従来は貸付・徴収に関する書類は委託先のサービサーから手渡しで受け取る必要があったが、現在のセキュアな環境下においては、押印書類など原本でしか扱えないものを除き、書類を電子化してやり取りすることが可能となったため、サービサーの来庁の頻度が減り、交通費や通信費、移動時間の削減にもつながっているという。
新たに導入した「貸付金管理システム」はパッケージシステムだが、地方公共団体独自のカスタマイズを行うことが可能だ。東京都建設局では、2008年に定められた東京都債権管理条例や東京都会計事務規則に合致した処理が行えるよう、カスタマイズを行った。貸付金返還の納入結果は東京都の財務会計システムで処理されるが、セキュリティ上、両システムを連携することはできないため、バッチ処理により貸付金管理システムにデータを取り込む仕組みを実装した。
そのほか、シミュレーション機能も追加し、返済状況に応じて、利用者に新たな返済計画を提案する仕組みも追加したという。「同機能により、残高照会や返済方法の変更、返済計画の見直しなど、利用者からの問い合わせやニーズにフレキシブルに対応することが可能となりました。回答にかかる時間も短縮され、サービスの質も向上することができたと思います」(高橋氏)。また、貸付金管理システムの導入により、業務が合理化されたことで、「同業務に関わる人員を他の業務に振り分けることができ、建設局全体の業務効率化にも一役買っている」(小林氏)という。

用地部 管理課 担当係長
高橋 大江氏
東京都建設局では、業務効率の向上、サーバーのメンテナンス性の向上、そしてセキュリティの向上という、3つの課題の改善に向けて新たなシステムの導入の検討を行った。「前システムからの改善要求点は、50点余に上りました。システム要件を固めてプロポーザル方式による選定を行い、みずほ情報総研の貸付金管理システムを採用するに至りました」(小林氏)
新システムはパブリック・クラウド環境での構築とした。「専用線のコスト削減が実現できたほか、担当者が自席のパソコンからシステムにアクセスできるようになりましたので、利用者をお待たせする時間が短縮されました。サーバー、データストレージを外部のデータセンターに置くことで、災害対策や情報セキュリティ対策も大きく向上しました。保守や障害対応の面でも安心できます」(高橋氏)また、個人情報の取り扱いの観点から、従来は貸付・徴収に関する書類は委託先のサービサーから手渡しで受け取る必要があったが、現在のセキュアな環境下においては、押印書類など原本でしか扱えないものを除き、書類を電子化してやり取りすることが可能となったため、サービサーの来庁の頻度が減り、交通費や通信費、移動時間の削減にもつながっているという。
新たに導入した「貸付金管理システム」はパッケージシステムだが、地方公共団体独自のカスタマイズを行うことが可能だ。東京都建設局では、2008年に定められた東京都債権管理条例や東京都会計事務規則に合致した処理が行えるよう、カスタマイズを行った。貸付金返還の納入結果は東京都の財務会計システムで処理されるが、セキュリティ上、両システムを連携することはできないため、バッチ処理により貸付金管理システムにデータを取り込む仕組みを実装した。
そのほか、シミュレーション機能も追加し、返済状況に応じて、利用者に新たな返済計画を提案する仕組みも追加したという。「同機能により、残高照会や返済方法の変更、返済計画の見直しなど、利用者からの問い合わせやニーズにフレキシブルに対応することが可能となりました。回答にかかる時間も短縮され、サービスの質も向上することができたと思います」(高橋氏)。また、貸付金管理システムの導入により、業務が合理化されたことで、「同業務に関わる人員を他の業務に振り分けることができ、建設局全体の業務効率化にも一役買っている」(小林氏)という。
さらなる改善に向けて
貸付金管理システムでは、個々の債権管理や帳票発行などに利用する貸付台帳の作成が可能だが、東京都建設局ではさらなる機能の必要性を検討しているという。導入時には時間的・予算的な観点から機能のカスタマイズを絞り込んだため、現状では、決算や予算要求、進捗管理など、財務当局から求められる一覧やデータファイルは、CSVデータを加工して作成している。作業に時間もかかるため、今後は、全体的な統計データの作成が容易にできるような機能の強化が必要と考えていると高橋氏は話す。「みずほ情報総研の担当者には、サポートも含め、丁寧に対応していただいています。今後のシステム改善に向けて検討を進めていますので、全体最適化に向けた有用なアドバイスを期待しています」(小林氏)。
2014年9月に策定された「東京都防災対応指針」では、首都直下地震や台風などに備えるための8つの施策のうち、建設局が主体となる施策は、「木密地域の不燃化対策」「防災拠点の整備」「水害への備えの強化」「交通ネットワークの確保」「高度な耐震性を備えた都市づくり」の5つに上るという。「いずれの施策にも用地の取得が必要となりますので、このシステムを駆使して、需要に応えていきたいと思います」(高橋氏)。
- *この記事は、2015年2月の取材をもとに作成したものです。