燃料電池シミュレーターの全体構成
固体高分子形燃料電池に関する一連のシミュレーターを提供するための方針として、以下に示すようにマクロからミクロまでを4つのレベルに分けて構成することを考え、スタックシミュレーター、セルシミュレーター、MEAシミュレーター、ミクロシミュレーターの順に開発し、ソリューションを提供しています。
固体高分子形燃料電池セルスタックシミュレーター P-Stack®

単セルからセルスタック全体のI-V特性、電流密度分布、ガス圧分布、濃度分布、温度分布を解析対象とするスタックシミュレーターを開発しています。ここではガス流路についての1次元ガス配管モデルや熱伝達モデル、集中定数系の起電力モデルなど、工学モデルを積極的に導入することによって、通常の3次元モデルでは膨大な計算を要するセル全体のシミュレーションの可能性を向上させるものです。また、解像度を1[mm]程度に設定し、精度向上のためには単なる計算粒度(計算格子)の細分化を行わず、有効熱伝達係数のモデルなど、工学モデルの機能向上により精度向上を目指しています。このレベルのシミュレーターとしてはNguyen、White ら[2]-[4]の研究例があり、現在、膜の水分輸送に関しては、そこで提案されているドラッグや逆拡散などの集中定数モデルを改良しています。スタックシミュレーターはセル全体をシミュレーションするために必要な流路、セパレーター、MEAにおける物質・熱の輸送モデルと起電力モデルを統合するものです。
解析対象 |
固体高分子形燃料電池(PEFC) |
---|---|
評価可能な項目 |
■発電性能解析
■耐久性能解析
|
解析可能な物理量 |
電流-電圧特性(I-V特性)、電流密度分布、過電圧分布、膜含水分布、ガス濃度分布、圧力分布(流路、GDL)、液相体積率分布、温度分布、等 |
解析モデル |
スタック解析までを高精度かつ、実用的な時間で実行可能とした当社独自の工学モデルを適用
■熱・物質輸送モデル(流路/GDL)
■二相流動モデル(流路/GDL) |
計算時間の目安 |
【セル単体の場合】
|
固体高分子形燃料電池セルシミュレーター P-Cell®

スタックシミュレーターに比べ、熱・物質移動に対してより原理的な物理モデルを用いるセルシミュレーターを開発しています。具体的には、多成分ガスの拡散現象にStefan-Maxwell方程式[6]を用い、またGDL内には毛細管現象を考慮したガス・水滴の2相流動モデル[7]を用いています。これによって、0.1[mm]程度の解像度で詳細なガス濃度分布、温度分布、電流密度分布のシミュレーション[5]-[7]を可能としています。セルシミュレーターはスタックシミュレーターに比べて計算負荷が大きくなるため、流路構造(溝幅、溝深さ、断面形状)の影響等、小さな領域の解析を詳細に行うツールに位置づけ、複数セルの解析を目指すスタックシミュレーターと相互補完的に用いることができます。
対象構造 |
|
---|---|
モデル |
|
解析対象 |
|
セルシミュレーター(P-Cell)については開発を終え、具体的な解析に着手できます。
MEAシミュレーター P-MEA


電解質膜内の水分分布や触媒層内のガス濃度・電流密度分布など、MEAに関係するミクロンオーダの微細数構造で起こる現象をシミュレーションするシミュレーターとしてMEAシミュレーターを開発しています。これを連続体方程式を用いる最も詳細なレベルのシミュレーターに位置づけています。このレベルのシミュレーターの研究例としては、MEA の分極特性の算出[7]、触媒層内の電解質・電極・空隙・触媒分布の影響の解析[8]、不純物イオンによる膜の劣化を考慮した膜内水分分布の解析[9]などがあります。MEAシミュレーターでは、これらのシミュレーション技術を統合し、MEA 内の全ての現象が連成したときのMEA 単体の分極特性を再現するシミュレーターの開発を目指しています。
対象構造 |
|
---|---|
モデル |
|
解析対象 |
|
ミクロシミュレーター P-Micro


流路内のガス流速、壁面濡れ性、ガス拡散層のミクロ構造(基材、空孔率、濡れ性など。)等による流路・ガス拡散層界面の水滴の付着限界、水滴の移動速度、またガス拡散層内の水滴ネットワーク形成、流路への水滴排出メカニズムの違いについて、表面張力・濡れ性をモデル化した粒子法(MPS法)[10]-[12]による二相流直接シミュレーションにより解析するソフトウェアです。
実験では計測が困難な水滴存在時のガス拡散層の拡散係数や浸透係数といったマクロ特性を算出し、これらをP-Stackのガス拡散層の輸送モデルに適用することも可能です。また、マイクロポーラス層(MPL)、触媒層、電解質膜の分子スケールの現象解明のための分子動力学法、ネットワークモデル等のシミュレーション手法についても検討しています。
対象構造 |
|
---|---|
モデル |
|
解析対象 |
|
お問い合わせ
担当:サイエンスソリューション部
関連情報
おすすめソリューション
ガス拡散層の多孔質二相流モデルを含む三次元熱流体解析コードを拡張して、流路・ガス拡散層内の熱物質移動とMEAの起電力との連成効果を詳細に解析するソフトウェアです。
P-Stackは近年の燃料電池自動車(FCV)や家庭用コジェネレーションシステム(熱電併給)において主流となっている固体高分子形燃料電池の様々な運転条件下における内部状態と発電特性をシミュレーションできるソフトウェアです。