P-Cellを用いたGDL内水滴挙動の解析
水滴挙動に関する解析事例として、ここではP-Cellを用いたGDL内の水滴挙動の解析事例を示します。
解析条件
解析条件(1)
図1に用いた解析体系と解析条件を示します。ここでは数mm角の小さな体系を用いてGDL内の水滴の挙動を調べます。また解析条件としては、GDLの撥水処理と水滴の挙動の相関を見るために、GDLの物性として、水との接触角を0度とした場合と、接触角90度とした場合の2ケースについて行いました。また比較のために水蒸気の凝縮が無い単相流でのシミュレーションも同時に行いました。P-Cellでは毛細管圧力のモデルによって、接触角0のときは大きな毛細管圧を持った親水性のGDLでの水滴の挙動をシミュレーションし、また接触角90度のときは毛細管圧力が働かない疏水性のGDLでの水滴の挙動をシミュレーションできるようになっています。
GDL内ではガスの流動が小さいため水蒸気の凝縮によって生成する水滴を排出することが難しく、水滴が溜まってガス拡散が阻害され、著しい特性の低下を招く可能性があります。このように一般にGDLには水滴が溜まるのを防ぐため撥水化処理が行われています。ここでは、GDL内の撥水化処理によって水滴の溜まり方とI-V特性がどのように変化するかを調べます。

図1 P-Cell を用いたGDL内の水滴の解析体系と解析条件
解析条件(2)
部位 | 長さ[mm] | |
---|---|---|
セル要素の幅:ws |
2 |
|
セル要素の奥行き:ds |
3 |
|
セル要素の高さ |
セパレーター高さ:tas 、tcs |
2 |
ガス流路高さ:tas、tcc |
1 |
|
ガス拡散層高さ:tac、tcc |
0.3 |
|
高分子膜高さ:tm |
0.05 |
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項目 | 内容 | |
---|---|---|
空隙率 |
0.5 |
|
浸透率 |
1.0×10-11[m²] |
|
境界条件 |
流入面 |
Stoichiometry Ratio=1.25 at 1.0[A/m²] |
流出面 |
圧力:1.01325×105[Pa] |
|
上下面 |
温度:343.15[K] |
|
側面 |
温度:断熱条件 |
|
解析ケース |
<A>no_wet |
単相流計算 |
<B>wet_c00_perco |
二相流計算多孔質体と水滴の接触角0度 |
|
<C>wet_c09_perco |
二相流計算多孔質体と水滴の接触角90度 |
シミュレーション結果
シミュレーション結果(1)
図2にI-V特性のシミュレーションと平均電流電9000[A/m²]における流路断面方向の流密度分布を示します。また図3、4にそのときのカソードGDL内の液相体積分率および酸素濃度の分布を示します。
![図2 I-V特性(左)と平均電流電9000[A/m²]における流路断面方向の電流密度分布(右)](/archive/solution/fcpcell/images/02_02.gif)
図2 I-V特性(左)と平均電流電9000[A/m²]における流路断面方向の電流密度分布(右)
シミュレーション結果(2)
図3にカソードGDL内の液相体積分率の分布を示します。
![図3 カソード側GDL内の液相体積分率分布(流路断面、9000[A/m²])](/archive/solution/fcpcell/images/02_03.gif)
図3 カソード側GDL内の液相体積分率分布( 流路断面、9000[A/m²])
シミュレーション結果(3)
図4にカソードGDL内の酸素濃度の分布を示します。
![図4 平均電流密度に対するその変化の様子(左)およびカソード側GDL内の酸素濃度分布(右:流路断面、9000[A/m²])](/archive/solution/fcpcell/images/02_04.gif)
図4 平均電流密度に対するその変化の様子 (左)
およびカソード側GDL内の酸素濃度分布(右:流路断面、9000[A/m²])
シミュレーション結果(4)
図2に見るように、水蒸気凝縮なしの場合に比べて、水蒸気凝縮がある場合のI-V特性が8000[A/m²]付近から下がり始め、その度合いは接触角0度の親水性GDLの場合に大きいことが示されています。またI-V特性に大きな差が現れている平均電流蜜度9000[A/m²]での電流密度分布を見ると、接触角0度の場合は90度に比べてセパレーターのリブ付近での電流密度が小さくなり、大きな不均一性が現れています。
図3の液相体積分率に見るように、接触角0度の場合の水滴はGDL内にほぼ均一広がっています。これに対応して、図4に見るように8000[A/m²]を越えた付近から接触角0度の場合は膜表面での酸素濃度が大きく低下しています。一方90度の場合はリブ直下に水滴が溜まっているものの、流路直下を中心として全体的にGDL内に溜まっている水滴は少なくなっています。このため接触角90度の場合は酸素拡散の阻害の程度は小さくなっています。
以上の解析では、親水性のGDLの場合はその中に広く水滴が溜ることによって酸素の拡散が阻害され、電圧降下を招いていることが示されました。これは撥水化処理による性能向上を支持する結果となっています。
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