- 概要
- スペシャル対談

佐藤芳之氏
ルワンダ・ナッツ・カンパニー会長、オーガニック・ソリューションズ・ルワンダ会長
1974年に食品加工会社「ケニア・ナッツ・カンパニー(KNC)」を立ち上げ、1990年代にはマカダミアナッツ生産量で世界トップ3となる。2008年、KNCを幹部社員に譲渡。「オーガニック・ソリューションズ・ルワンダ」など、アフリカや南米で新事業を次々と立ち上げる。著書に『歩き続ければ大丈夫 アフリカで25万人の生活を変えた日本人起業家からの手紙』(ダイヤモンド社)、『OUT OF AFRICA アフリカの奇跡 世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語』(朝日新聞出版)など。
「みずほグローバルアグリイノベーション」を通じて結ぶ日本式農業とアフリカ(PDF/3,878KB)
アフリカと日本をつなぐ共同研究
畠山 本日は、私どもの新事業「みずほグローバルアグリイノベーション」の一環である、岩手県八幡平市および国立大学法人岩手大学とのルワンダ共和国における共同研究がいよいよ始まったということで、アフリカにおけるビジネスに長年携わってこられ今回のプロジェクトにもご協力いただいた佐藤会長に、お話を伺う場を設けさせていただきました。
私が佐藤会長に初めてお会いしたのは2014年ですから、もう1年になりますか。赤道直下の地で何かを栽培することが本当にできるのかと思っていたのですが、ルワンダは素晴らしい農業環境の国であるとお伺いし、非常に驚いたことを今でも覚えています。ルワンダは平均気温が約20度で、1年を通してあまり温度変化のない環境だそうですね。
佐藤氏 はい。実験農場のあるキニギは標高が2000m以上あり、気温は高い時でも30度、低い時でも10度前後で過ごしやすい気候です。実は、ルワンダのような熱帯の高原地帯は野菜や花を作るのに適した気候条件ということで注目を浴びており、今さまざまな国が進出し始めています。
畠山 そのような、佐藤会長からお教えいただいた情報をベースにしながら、ビジネスのさまざまな可能性を検討して立ち上げたのが、「みずほグローバルアグリイノベーション」です。本事業では、日本の農林水産業の海外進出を支援するため、日本ブランドの農産物の栽培や農業機械などの技術移転に関する研究、および実証実験に取り組んでいます。目標とするところは、日本の農業の持続的な発展と、進出先の地域の経済的な発展、そして進出する企業の円滑な支援、マーケット開拓の推進サポートです。ルワンダでのリンドウ栽培事業に関する共同研究は、その第一弾となります。

我々のビジネスはコンサルティング業務ですが、このプロジェクトではお客さまや共同研究者と共に現地に赴き、諸々の課題に対して当事者の一人として解決に当たるなど、パートナーとして共に汗を流すつもりです。単に机上の企画やコーディネートを行うだけでなく、リアルなサービスを提案します。実際、当事業では、生育調査のため日本のリンドウの苗をルワンダへ運んで植えるといった仕事も行っています。
佐藤会長はもとより、ルワンダの皆様に大変なお力添えをいただいたおかげで、プロジェクトが非常に良い形で進んでいると感じています。
佐藤氏 そうですね、とても良い関係が構築できている現場だと思います。今回提携させていただいている我々のグループ企業は、2008年からルワンダで農業を行い経験を積んでいます。そこに、豊かな知見と経験、幅広いネットワークをお持ちのみずほ情報総研がマッチングすることで、アフリカと日本のコラボレーション、またヨーロッパ市場開拓を目指しインターナショナルに活動していくという、とても良い形ができていると思います。
今後は、今おっしゃったようなコンサルティングを超えた現場での仕事の中で、課題解決のための適切なアドバイスや、海外進出を目指す日本企業とのネットワークをつないでいただければと期待しています。みずほ情報総研との連携プロジェクトということで、日本の企業も安心して我々と連携していただけることと思いますので、大変心強く感じていますし、骨太のプロジェクトになるという予感があります。
畠山 そのように感じていただくことができ、大変嬉しく思います。
アフリカに賭けたアントレプレナーシップ

畠山 佐藤会長は東京外国語大学をご卒業されたと伺っていますが、何語をご専攻されたのですか。
佐藤氏 インド語、アラビア語、ペルシャ語、トルコ語を学びました。アフリカで仕事をしたいという思いはすでに持っていたのですが、当時はアフリカの言語を学ぶことのできる学科はありませんでした。そこでいろいろと調べたところ、当時のアフリカではインド系の商人が経済の実権を握っているということが分かりましたので、まずはインド語を選んだのです。
畠山 若い頃からアフリカで働きたいという思いがあったのですか。
佐藤氏 はい、少年の頃からありました。その夢をただ追いかけて歩き続けてきただけだ、という感がありますね。
畠山 いや、佐藤会長のご成功は、単に歩き続けただけで到達できるような道ではありませんよ。どのようなお考えや行動があったのでしょう。最初はどのようなビジネスを始められたのですか。
佐藤氏 最初はリヤカーを作ろうと考えました。しかしそのビジネスは失敗したため、次に鉛筆工場を立ち上げました。鉛筆工場の次は製材所を手掛けたのですが、そこで「木を切る」という行為に、どこか後ろめたさを感じてしまいました。それならば、次は木を植える仕事をしようと考えました。
畠山 なるほど。そうした発想からケニア・ナッツ・カンパニー(KNC)創業へとつながったのですね。
佐藤氏 はい。植林するならば、環境のためというだけではなく、実のなる木を作りたいと考えました。もしその実に市場性があれば、ビジネスになるだろう。しかしコーヒーのような国際競争が激しい商品は相場が変動しますから、潜在需要は100万トンあるが5万トン以下の供給しかされていないようなニーズのあるものがいい。そのような木を探し歩いて、巡り合ったのがマカダミアナッツでした。それからはナッツのビジネスを一心不乱にやりました。
畠山 でも、そうして世界規模の企業へと育てたKNCをケニアの社員へ譲渡されましたでしょう。もっと大きくするというお考えはなかったのですか。
佐藤氏 いえ、これ以上大きくしてはいけないと思ったのです。ビジネスには適正な規模というものがあります。世界の市場で貴重に扱われ求められているあたりがちょうどいいのです。社員も4000人を超えましたし、後進へと道を拓く必要もありました。でも一番の理由は、ビジネスをよく理解したケニアの優秀な社員がたくさん育ち、私の出る幕がなくなったということかもしれません。そこで、「このビジネスは君たちが手がけなさい。私は他の仕事をやる」と伝えたのです。送別会も一切必要ないと言って、すぐに辞職しました。
畠山 そこできっぱり辞職されたというのは、非常に大きな決断ですね。その後ルワンダへ移られたのは、何がきっかけだったのですか。
佐藤氏 たまたま会議で出向いた時に、街が少し不衛生だと感じたのです。その時ちょうど微生物のビジネスを始めていたものですから、微生物を使って浄化を行おうと考えました。そこで市とコラボレーションしてスラムや地方の学校のトイレ浄化を行いました。今ではケニアでも学校トイレ浄化プロジェクトを実施しています。微生物を使ったビジネスは拡大しており、微生物を利用した生肥料がケニアのバラ園で利用されるなど、売上げを伸ばしています。
今はとにかくいろいろなビジネスを手がけたいと思っています。アイデアがどんどん浮かぶのです。ケニアではジャガイモの農場を1万ヘクタール確保しましたので、エタノールや工業用の澱粉、ウオツカ造りもいいなと考えています。タンザニアではサツマイモを植え始めたのですが、それでアフリカ産のおいしい焼酎を造りたいと思っています。
畠山 しかしすごいものですね、いろいろな事業を展開されていらっしゃる。ご著作にもありましたが、佐藤会長がビジネスのアイデアを口にしても、最初は誰も本気にしてくれないそうですね。でも「やるんだ」と言い続けて、本当に実現される。
佐藤氏 言わないと実現しないものですよ。ですから、ついつい皆に言ってしまう。そうすると、自分がその言葉に縛られて、やらざるを得なくなるでしょう。
畠山 そうした事業は一つを終わらせてまた次へということではなく、同時並行的に手がけられるのですか。
佐藤氏 全て同時です。70歳代も半ばになりますと、一つのことに集中するのは時間がもったいないと思うのです。考えられる全てのことを同時進行で進めたいし、やろうと思えば実際にやれるのです。
畠山 一口でワールドワイドと言いますが、それを体現されておられる方のお話となると、迫力が違いますね。佐藤会長の起業家精神には本当に感服します。力強く、ダイナミックな精神をお持ちでいらっしゃる。しかも、形のある「ものづくり」につなげていらっしゃるところが、大変素晴らしいと思います。
活気づく日本企業の対アフリカ投資
畠山 最近、アフリカに対する日本からの投資は盛んになっており、みずほフィナンシャルグループとしても注力し始めています。みずほ銀行はケニアの投資庁と業務協力覚書を締結していますし、南アフリカではスタンダード銀行と業務協力協定を締結しています。
アフリカの人口はまだ10億人程度の規模感かと思いますが、今後も右肩上がりの人口増加が期待されていますし、そのようなエリアは世界でもアフリカだけではないでしょうか。さまざまな日本企業が進出を考えています。一時は波が引いた感があったものの、今はまた動に転じているように感じているのですが、いかがでしょうか。

佐藤氏 そうですね。今ドライブがかかっているのは、1993年から始まった「TICAD(Tokyo International Conference on African Development/アフリカ開発会議)」が、2016年に初めてアフリカで開催されるということも理由の一つでしょう。これまでは東京にアフリカ各国の首脳クラスを集めて開催していましたが、いよいよ現地での開催となります。先日、ケニアが開催地となることが正式に発表されました。
国際的に見ると、中国が今すさまじい勢いでアフリカへ進出しており、エチオピアで「中国・アフリカ協力フォーラム」を開催しています。最近、ケニア人は僕を見ると「ニーハオ」と呼びかけてきます。日本人だと分かると、「まだいたの」と言われるのです。
畠山 そういう言葉が返ってくるのですか。日本人のプレゼンスが下がっているのですね。
佐藤氏 そのような、中国を始めとした各国に対抗すべく、2013年のTICADでは、安倍首相が、今後5年間で官民合わせて3兆2千億円の出資を行うと宣言しました。そこで日本企業は投資する案件を熱心に探しています。
ところが、橋や港湾建設などいわゆる公的なインフラ事業ではさまざまな案が出ても、インフラ完成後に取り組む具体的なビジネスについてはまだまだ動いていません。ですから、「みずほグローバルアグリイノベーション」が、具体的なビジネスの旗振り役となってくださればと感じています。
畠山 我々が、扉を開く役回りを果たすことができるかもしれませんね。みずほ銀行も、アフリカにおける銀行としての役割を模索している最中ですので、我々がまず先発隊となって、具体的なビジネスへとつないでいきたいと思っています。
佐藤氏 鍵となるのは、やはり情報だと思います。技術に関する情報、お客さまや市場に関する情報。その点について詳しい御社から、助言や支援をいただければと思います。
技術を武器に、日本の農業を世界へ

畠山 2015年10月には環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)も大筋合意となり、日本の農業は今厳しい環境に直面しています。佐藤会長は、日本の農業をどのようにご覧になっていますか。
佐藤氏 素晴らしいと思います。高い技術がありますし、品質を追及する意識が高く、妥協しない。イチゴのトチオトメは、中東では大きな桐の箱に入った貴重品として販売されています。そこには、日本の農家にしか作ることのできない技術があります。
畠山 そうですね。海外へ目を向ければ、日本の農業はもっと伸びる可能性があるのではないでしょうか。今の環境変化をポジティブに捉え、集積や法人化はもとより、日本再興戦略でも掲げられているように、海外展開できる農業へと変わることが必要ではないかと感じています。
佐藤氏 そう思います。日本の農業が持つ技術は高いのですから、ハイグレード・ハイプライスなものを作り、大農場での大量生産とは異なる市場を開拓していくことが重要だと思います。今は逆風が吹いているかもしれませんが、ヨットと同じで、進む方向を見据えて、向かい風を前に進む力に使えばいい。そういう発想が大事ではないでしょうか。
40年以上農産物を作る仕事に携わって分かったのは、農業とは基本的には技術産業であるということです。地球という工場の中で、年々変化する環境に適応することが求められますし、土地によっても土や水などさまざまな条件が異なります。気候変動や降雨量などの現象と戦いながら、毎年ベストなやり方を模索していく必要がある、総合アートのようなものなのです。
畠山 確かにそうですね。農業を技術産業として捉えると、みずほ情報総研としてお手伝いできることは色々あるのではないかと感じます。
佐藤氏 従来の農業に、どのようにしてイノベーションを起こし、技術やマーケティングの思想を組み込んで、R&Dや商品開発を進めていくかということが、これからは重要です。また、そうした農業技術を海外へ展開していくというのは、良い狙いどころだと思います。
この度のルワンダでの共同研究は、日本農業の再チャレンジといいますか、日本農業が今まで培ったものを持って海外市場へと切り込んでいくということですからね。みずほ情報総研が持つ豊かな情報を基に、日本の農業にイノベーションを起こす。非常にドラマチックな、ドラマの始まりに今立っておられるのだなと思います。花卉ビジネスを通して進出した国で外貨を稼ぐことができれば、アフリカが今抱えている貧困の問題を解決することにも役立つでしょう。みずほ情報総研が社会に対して今すべきことは何なのか、そうした大きな目的を純粋に考えた延長上にあるプロジェクトだと感じます。
我々も微力ながらお手伝いできればと思いますし、この事業に参加できることに高揚感を得ています。まずはリンドウに注力し、それが花開いたら、さらに先へと拡大しましょう。
畠山 ありがとうございます。必ずこの事業を成功させたいと思っております。お話が面白く、時間がたつのがあっという間でした。お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

- *「みずほグローバルアグリイノベーション」は、株式会社みずほフィナンシャルグループの登録商標です。