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強パルスレーザーによる高次高調波発生過程の電子状態計算

背景及び目的

近年実用化されたパルスレーザーでは光の電磁場がわずか数サイクル振動する数フェムト秒の間に極めて振幅の大きい振動電場を発生させることができます。この振動電場を分子に照射すると、分子中の電子が激しく揺れ、複雑な光学応答が起こり、その振動から発生する散乱光には入射光の振動数の奇数倍の1倍、3倍、5倍、、101倍、、、1001倍と非常に高い振動数までピークがほぼ同じ強度で等間隔に並んだスペクトルが観測されます。この現象は非線形光学応答と呼ばれ基礎物性として興味深い現象であると共に、分子中の電子状態を観測する重要な研究手段になります。

この散乱光の多数のピークの光を合成すると、デルタ関数のフーリエスペクトルと同じ原理で、より短時間のアト秒の瞬間に、より強度な電場となる光が生成されます。この瞬間的な光をカメラのストロボのように用いると、分子の化学反応により超高速で時間変化する電子状態をコマ撮り撮影できるようになるので、化学反応の過程をストップモーションムービーのように観ることが可能になります。また、瞬間的に強力な電場で化学結合を切断することもできるので、分子レベルで超精密な表面加工や化学反応の制御も可能になります。

解析事例

みずほリサーチ&テクノロジーズではこのような強力な振動電場での電子状態のダイナミクスを弊社の量子電子動力学シミュレータQuickQDを用いて解析しています。原子1個の計算系に振動電場をかけ、電子の波動関数が振動していく過程を数値計算しました。その結果、電子の振動スペクトルに高次高調波の成分を多数検出しました。このような数値計算技術は物性の基礎研究の支えとなります。

図 強パルスレーザーの振動電場。10フェムト秒の極短時間に数サイクルだけ電場が振動し、その振幅は非常に強力になります。

図 電子分極の時間変化。パルスレーザーの電場によって分子の電子が揺れ、分極が発生します。パルスレーザーが収束しても、その揺れは収まらず複雑なものとなります。

図 電子分極の周波数スペクトル。パルスレーザー収束後の分極の複雑な揺れを振動数でスペクトル解析すると非常に多くのピークが現れます。これは分極の振動に非線形光学応答による高次高調波が発生していることを示します。振動する分極はこの分子からの散乱光を作り、この例では入力のパルスレーザーの光のエネルギーの約100倍のエネルギーをもった光が散乱光として放射されていることがわかります。

図 電子分極の時間変化の動画。QuickQDが出力する電子密度分布の時系列データを本ソフトウェア付属の可視化ソフトウェアで可視化し、動画とすることができます。基底状態にあった電子密度分布がパルスレーザーの振動電場によって揺れる様子がよくわかります。

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担当:サイエンスソリューション部

03–5281–5311