トランプ大統領再選による脱炭素政策への影響とは

2025年12月23日

サステナビリティコンサルティング第1部

永井 祐介

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本稿は、『販促会議』2025年6月号 (発行:株式会社宣伝会議)に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

2025年1月にトランプ政権が誕生して以降、「パリ協定」からの再離脱や化石燃料増産への支援強化、気候変動政策の一部撤回など、米国の政策は大幅に変更されました。

こうした変化を捉えて、脱炭素の世界的な動きが止まるのではないか、これから「“脱”脱炭素」に向かうのではないかと疑問を持たれる方もいると思います。しかし、そんなに単純ではありません。トランプ政権誕生により変わるもの、変わらないものについて、世界と日本への影響を中心に考えてみます。

気候変動交渉の歴史から世界への影響を考える

まず、米国の「パリ協定」再離脱が脱炭素の世界的な動きに与える影響はどのようなものでしょうか。ここでは「パリ協定」と「離脱」の歴史を振り返ります。

大前提として、気候変動を防ぐには、世界全体の温室効果ガスの排出量を減らすことが必要です。そのため、世界は1992年に「国連気候変動枠組条約」、1997年に「京都議定書」に合意し、先進国から温室効果ガスの削減義務を負うことを決めました。そして2015年には、途上国も含む全ての国が温室効果ガスの排出削減に取り組む「パリ協定」に合意したという流れがあります。

こう書くと、世界各国が一丸となって前進してきたように見えますが、一概にそうとは言えません。温室効果ガスを排出する化石燃料の利用に制約を課すことは、エネルギー価格の上昇や経済成長の阻害要因になるとも考えられてきました。そのため、他国の取り組みが自国と比べて不十分であり不公平だと主張して気候変動対策の取り決めから離脱する、ということは、長年繰り返されてきたことなのです。

特に米国は、共和党政権が誕生する度に離脱し、民主党政権にて復帰して他国に取り組み強化を求める、ということを繰り返してきました。例えば2001年に米国共和党ブッシュ政権が「京都議定書」への参加を拒否しています(2017年には共和党トランプ政権が「パリ協定」から離脱。2021年に民主党バイデン政権にて復帰)。

今回の再離脱も、前進と停滞を繰り返してきた歴史に照らしてみると、想定内の出来事です。脱炭素社会の実現までに、きっと米国の離脱・復帰は何度も起こるでしょう。気候変動対策に取り組もうという世界的な潮流を変えるほどの影響はないのかもしれません。

脱炭素に取り組む理由から日本への影響を考える

ですが、世界的な潮流は変わらないとしても、一時的には、日本も脱炭素政策を中止するのではないかという疑問は残ると思います。ここでは、そもそもなぜ日本は脱炭素に取り組むのか、その背景から考える必要があるでしょう。

まず日本が脱炭素に取り組む理由の一つ目は、エネルギーの安定供給の実現です。これは、日本がエネルギーの大部分を他国から輸入する化石燃料に依存していることに関係しています。つまり、資源国や国際情勢が不安定になると、日本のエネルギー価格は高騰する恐れがあるということです。そこで日本は、省エネルギー、化石燃料調達国の多角化、エネルギー源の分散化などに取り組んできました。

2025年2月に策定した新たなエネルギー基本計画でも、2040年に向けて、再生可能エネルギーの最大限導入、脱炭素電源の最大限活用といった方針を定めています。これらの取り組みのうち、省エネや再エネなどは温室効果ガスの削減にもつながりますが、仮に脱炭素の優先順位が下がったとしても、エネルギー安定供給のための取り組みとして推進されていくと考えられます。

日本が脱炭素に取り組むもう一つの理由は、グリーン成長です。この背景にあるのは、「今後、世界中の国や企業が脱炭素に向けて動くのであれば、それをサポートする新技術やビジネスを先行的に確立した企業が大きなビジネスチャンスを得る」といった考え方です。欧州や米国バイデン政権も、こうした考えから脱炭素を経済成長の機会として推進し、日本でも新たな技術開発や社会実装を支援しています。

このように、日本が目指しているのは、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素の3つの同時実現です。トランプ政権誕生により脱炭素への取り組み強化を求める国際社会からの圧力が減少したとしても、日本はエネルギー安定供給やグリーン成長などのために、主要な対策を継続する可能性が高いと考えられます。

また、トランプ政権になったからといって気候変動がなくなるわけではありません。世界の平均気温上昇は今も続いています。今後も、気候変動の影響が指摘されるような大型台風や森林火災は増えるでしょう。米国の政権交代などにより、気候変動対策に対する機運が急上昇することもあり得ます。こう考えると、日本政府が方針転換をする可能性は低いのではないでしょうか。

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