バイオエコノミー戦略
から考えるバイオ燃料
の発展に向けた課題

2024年7月17日

サステナビリティコンサルティング第2部
持続型社会チーム

柴田 詩織

2024年6月に「バイオエコノミー戦略」(以下、「同戦略」)が策定された。同戦略は、バイオエコノミーの発展に向け、2019年策定の「バイオ戦略」を改定したものであり、これまで対象領域とされていなかったフードテックやバイオ燃料についても、今後拡大を目指すバイオエコノミー市場の一つとして取り上げられている。また、2023年12月にはGX投資の重点分野として持続可能な航空燃料(SAF)が取り上げられ、分野別投資戦略が公表されるなど、SAFやバイオ燃料開発・利用促進に向けた機運は着実高まっている。

しかしながら、バイオ燃料やSAFの原料生産については課題が多い。これら燃料の原料となる廃食油については、現在需要の高まりから供給がひっ迫しており、高値が続いている状況である。日本においては2022年に沖縄からの廃食油の輸出額及び輸出数量が過去最高に達しており、欧州においては廃食用油強盗も起きている状況である。一方で、植物油やトウモロコシ、サトウキビ由来のバイオエタノールに関しては、食料競合の問題があり、欧州においては、食料や飼料原料から作られるバイオ燃料やSAFについては制限が設けられている。このように、バイオ燃料やSAFの安定かつ安価な供給に向けた道のりは険しい状況にある。

こうした問題の解決のため、食料競合しない新たな作物の開発や栽培に、これまで農業と関わりがなかった企業も取り組み始めている。ただし、こうした新規参入企業の盲点となっているのは、苦労して目的作物を作出することが出来たとしても、石油製品や工業製品とは異なり、設備等投資直後から目的生産物を期待した量、質で生産するのはほぼ不可能であることだ。また、開始当初は計画通りに育てることができたとしても、天候不順や病虫害により、期待する収量が得られなくなるということは間々あり、計画していた生産量、延いては利益を得られない原因となる。

同戦略で言及されているとおり、環境や食料、健康等の課題解決のためにバイオテクノロジーやバイオマスを活用することは望ましい。その一方で、一般市民が受容できる価格かつ長期安定供給が出来なければ、既存製品の代替となり、広く社会に受け入れられることは難しい。こうした課題の難しさについては、過去に日本も経験している。2000年代初頭、バイオマス利用が大きく盛り上がり、バイオマスの利活用推進へ向け「バイオマス・ニッポン総合戦略」が策定された。これに伴い米や余剰農作物等を原料にバイオ燃料の製造、利用促進を目的とした事業が多く実施された。しかしながら、そのいずれも製造能力や製造コストが合わないとして、実証後の実用には至っていない。

このような課題を解決するためには、新規技術や産業のみに着目するのではなく、既存の産業では周知の事実を新規技術に適用することも求められると考える。バイオ燃料を例にとるならば、バイオ燃料市場の振興や効率的なバイオ燃料生産のための研究、技術開発は勿論重要だ。しかしながら、そもそも作物生産に係るリスクやコストは何なのか、それを回避するためには、どうすればよいのかという検討が抜け落ちていては、社会に実装されることはない。加えて、過去の政策で得た経験も踏まえた上で、原料生産から製品供給にわたるサプライチェーン全体で課題を整理し、実現可能性やその有用性を議論すべきである。そうした熟慮の上にのみ、同戦略でも言及されているような「市場間の相乗効果の発揮」や、「従来の市場を横断した領域に新たな市場をひらいていく」ことが達成できるのではないだろうか。

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