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1. はじめに
2025年2月、「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂(以下、GX2040ビジョン)」が閣議決定された。エネルギー安定供給確保、経済成長、脱炭素の同時実現を目指す長期戦略を示した資料であり、需給両面からGX製品等の普及を促進しようとしている点が特徴であろう。近年の国内GX政策はGX推進法やGX移行債に代表される通り、GX製品等の供給を支える対応が中心であったが、同ビジョンでは、これらの市場原理だけではカーボンニュートラル(以下、CN)の実現が難しい現状を踏まえ、購入側の企業がGX製品を選択する需要喚起策も重視している。今後、GX市場創造に向けた施策が講じられることが予定されるなか、本稿では、拡大が予想されるGX市場の獲得に向けて、企業が取り組むべき対応や当社の支援について紹介する。
2. GX2040ビジョンにおけるGX製品の需要喚起策
GX2040ビジョンでは、GX製品の需要喚起策として「市場環境整備」と、「評価指標の整備」を両輪で進めていくことが言及されている*1。つまり、GX製品の価値(GX価値)を見える化したうえで、供給者・購入者にインセンティブを与えようとする形が採られている点が特徴である。GX価値を見える化するための指標としては、カーボンフットプリント(以下、CFP)や削減貢献量や削減実績量が位置付けられており、例えば、投資促進策におけるプロジェクト選定プロセスでの活用*2や、公共調達における活用*3、民間企業における調達に関連した活用*4など、政策の中で“GX価値の見える化”を積極的に活用しようとする方針が提示されている。
既に実装段階に入っている分野もあり、例えば鉄鋼業界では2025年1月に「GX推進のためのグリーン鉄研究会」の取りまとめが行われ、その直後に2つの動きがあった。1つはグリーン購入法基本方針の閣議決定であり、もう1つはクリーンエネルギー自動車導入促進補助金に関するものである。前者では「削減実績量が付され、かつ、カーボンフットプリントが算定・開示された鉄鋼」がよりよい評価を得る形に変更になり、特に公共調達においてグリーン鉄を積極的に導入していく方向性が示された。後者では、グリーン鉄の採用を行う自動車会社のクリーンエネルギー自動車(BEV、PHEV、FCV)に対して、補助金の積み増しを行うことが示されている。
建築物においても同様に検討が進められており、2024年11月には内閣官房と国交省が事務局を務めつつ、金融庁、文科省、農水省、経産省、環境省がメンバーとして連なる「建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議」が立ち上がった。同会議では「2028年度を目途に建築物LCAの実施を促す制度の開始を目指す」ことが掲げられており、GX2040ビジョンでもグリーン建材の積極的な調達に向けた言及があることから、今後、何らかの形で需要促進に向けた施策が講じられることになるだろう。
自動車や建築物は、そのサプライチェーンに関係する業界が鉄鋼業界以外にも幅広く、すでに民間企業の間では、鉄鋼以外の多様な業界のサプライヤーがCFP情報の提供を行っていることから、鉄鋼以外の環境配慮型の材料についても、“GX価値の見える化”と政策との連携が進むことも予見される。
3. 民間企業において取り組むべき対応
GX2040ビジョンでは“GX分野は需要が顕在化しづらく、不確実性も高い”ことを課題として挙げている。だからこそ、需要創出が重要と位置付けており、グリーン鉄では既に施策が講じられているように、今後も多くの分野において各種施策が実施されることが予想される。こうした傾向を踏まえ、民間企業においては、事業機会の拡大に向けて自社製品・サービスを“GX価値”の観点から捉え直してはどうだろうか。自社の属する業界の動向のみならず、サプライチェーン全体まで視野を広げた場合に、GX価値の提示が求められる蓋然性が高いのか、GX価値によって他社と差別化できるのか、補助金を獲得しやすくなる可能性はないか等の検討を行い、GX価値の訴求が有効と判断できれば、CFPや削減貢献量などの指標を用いた「GX価値の見える化」が重要となる。そのうえで、見える化したGX価値をさらに高めるために、GHG排出量の大きい工程への省エネ設備の導入、再生可能エネルギーへの切り替え、原材料の調達先変更、サプライヤーとの協働による排出削減など、具体的な施策の検討・実行を進めていくことが望ましい。
当社では、国内においてCFP算定の黎明期から携わっており、多くの企業への支援実績、幅広い産学へのネットワークを有している。このような知見・経験を活かしつつ、日本のGX・CN実現を支援するパートナーとして、革新的な脱炭素技術の導入の後押し、合理的なCFP活用の推進への貢献、デジタル化を活用したソリューション提供、金融機関との連携を活用した総合ソリューションの提供を目指していく。
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*1これら以外にも、成長的カーボンプライシング構想による対応が重視されている。
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*2国が実施する設備投資補助金や技術開発補助金等における活用を示唆していると推察される。
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*3例えば、グリーン購入法に基づく調達や公共工事での公共調達におけるGX製品等の積極調達への言及がある。
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*4例えば、GX製品等を積極的に採用する方針を宣言する「GX率先実行宣言」を行った企業に対して、GX推進のための政府支援を優先的に適用することへの言及がある。
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