12月中旬時点の「みずほGDPナウ」は10~12月期GDPを前期比+0.51%と予測
景気動向をいち早くタイムリーに把握したいというニーズを踏まえ、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、浦沢(2023)等を参考にGDPナウキャスティング(GDPに先行して公表される経済指標を活用したGDP成長率のリアルタイム予測)に取り組んできた。太田他(2024)では、みずほリサーチ&テクノロジーズが構築したダイナミック・ファクター・モデルによるGDPナウキャスティングについての技術概要や予測パフォーマンス等を解説し、使用データがそろえば民間予測平均並みの予測精度が確保できることを示した。その上で、酒井他(2024)、酒井・西野(2024a)、酒井・西野(2024b)、酒井・西野(2025a)、酒井・西野(2025b)、酒井・西野(2025c)、酒井・西野(2025d)、酒井・今井(2025a)、酒井・今井(2025b)、酒井・今井(2025e)、酒井・今井(2025f)では、月次経済指標を用いたGDPナウキャスティングの結果を紹介してきたところである。
本稿では、太田他(2024)で説明したモデルを用いて、12月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた10~12月期GDPのナウキャスティングの結果を紹介する。米アトランタ連銀が発表するGDPナウの日本GDP版のようなものであるが、本稿では「みずほGDPナウ」と呼称することとしたい。使用データとしては、12月中旬までに得られる10月分の鉱工業生産、消費活動指数、所定外労働時間、消費財出荷指数、第3次産業活動指数、11月分の中小企業景況調査(売上げ見通しDI)を用いている(太田他(2024)が説明しているとおり、ステップワイズ法で使用データを採択している1)。
図表1のとおり、モデルによる12月中旬時点における10~12月期実質GDPの推計では前期比+0.51%(年率+2.05%)とプラス成長が予測された。7~9月期の実質GDP(2次速報値)はマイナス成長となったが、服部(2025)で述べられているように一時的な下押し要因が大きかった。今回の10~12月期成長率の予測とあわせ、均してみれば、2025年下期の日本経済は実勢として緩やかな回復基調が継続していると評価できるだろう。なお、図表1のとおり、東京財団政策研究所による12月15日時点のナウキャスティングや、日本経済研究センターが公表した12月のESPフォーキャスト調査(回答期間は12月2日~12月9日、回答者は37名)における民間予測値平均においても10~12月期実質GDPはプラス成長が予測されている。モデルの予測値はこれらの予測値より強い回復を示唆しているが、後述するようにインバウンド需要では日中関係悪化を受けた下振れが予想され、モデル予測値は今後の更新により小幅に下方改定される可能性ある。
「みずほGDPナウ」については、12月中旬までに公表された月次経済指標を使って、10~12月期のGDP1次速報値の予測値を2回更新した。予測値アップデートの過程と、各月次経済指標の寄与度を示した結果が図表2である。太田他(2024)で示した枠組みと同様、図表2の折れ線が各時点における実質GDP成長率の予測値であり、月次の経済指標が新たに公表されたり更新されたりすることで予測値がアップデートされる。棒グラフは、予測値の改定幅、すなわち前回予測との差を各月次経済指標で寄与度分解したもので、寄与度を合計するとモデル予測値の改定幅と一致する。12月1日時点では10月分の消費財出荷指数や鉱工業生産の増加がプラスに寄与した一方、12月15日時点では10月分の所定外労働時間の減少や第3次産業活動指数(広義対個人サービス)の低下がマイナスに寄与し、成長率予測値がやや下方改定された格好だ。
図表1 7~9月実質GDPの予測値
- (出所)内閣府「四半期別GDP速報」、東京財団政策研究所「GDPナウキャスティング」、日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表2 予測値の改定過程と各経済指標の寄与度
- (注)モデル予測値は、各時点で知り得るデータを用いて推計した実質GDP成長率予測値。棒グラフは各経済指標の予測値に対する寄与度を示す。各経済指標の確報値による改定も寄与度変化に反映されている
- (出所)内閣府等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
前述の通り、7~9月期の実質GDPは、住宅投資、輸出、在庫で一時的なマイナス要因が重なったことでマイナス成長となったものの、内需の柱である個人消費が前期比プラスを維持したことを踏まえると、日本経済の緩やかな回復基調は腰折れていないと評価している。10~12月期については、7~9月期に生じた一時的なマイナス要因がはく落することに加え、インフレ率が徐々に減速して個人消費が回復することで、実質GDP成長率はプラスに回帰する可能性が高い。
実際、輸出数量では回復の動きがみられる。対米輸出数量はトランプ関税を受けた駆け込み輸出の反動により落ち込んでいたが、10月は自動車を中心に増加している。こうした動きを映じて、10月の鉱工業生産指数も7~9月期平均対比+2.6%と上昇した。住宅投資についても、10月の新設住宅着工(季節調整済年率)は80.3万戸、7~9月期平均対比では+12.0%と、一時要因がほぼはく落したことを確認する結果だった。7~9月期に生じた着工減の動き(新築住宅に対する省エネ基準適合の義務化を前にした駆け込みの反動)は、一巡しつつあると言えるだろう。
また、個人消費については、緩やかながらも回復傾向が継続するだろう。実質賃金の改善が回復をけん引する要因になるとみている。人手不足感の強まりに加えて、米国関税政策の悪影響の中でも企業業績が持ちこたえている状況を受けて、冬のボーナスは増勢を維持する見込みだ。物価面では食料インフレが徐々に鈍化することが見込まれ、実質賃金の改善に寄与するだろう。帝国データバンクによる「「食品主要195社」価格改定動向調査」(2025年12月調査)では、2026年1~4月の飲食料品値上げ見込みが1,044品目と、2025年同時期の4,417品目に比べて減少しており、値上げペースが徐々に落ち着いていくことが示唆される。その他の消費関連指標をみても、10~11月の消費者態度指数や景気ウォッチャー調査におけるマインド指標が改善傾向で推移している。インフレ率の減速に加え、株高による消費者マインドの改善が個人消費の押し上げ要因になろう。
ただし、足元の財輸出や住宅着工の回復は、日本経済の力強い拡大を示唆するものではない点に留意が必要だ。財輸出については、依然として米国は相互関税15%・自動車関税12.5%(既存税率含めて15%)の対日追加関税を課している状況であるから、足元の動きはあくまで一時的な下押し要因のはく落によるものと捉えるべきで、財輸出が景気をけん引するほどの堅調な増加ペースに転じていく絵姿は期待しにくい。住宅投資についても、日銀による利上げを受けて住宅ローン金利が上昇しつつあること等を踏まえれば、財輸出と同様、力強い伸びは見込みづらい。
また、日中関係の深刻化によるインバウンド需要の落ち込みも懸念材料だ。高市総理の「台湾有事」に関する国会答弁に中国政府が反発し、中国側が日本産水産物の輸入を事実上停止したほか、中国国民に対し訪日旅行や日本留学を回避するよう注意喚起している。2012年の尖閣諸島を巡る日中関係悪化時は、中国・香港からの訪日外客数が前年比▲25%程度減少した。今後の動向については現時点では不確定性が大きいものの、10~12月期のサービス輸出には一定程度の下押し圧力がかかるとみられる。訪日外客数は「みずほGDPナウ」の使用データに含まれていないが、第3次産業活動指数等の月次経済指標を通じ、今後のモデル予測値が下方改定される要因になる可能性がある。
以上を踏まえ、「みずほGDPナウ」の推計結果からも示唆されるとおり、10~12月期の日本経済はプラス成長となる可能性が高いと予測している。ただし、前述したように、財輸出や住宅投資が力強い増加基調に転じていくわけではないことや、日中関係悪化によるインバウンド需要の落ち込みといったマイナス材料も考慮すると、実勢としての日本経済の回復は緩やかなペースにとどまるだろう。
次回の「みずほGDPナウ」の推計・発信については、11月分の鉱工業生産や消費活動指数の結果等を踏まえて来年1月中旬頃のレポート発刊を予定している。トランプ関税の影響がデータとして顕在化しつつあり、日中関係悪化に起因した影響にも注目が集まる中、ナウキャストによる景気動向の把握はより重要なものとなるだろう。
[参考文献]
浦沢聡士(2023)「GDP ナウキャストと景気判断~景気判断実務における GDP ナウキャストの活用に向けて~」、内閣府経済社会総合研究所「経済分析」第208号
太田晴康・仲山泰弘・酒井才介・松浦大将・越山祐資・西野洋平(2024)「「みずほGDPナウ」の推計~DFMを用いた日本のGDPナウキャスティング~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年8月30日
服部直樹(2025)「年率▲2.3%と1 次速報から下方修正(7~9 月期2 次QE)」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『QE解説』、2025年12月8日
酒井才介・今井大輔(2025a)「「みずほGDPナウ」(25年7月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.05%(年率▲0.20%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年7月15日
酒井才介・今井大輔(2025b)「「みずほGDPナウ」(25年9月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.01%(年率▲0.04%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年9月17日
酒井才介・西野洋平・太田晴康・仲山泰弘(2024)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~9月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.0%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年9月19日
酒井才介・西野洋平(2024a)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~10月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.1%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年10月18日
酒井才介・西野洋平(2024b)「「みずほGDPナウ」(24年12月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比▲0.1%(年率▲0.3%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年12月18日
酒井才介・今井大輔(2025a)「「みずほGDPナウ」(25年1月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比+0.2%(年率+0.8%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年1月22日
酒井才介・今井大輔(2025b)「「みずほGDPナウ」(25年3月中旬時点)~1~3月期GDPは前期比+0.07%(年率+0.28%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年3月19日
酒井才介・今井大輔(2025c)「「みずほGDPナウ」(25年4月中旬時点)~1~3月期GDPは前期比+0.75%(年率+3.05%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年4月24日
酒井才介・今井大輔(2025d)「「みずほGDPナウ」(25年6月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.26%(年率▲1.05%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年6月16日
酒井才介・今井大輔(2025e)「「みずほGDPナウ」(25年7月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.05%(年率▲0.20%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年7月15日
酒井才介・今井大輔(2025f)「「みずほGDPナウ」(25年9月中旬時点)~7~9月期GDPは前期比▲0.01%(年率▲0.04%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年9月17日
酒井才介・今井大輔(2025g)「「みずほGDPナウ」(25年10月中旬時点)~7~9月期GDPは前期比▲0.18%(年率▲0.71%)と推計」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年10月17日
- 今後のモデルの予測精度のパフォーマンス評価等を踏まえ、採択するデータについては見直しを行う可能性がある。

