Mizuho RT EXPRESS

期限が迫るEU復興基金

基金の引き出し加速が投資押上げ要因に

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投資主導の成長が見込まれる2026年の欧州経済

2026年の欧州経済は、米国の高関税政策による輸出の伸び悩みが下押し要因になるものの、内需の増加が景気を押し上げると予想される。

内需の成長の主因は投資(総固定資本形成)の増加である。投資増加の要因としては、ドイツで憲法改正により創設された5,000億ユーロ(同国GDPの約12%)のインフラ投資向け特別基金や、安全保障環境の変化を受けた欧州各国の防衛費増に注目が集まっているが、NextGenerationEU(EU復興基金)の影響も見逃せない。

本稿では、EU復興基金の各国の受け取り状況などを整理するとともに、今後の投資押し上げ余地について考察する。

復興基金の引き出し加速が投資を押し上げ

そもそもEU復興基金は、約3,590億ユーロの返済不要の給付と約2,780億ユーロの融資で構成される総額約6,370億ユーロ(EUのGDPの約3.5%)のRecovery and Resilience Facility(RRF)を中核とし、EU加盟国のコロナ・ショックからの経済的復興を目的に創設された。各国はデジタル化やグリーン化、格差縮小、経済成長等を実現するための改革や投資の計画であるNational Recovery and Resilience Plan(NRRP)を策定し、その達成状況に応じて資金を受け取れる仕組みになっている1

復興基金の主目的はコロナ・ショックからの経済復興であるため、コロナによる経済的打撃が大きかったサービス業が経済に占める割合が高い南欧諸国やEU域内で相対的に経済力が低い東欧諸国に重点的に資金が配分されており(図表1)、こうした国の経済押し上げに寄与してきた。図表2にはRRFの割り当て金額規模(各国GDP比)と総固定資本形成の増減率(直近4年半)の関係をプロットしているが、割り当て額が大きい国ほど投資が伸びている傾向が見て取れる。このところ、南欧や東欧諸国は欧州の中でも高い経済成長が続いているが、この背景にはRRFを活用した各種の投資の進展があるとみられる。

図表1 RRF割り当て額対GDP比

  • (出所)欧州委員会、Eurostatより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 RRF割り当て額対GDP比と
総固定資本形成の変化率

  • (注)縦軸は2021年1~3月期から2025年7~9月期までの変化率
  • (出所)欧州委員会、Eurostat より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

NRRPの投資・改革目標達成期限は2026年8月末、RRF資金の引き出し期限は2026年末と規定されており、それを過ぎると割り当てられた資金は失効するが、本稿執筆時点で資金の引き出しは全体の約59%にとどまっている。EU加盟国全体の資金受け取り実績を踏まえれば、期限までに資金を全額引き出すには、これまでの3.4倍程度のペースでの引き出しが必要と計算され、復興計画の遂行と資金引き出しのスピードアップが求められる状況だ(図表3)。欧州委員会も未受領資金の多さを問題視しており、2025年6月にNRRP見直し等の内容を含む資金引き出し加速を促すガイダンスを公表した(図表4)。

図表3 RRF引き出し実績

  • (出所)欧州委員会より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 EU復興基金執行加速に向けたガイダンス

  • (出所)欧州委員会より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

ガイダンスを受けて各国は復興計画の修正等を進めていることから、来年は資金引き出しの加速が見込まれる。国別に未受領金額(GDP比)を確認すると、もともと割り当て額が多かった南欧や東欧諸国の規模の大きさが目立つ(図表5)。これらの地域では、資金引き出しの加速を背景に来年も投資の増加による経済成長が見込まれる。

図表5 RRF未受領額対GDP比と
期限までの全額受領に必要なRRF引き出しペースアップ

  • (出所)欧州委員会、Eurostatより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

復興基金の効果は2027年以降も継続する見込み

以上のように、RRFは来年末に引き出し期限を迎えることから、今後資金の受け取りが加速し、投資を中心に来年の経済押上げ要因になるとみられるが、復興基金による経済効果は引き出し期限終了後も続く可能性が高い。

まず、投資自体は基金の引き出し期限後に進捗するものも多く、それが2027年以降の経済押上げ効果につながることが予想される。また、前述のガイダンスでは、基金の一部について、民間投資を促進するための金融手段や各国の開発銀行等への資本注入に充てることを認めている。こうした形での基金の活用が進むことで、2027年以降も金融機関による融資を通じた経済押上げ効果が続く可能性がある。

人口減少等により潜在成長率の低下が懸念される欧州にとって、RRFを活用した投資や改革の実施は資本ストックの増強や生産性の向上を実現する極めて重要な機会だ。活用の仕方次第では、エネルギー高で打撃を受けた産業競争力の強化につなげることもできるかもしれない。短期的な経済成長のみならず中長期的な成長性をも左右するだけに、各国が期限までに確実に資金を引き出し、それを成長力向上に資する投資や改革に活かせるかが注目される。うまく活用できた国ほど、その後の経済パフォーマンスが改善することも想定され、将来のEU経済動向や構成各国の相対関係に影響を及ぼす可能性があろう。

  1. 欧州委員会は、各国がRRF総割当額の少なくとも37%をグリーン化事業に、同20%をデジタル化事業に充てることを規定している

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