2026年春闘では3年連続となる5%台の賃上げ率実現へ
労働組合は2026年春の賃上げ交渉に向け、2025年に続き高い賃上げ要求の方針を公表した。インフレによる実質賃金の目減りを取り戻すための強気の要求である。一方、企業側も人手不足が早期に解決する目途が立っておらず、経営環境さえ問題なければ、組合の要求に応じる可能性が高いとみられる。企業にとっては、賃上げが単なる「コスト」ではなく「人への投資」として位置づけられており、こうした企業の「賃上げノルム」の変化も賃上げ継続の大きな要因になっていると考えられる1。
ポイントになるのは、企業が組合要求に応えて26年も高い賃上げを継続するための経営環境が整っているかという点である。結論を先取りして言うと、企業の景況感や業績見通しは良好であり、高水準の賃上げを継続し得る経営環境は整っていると評価できる。本稿では、そうした企業の状況を踏まえ、2026年の春闘賃上げ率について、厚生労働省が集計する主要企業ベースで5.5%(25年:5.52%)、連合の集計ベースで5.2%(25年:5.25%)と、3年連続の5%台で妥結する可能性が高いと予想する(図表1)。以下では、26年の春闘を巡る状況についてみていく。
図表1 春闘賃上げ率
- (注)予測値は日銀短観の雇用人員判断DI、売上高経常利益率の年度計画を用いた試算。試算では24年以降の構造変化を考慮
- (出所)厚生労働省、連合より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
人手不足を背景に、強気の賃上げ要求を掲げる労働組合
2026年春闘に向け、労働組合側は総じて強気の賃上げ要求を掲げている(図表2)。連合は「ベア3%以上、定昇相当分を含む賃金上昇率は5%以上」を要求の目安とし、5%の実現にこだわる姿勢を打ち出した(図表3)。さらに中小企業については6%以上、非正規雇用者については7%など高い目標を提示している。産業別でも高水準の要求が目立つ。金属労協は「すべての組合で1万2,000円以上の賃上げにこだわる」とし、25年並みの要求を行う方針である。中小製造業の比重が大きいJAMは格差是正を強く意識し、昨年を上回るベア月額1万7,000円(5%)以上を掲げている。このように、年末にかけて公表された労働組合の方針は、2025年並みの高い賃上げを維持しつつ、一部ではさらなる上積みを狙う強気の内容となっている。
図表2 各労組の2026年春闘に向けた方針
- (注)赤色は2026年要求水準が2025年を上回る内容
- (出所)各労組資料、報道より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表3 連合方針と春闘賃上げ率
- (出所)連合より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
強気の要求を支える最大の材料は、企業が直面する深刻な人手不足である。日銀短観(2025年12月)の雇用人員判断DI(全産業・全規模)は、人手不足を表すマイナスの幅がバブル期以来の水準まで拡大している(図表4)。雇用人員判断DIの動きを景気要因と非景気要因に分解すると、2010年代以降は景気要因よりも非景気要因によるマイナス寄与が大きくなっている。少子高齢化による生産年齢人口の減少や、働き方改革による労働時間の短縮といった構造的な変化が主に影響していると考えられ、人手不足は今後も解消しない可能性が高い。深刻な人手不足のもとで、もはや企業は採用・定着のために賃金条件を引き上げざるを得ない。こうした状況を踏まえれば、2026年の春闘で高い要求が出ることは自然な帰結だ。
労組側の焦点は賃上げの有無から、賃金上昇率がインフレを上回るか、つまり実質賃金が上昇するような賃上げ幅になるかに移ってきている。連合は、2026年春闘を「実質賃金を1%上昇軌道に確実に乗せることが最優先」としており、これを今後の新たな「賃上げノルム」として定着させる方針を明確にしている。その背景には、過去数年間における実質賃金の低迷がある。春闘賃上げ率は2023年以降上昇しており、それに伴って名目賃金も高まったが、物価上昇をカバーしきれておらず、実質賃金の水準は切り下がったままとなっている(図表5)。
2026年は、これまでインフレ率を押し上げてきた食料・エネルギーなど生活必需品の価格上昇が一服することが見込まれる。そのため、25年同様の高い賃上げで妥結できれば、実質賃金が持ち直す可能性が高い。実質賃金の改善を起点とした個人消費の回復を実現するうえで、26年春闘の意義は大きいと言える。
図表4 労働市場のひっ迫状況(日銀短観)
- (注)景気要因は業況判断DIを用いた推計値(推計期間:1975~2013年)。非景気要因は景気要因で説明できない部分
- (出所)日銀より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表5 実質賃金の推移
- (注)名目賃金は共通事業所ベースの現金給与総額、物価要因はCPI総合。見通しは、みずほリサーチ&テクノロジーズ予測
- (出所)厚生労働省、総務省より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
企業側も賃上げ定着に前向きな姿勢。経営環境も総じて良好
こうした労組の要求に対し、経営者からも「賃上げの継続」と「実質賃金の上昇」が必要という趣旨の発言が相次いでおり、企業側も賃上げ継続に前向きな姿勢をみせている。経団連は、2023年を賃上げモメンタムの「起点」、24年を「加速」、25年を「定着」と整理したうえで、2026年春闘は「さらなる定着」を打ち出す方針だ。物価高が続くなかで、複数年度にわたり賃上げを継続する必要性を十分に認識している証左といえよう。
24年、25年に続いて、26年も高い賃上げを実現するためには、それを可能にする経営環境が必要だ。日銀短観(2025年12月)によれば、企業の景況感は良好さを維持していると評価できる(図表6)。業況判断DIをみると、非製造業では大企業が+34、中小企業が+15と、過去と比較して高水準で推移している。製造業は大企業が+15、中小企業が+6と非製造業ほど高くはないものの、トランプ関税等の下押し要因があるなかでまずまずの水準を維持している。企業の景況感は、賃上げ継続に向けた大きな障害にはならないだろう。
また、短観における企業の業績見通し(12月調査時点の2025年度計画)をみると、売上高は全規模・全産業ベースで前年度比+1.9%とプラスを維持する見通しである。経常利益は同▲2.7%と12月調査時点では減益計画になっているが、足元の良好な業況を考えれば今後は例年どおり上方修正される可能性が高く、最終的に前年度並みの増益で着地すると見込まれる。さらに、売上高経常利益率は、大企業・製造業が10.77%、同・非製造業が8.52%と高水準を維持する見通しだ(図表7)。中小企業の利益率見通しは大企業ほど高くないものの、製造業、非製造業ともに高水準の賃上げを行うなかで前年度並みの水準を確保すると予想されている。これらの点を踏まえると、企業業績の面からも26年は賃上げモメンタムが維持される可能性が高いと考えられる。
このように、構造的な人手不足のもとで、労働組合が実質賃金の改善を目指し高い賃上げ要求方針を示していること、企業の景況感・業績見通しが総じて良好であり、賃上げの継続が可能な経営環境にあると評価できることを踏まえ、2026年の春闘では3年連続となる5%台での賃上げ妥結が実現する可能性が高いと予想する。
図表6 企業の景況感
- (注)日銀短観の業況判断DI
- (出所)日銀より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表7 企業の収益計画(売上高経常利益率)
- (注)日銀短観(各年度・12月調査)の売上高経常利益率の年度計画
- (出所)日銀より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
- 経団連は、2025年1月に公表した25年版「経営労働政策特別委員会報告」(経労委報告)において、25年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスとして、「各企業には、賃金引き上げと総合的な処遇改善を「人への投資」として明確に位置付けた「賃金・処遇決定の大原則」にのっとった積極的な検討と実行を求めたい」としている。
