中国はデュアルユース品の輸出規制を強化。対中レアアース輸入停止への懸念高まる
中国政府は2026年1月6日、デュアルユース品(軍民両用品)について日本への輸出管理を厳格化すると発表した。2025年11月以降、日中関係は悪化しており、中国政府はこれまでも日本への渡航自粛を呼びかけるなど経済的な圧力を強めている。今回のデュアルユース品輸出規制措置もこうした圧力の一環と考えられる。
中国政府はかねて安全保障貿易管理の観点から「輸出管理法」(2020年12月施行)やその下位条例である「両用品目輸出管理条例」(2024年12月施行)などの法令を整備1し、これらの法令に基づいてデュアルユース品の輸出管理を強化してきた。2024年12月以降はレアメタルの対米輸出管理を強化するなど、デュアルユース品や同技術における競争力を梃子として国家間の戦略的状況を自国優位に進めようとする動きが鮮明化している。デュアルユースに該当する品目や技術については中国商務部が「両用品目輸出管理条例」に基づくリストを公表している2が、今回の措置でどのような品目が規制対象に該当するのかは具体的に発表されていない。結局、個別品目の該否は中国当局の判断に依存しており、軍事転用可能と認められれば当該輸入が止められるおそれが強まったということしか分かっていない状況だ。
かかる中、とりわけ幅広い製品の原材料に使われるレアアース(希土類)がリストに含まれ、同輸出の実質的停止というカードを中国側が有していることから、中国の対応次第では本邦製造業の生産が広範に滞ることが懸念されている(図表1)。2010年には中国からのレアアース輸入がほぼ完全に停止し、日本の製造業生産が大きく下押しされたこともある(次節で詳述)。仮に中国からのレアアース輸入が停止すれば、永久磁石や自動車排気ガス触媒、磁気メモリ、各種合金などの生産に悪影響をもたらすことが見込まれ、自動車や機械関係など国内の生産シェアが大きい製品を中心に多大な打撃を受ける可能性がある。
図表1 レアアースの例と主な用途
- (出所)各種資料より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
報道によれば、すでに中国側では輸出許可審査が厳格化している模様であり、レアアース輸出は制限されつつある可能性がある。今後、日本経済にどの程度の影響が生じるのだろうか。以下本稿では、中国からのレアアース輸入が停止した場合のGDPの下押し影響を示し、当面の展開について考察する。
2010年のレアアース輸出制限は日本のGDPを▲0.25%程度押し下げた可能性
今回のレアアース輸出制限による経済影響規模を考えるにあたり、2010年に対中レアアース輸入が停止した際の影響を振り返ってみたい。当時レアアース輸入が停止した背景には、同年9月に発生した尖閣諸島沖での漁船衝突事件を受けた日中関係の悪化があったとされている。中国政府は公式には輸出停止を認めていないものの、通関手続きの遅延などを通じて日本向け輸出が滞り、対中レアアース輸入数量は同年11月にかけて8月比▲92.3%と大幅に減少した(図表2)。
日本は代替調達策を模索し、中国以外の調達先から一定程度追加輸入することができたものの、対中調達減少分を埋め合わせるには全く足りなかった。当時、日本のレアアース調達に占める中国比率は約9割と、ほぼ完全に中国に依存していたためだ。
筆者の試算では、レアアース輸入減を受けた生産減少により、2010年のGDPは▲0.25%程度下押しされた(図表3)。品目別では特に自動車、自動車部品、機械関連で減産圧力が大きかったとみられ、生産下押し幅はそれぞれ▲15.3%、▲10.1%、▲2.4%であったと推定される。
図表2 日本のレアアース輸入数量
- (注)希土金属(HSコード:280530000)、酸化セリウム(同:284610010)、セリウム化合物(同:284610090)、酸化イットリウム(同:284690210)、酸化ランタン(同:284690220)、その他化合物(同:284690290)、フェロセリウム(同:360690000)について、純分換算したうえで合計
- (出所)財務省、JOGMECより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表3 2010年のレアアース輸入減によるGDPと主要財生産に対する下押し圧力
- (注)パネル回帰モデルにより各品目の影響を推定したうえで、産業連関表等を用いてGDPの下押し圧力を算出。レアアース輸出制限の影響を受けた可能性の高い品目群を特定したのち、2010年10・11月に1、それ以外の時点で0を取るダミー変数の係数を各品目における影響とした
- (出所)みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
なお、2010年10・11月のレアアース輸入は大幅に減少したものの、12月には輸出制限前の水準を回復しており、当時の輸出制限は短期間にとどまった3。もちろん、仮に輸入停止期間が半年、1年と長期化していたならば、GDPへの下押し影響がさらに大きくなっていたことは明白である。
中国からのレアアース輸入停止が1年続けばGDPを▲0.9%程度下押しと試算
上述した2010年時の経済影響をベースに、今般の輸出規制措置によって中国からのレアアース輸入が停止した場合の日本経済への影響を考えてみよう。
試算にあたっては以下の仮定を置いた。第一に、議論を単純化するため、対中レアアース輸入が100%停止すると仮定してインパクトを計算した(輸出可否は毎回の判断となるため、実際に輸入が完全停止する可能性は高くない)。第二に、同様に単純化のため、中国以外からのレアアース輸入は変化しない(代替調達はなし)と仮定した。第三に、2010年以降日本はレアアース調達先の分散化を図っており、対中輸入依存度はやや低下している(2010年:9割程度、2024年:7割程度)。この点は、輸入停止にともなう下押し影響を幾分緩和するものと想定した。
対中レアアース輸入が停止する期間の想定ごとに、①3カ月停止、②6カ月停止、③1年間停止という3つのシナリオを考え、それぞれのGDP影響をみていこう(図表4)。
まず、輸入停止期間が3カ月程度となるシナリオ①では、備蓄の活用により深刻な供給途絶を回避できる公算が大きい。図表5に示すように、現在の国家備蓄目標は国内需要の60日分を基本としつつ、地政学的リスクや産業上の重要性が高い鉱種をより長くするなど鉱種・品目毎にメリハリをつけた目標が設定されている(具体的な日数は非公表)。米中対立等を背景にレアアースを含む重要鉱物の供給を巡る不確実性は昨今大きく高まっており、重要鉱物の供給途絶が経済安全保障上の重大なリスクとして認識されてきている。これを踏まえればレアアースの国内備蓄は民間部門を含めて厚めに積み上げられているとみるのが自然であり、輸入停止が3カ月程度であればGDPへの影響は限定的だろう4。一方、輸入停止が3カ月を超える場合は備蓄が払底し、経済への下押し圧力は徐々に強まる可能性がある。輸入停止期間が6カ月の場合(シナリオ②)のGDP影響は▲0.3%程度、1年の場合(シナリオ③)のGDP影響は▲0.9%程度になる計算だ。
図表4 対中レアアース輸入停止時のGDP影響
- (注)政府・民間合わせたレアアース備蓄を3カ月分、レアアース輸入停止期間における中国からの同輸入数量をゼロと想定。2010年のレアアース輸入停止時の生産への影響、およびレアアースの対中輸入依存度(2010年、6年)をもとに試算
- (出所)財務省、JOGMECより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表5 国家備蓄目標の考え方
- (出所)財務省、JOGMECより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
もっとも、上述の試算値は幅をもって見る必要がある。過小推定・過大推定両方あり得るが、どちらかと言えば過大推定である可能性を指摘しておきたい。中国からの輸入が途絶しても、2010年と同様、ベトナムなど中国以外の国からの輸入を拡大できる可能性がある。上述の試算は中国以外からの代替調達による輸入増加を加味していないため、GDPへの下押し圧力を緩和する要因になると考えられる。また、上記試算では国内備蓄を約3カ月分と想定したが、実際の備蓄が3カ月を上回る可能性は相応にあろう。そのほか、レアアースの使用効率の向上や代替素材の活用なども、試算値対比で実際の経済影響が小さくなる要因になる。
なお、過小推定である可能性としては、日本の生産構造変化が挙げられる。2010年当時と比較すると、EVなど特定の先端分野を中心にレアアース依存度が高まっている可能性があるからだ。その場合は想定以上に生産活動への制約が強まり、試算値より実際の経済影響が大きくなる要因となる。
企業は日中関係悪化局面の長期化も視野に入れて対応を
先行き不透明感は強いが、最後に日中関係を巡る今後の展開について簡単に考察しておきたい。
2010年当時は同年11月に開催されたAPEC首脳会合で日本側から中国側へ事態の改善を求め、その後レアアース輸入は徐々に回復した。輸入停止から再開まで2カ月程度であったことを踏まえると、今回も数カ月以内に事態が好転する可能性はある。現時点では当時のような大きな対話の機会は予定されていないものの、実務者レベルで接触が試みられれば、日中対話の糸口が掴めるかもしれない。
とはいえ、上記は希望的観測に過ぎず、一定の緊張状態が長期化するシナリオも念頭においておく必要があろう。仮に今回も11月に中国・深圳で開催されるAPEC首脳会合まで対話の機会が得られないとすれば、日本は10カ月強の間輸入停止リスクにさらされ続けることになる。いずれにせよ、当面、日本企業は対中リスクが長期化する可能性を踏まえた対応を余儀なくされよう。
[参考文献]
高木誠司(2023)「2010年レアアース輸出停滞等を振り返って中国を考える」、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、2023年12月22日
経済産業省(2020)「レアメタル備蓄制度の見直しについて」第29回 総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会、2020年7月1日
経済産業省(2020)「第29回 総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会 議事録」、2020年7月1日
- 本文に例示している輸出管理法以前より、中国は戦略的物資の輸出管理を進めてきた。関連する法令には「両用物質および技術輸出入許可管理弁法」(2006年1月施行)などがある。
- https://www.mofcom.gov.cn/zcfb/zc/art/6/art_1581bc90caa74fb097052505eb4dd040.html
- 高木(2023)は、日本政府高官が中国政府に問題解決を要請したことが輸出制限緩和の契機となったとしている。当時の経験を踏まえると、今般においても日中政府高官が議論・交渉できる環境が整えば、早期問題解決の糸口になる可能性がある。
- 無論、レアアースの備蓄量については、供給途絶時の対応能力が諸外国に推察されることを避ける観点から、具体的な数量や目標水準は公表されていない。そのため、実際の備蓄量については不明瞭である点には留意されたい。
