3月中旬時点の「みずほGDPナウ」は1~3月期GDPを前期比+0.85%と予測
景気動向をいち早くタイムリーに把握したいというニーズを踏まえ、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、浦沢(2023)等を参考にGDPナウキャスティング(GDPに先行して公表される経済指標を活用したGDP成長率のリアルタイム予測)に取り組んできた。太田他(2024)では、みずほリサーチ&テクノロジーズが構築したダイナミック・ファクター・モデルによるGDPナウキャスティングについての技術概要や予測パフォーマンス等を解説し、使用データがそろえば民間予測平均並みの予測精度が確保できることを示した。その上で、酒井他(2024)、酒井・西野(2024)をはじめとして、月次経済指標を用いたGDPナウキャスティングの結果を紹介してきたところである。
本稿では、太田他(2024)で説明したモデルを用いて、3月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた2026年1~3月期GDPのナウキャスティングの結果を紹介する。米アトランタ連銀が発表するGDPナウの日本GDP版のようなものであるが、本稿では「みずほGDPナウ」と呼称することとしたい。使用データとしては、3月中旬までに得られる1月分の鉱工業生産、消費活動指数、所定外労働時間、消費財出荷指数、第3次産業活動指数、2月分の中小企業景況調査(売上げ見通しDI)を用いている(太田他(2024)が説明しているとおり、ステップワイズ法で使用データを採択している1)。
図表1のとおり、モデルによる3月中旬時点における1~3月期実質GDPの推計では前期比+0.85%(年率+3.45%)と大幅なプラス成長が予測された。10~12月期の実質GDP(2次速報値)はプラス成長となったが、今回の1~3月期成長率の予測とあわせ、日本経済が回復基調を維持していることを示唆する結果と言える。
図表1 1~3月実質GDPの予測値
- (出所)内閣府「四半期別GDP速報」、東京財団政策研究所「GDPナウキャスティング」、日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
なお、図表1のとおり、東京財団政策研究所による3月16日時点のナウキャスティングや、日本経済研究センターが公表した3月のESPフォーキャスト調査(回答期間:2026年3月4日~3月11日、回答者36名)における民間予測値平均においても1~3月期実質GDPはプラス成長が予測されている。モデル推計による予測値である「みずほGDPナウ」および東京財団政策研究所GDPナウキャスティングのいずれもエコノミストの予測値より強い回復を示唆している点について、対中関係の悪化を受けた中国からの訪日外客数の減少(1~2月累計:前年比▲54%)の影響が完全に捕捉されていない可能性がある。こうした要因を踏まえると、モデル予測値はやや割り引いて見る必要がある点に留意されたい。
「みずほGDPナウ」については、3月中旬までに公表された月次経済指標を使って、1~3月期のGDP1次速報値の予測値を2回更新した。予測値アップデートの過程と、各月次経済指標の寄与度を示した結果が図表2である。太田他(2024)で示した枠組みと同様、図表2の折れ線が各時点における実質GDP成長率の予測値であり、月次の経済指標が新たに公表されたり更新されたりすることで予測値がアップデートされる。棒グラフは、予測値の改定幅、すなわち前回予測との差を各月次経済指標で寄与度分解したもので、寄与度を合計するとモデル予測値の改定幅と一致する。3月3日時点では1月分の消費財出荷指数や鉱工業生産の増加がプラスに寄与した一方、3月18日時点では1月分の第3次産業活動指数(広義対個人サービス)などの低下がマイナスに寄与し、成長率予測値がやや下方改定された格好だ。モノ消費を中心に家計の消費需要が底堅いほか、企業活動も拡大が続いていることが1~3月期実質GDPのプラス成長を支える要因になるとみられる。
10~12月期実質GDP(2次速報値)の結果では、旺盛なAI関連需要を受けたデータセンター関連投資や人手不足下で根強いDX・省力化需要などを背景に、設備投資が拡大基調を維持していることが示されたほか、冬季ボーナスの高い伸びや株価の上昇による消費性向の高まり(資産効果)を背景に個人消費も緩やかな拡大傾向を維持していることが確認された。日本経済は内需を中心に緩やかな回復基調が継続していると言えよう。
2026年1~3月期についても、個人消費や設備投資などの内需を中心に実質GDPは緩やかな拡大ペースを維持すると予想する。足元では米国・イスラエルのイラン攻撃により原油価格が急上昇したが2、海外における原油価格の変動が国内のエネルギー価格に反映されるまでには、ガソリンで半月~1カ月程度、電気料金で4~9カ月程度のタイムラグがある。ガソリン価格上昇の一部や、株価下落を受けた消費マインドの悪化は3月後半にかけて景気の下押し要因になる可能性があるものの、1~3月期全体では経済への影響は限定的だろう。今後、原油価格の上昇が続いた場合、影響が本格的に表れるのは4月以降になるとみられる3。
図表2 予測値の改定過程と各経済指標の寄与度
- (注)モデル予測値は、各時点で知り得るデータを用いて推計した実質GDP成長率予測値。棒グラフは各経済指標の予測値に対する寄与度を示す。各経済指標の確報値による改定も寄与度変化に反映されている
- (出所)内閣府等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
個人消費については、実質賃金の改善が追い風になると見込んでいる。名目賃金の上昇傾向が続く一方、食料インフレの減速や政府の物価高対策を受けて物価の伸びが抑制されるためだ。2025年末にいわゆるガソリン暫定税率が廃止されたことに加え、2025年度補正予算に盛り込まれた電気・ガス代支援の効果が2026年2~4月のインフレ率を押し下げる(支援実施期間は1~3月)要因になる。実際、2月の都区部コアCPI(生鮮食品を除く総合)は前年比+1.8%(1月:同+2.0%)と、2024年10月以来の2%割れとなった。こうした実質賃金の改善に加えて、2月までのいわゆる「高市トレード」による株高も資産効果(消費性向の高まり)を通じて個人消費を支える要因になろう。設備投資は、企業の堅調な景況感・業績や、省力化・DX関連投資といった構造的な投資需要を背景とする旺盛な設備投資意欲を受け、拡大傾向が続くだろう。
なお、米国の関税政策については、2月20日の米連邦最高裁判所の判決を受けて相互関税が廃止され、新たな追加関税が発動された。日本からの輸出品に対する関税率は大きく変化しない見通しだが、新たな追加関税が時限的な措置であり、今後も米国関税政策に関する不確実性が残る点には注意が必要だ。
以上を踏まえ、「みずほGDPナウ」の推計結果からも示唆されるとおり、1~3月期の日本経済はプラス成長となる可能性が高いと予測している。ただし、前述した日中関係悪化によるインバウンド需要の落ち込みを考慮すると、実勢としての成長率は予測値対比やや低めの値となる可能性はあろう。
次回の「みずほGDPナウ」の推計・発信については、2月分の鉱工業生産や消費活動指数の結果等を踏まえて4月中旬頃のレポート発刊を予定している。中東情勢悪化の影響が徐々にデータとして顕在化してくる中、ナウキャストによる景気動向の把握はより重要なものとなるだろう。
[参考文献]
浦沢聡士(2023)「GDPナウキャストと景気判断~景気判断実務におけるGDPナウキャストの活用に向けて~」、内閣府経済社会総合研究所「経済分析」第208号
太田晴康・仲山泰弘・酒井才介・松浦大将・越山祐資・西野洋平(2024)「「みずほGDPナウ」の推計~DFMを用いた日本のGDPナウキャスティング~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年8月30日
服部直樹(2026)「年率+1.3%と1次速報から上方修正(10~12月期2次QE)」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『QE解説』、2026年3月10日
酒井才介・今井大輔(2025a)「「みずほGDPナウ」(25年7月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.05%(年率▲0.20%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年7月15日
酒井才介・今井大輔(2025b)「「みずほGDPナウ」(25年9月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.01%(年率▲0.04%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年9月17日
酒井才介・西野洋平・太田晴康・仲山泰弘(2024)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~9月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.0%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年9月19日
酒井才介・西野洋平(2024a)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~10月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.1%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年10月18日
酒井才介・西野洋平(2024b)「「みずほGDPナウ」(24年12月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比▲0.1%(年率▲0.3%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年12月18日
酒井才介・今井大輔(2025a)「「みずほGDPナウ」(25年1月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比+0.2%(年率+0.8%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年1月22日
酒井才介・今井大輔(2025b)「「みずほGDPナウ」(25年3月中旬時点)~1~3月期GDPは前期比+0.07%(年率+0.28%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年3月19日
酒井才介・今井大輔(2025c)「「みずほGDPナウ」(25年4月中旬時点)~1~3月期GDPは前期比+0.75%(年率+3.05%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年4月24日
酒井才介・今井大輔(2025d)「「みずほGDPナウ」(25年6月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.26%(年率▲1.05%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年6月16日
酒井才介・今井大輔(2025e)「「みずほGDPナウ」(25年7月中旬時点)~4~6月期GDPは前期比▲0.05%(年率▲0.20%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年7月15日
酒井才介・今井大輔(2025f)「「みずほGDPナウ」(25年9月中旬時点)~7~9月期GDPは前期比▲0.01%(年率▲0.04%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年9月17日
酒井才介・今井大輔(2025g)「「みずほGDPナウ」(25年10月中旬時点)~7~9月期GDPは前期比▲0.18%(年率▲0.71%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年10月17日
越山祐資・阿部大樹(2025)「「みずほGDPナウ」(25年12月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比+0.51%(年率+2.05%)と推計」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年12月18日
- 今後のモデルの予測精度のパフォーマンス評価等を踏まえ、採択するデータについては見直しを行う可能性がある。
- 一時119ドル/バレル台に急伸した原油価格は、トランプ大統領の「戦争はほぼ終了した」(日本時間3月10日未明)との発言以後下落に転じているが、現時点でも100ドル前後と高い水準が続いている。
- すでに政府はガソリン補助金の再開や石油備蓄の放出などの対応を決定しており、これらの政策措置によって原油価格の上昇を受けた4月以降の物価上昇圧力は一定程度緩和されることが見込まれる。
