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金融の最前線で磨く量子技術。その可能性を、あらゆる産業へ。
量子コンピュータが切り拓く、新たな可能性

プロジェクトの背景

より良い社会づくりの基盤技術となれる、
潜在能力を秘めた量子コンピュータ

現代社会が抱える課題は、ますます複雑化・大規模化しています。気候変動対策から新薬開発、そして高度な金融システムの安定運用まで、その解決には従来のコンピュータでは処理しきれない膨大な計算が求められる場面が少なくありません。この「計算の壁」を打ち破る革新技術として、量子コンピュータが世界中から注目を集めています。従来とは全く異なる計算原理を用いることで、これまで解決不可能とされてきた社会の重要課題に、根本的な解決策をもたらす可能性を秘めています。

例えば金融分野では、複雑に絡み合う無数のシナリオを正確に分析し、金融リスクをより精密に計測することで、より強固な経営基盤を築くことにつながります。また、ものづくりの領域では、分子レベルの精密なシミュレーションを通じて、画期的な機能を持つ新素材や治療薬の開発を劇的に加速させ、環境負荷の軽減と人々の健康の両面に貢献する可能性があります。量子コンピュータは特定分野の課題解決にとどまらず、社会インフラの最適化や機械学習の性能向上等、より良い社会を構築するための基盤技術としての潜在能力を秘めているのです。

しかし、この巨大な可能性を現実にするには、量子コンピュータに関する深い技術的知見と、各産業が抱える固有の課題やビジネスプロセスへの深い理解が不可欠です。当社では、この最先端技術が持つ可能性を理論的に語る段階から、実際の社会課題と結びつけて具体的な価値を創造する社会実装のフェーズへ、今まさに歩みを進めています。

プロジェクトの概要

社会実装と新たな価値創造をめざし、
オープンイノベーションで社会課題に挑む

当社は、量子コンピュータがもたらす巨大な可能性にいち早く着目し、2018年から本格的な研究開発をスタート。金融市場が抱える極めて複雑な計算課題、例えば大規模な金融シミュレーションや高度なリスク評価といった領域で、従来のコンピュータの限界を超えるべく量子アルゴリズムの研究開発に注力してきました。

挑戦の核となる戦略は、〈みずほ〉のパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を体現したオープンイノベーションです。慶應義塾大学量子コンピューティングセンター(KQCC)に設立当初から参画し、他の金融機関や化学メーカー、自動車メーカー等、多様な専門性を持つ企業の研究者たちと文字通り席を並べ、日々顔を突き合わせて議論を重ねてきました。時には長時間に及ぶ白熱した意見交換の中から、それぞれの知識や視点が化学反応を起こし、単独では決して生まれ得なかった斬新なアイデアやアルゴリズムの着想が数多く生まれてきました。

この異分野共創を象徴する成果の一つが、金融計算で従来必須とされた計算リソースを約95%削減する革新的な量子アルゴリズムの開発です。私たちは、計算プロセス全体を精緻に分析し、量子コンピュータが得意とする計算と従来のコンピュータが得意な統計処理を最適に組み合わせるハイブリッドなアプローチを確立しました。このアルゴリズムは国際的にも高く評価され、今や「量子×金融」分野における標準的な手法の一つとして、世界中の研究者に活用されるに至っています。

金融の中で磨き続けている世界レベルの量子アルゴリズム開発力と、業界の垣根を越えて多様な専門性を束ねるオープンイノベーション推進力。さらに、長年にわたり様々な産業分野の顧客企業とともに挑み、科学技術分野のシミュレーション、最新の技術動向調査を通じて研究開発を支援してきた中で培われた深い産業知見と課題解決力。これら当社ならではの三位一体の強みこそが、量子コンピュータの社会実装を加速し、価値創造を実現する原動力となっています。

慶應義塾大学量子コンピューティングセンター(KQCC)

取り組みの詳細

量子コンピュータをビジネスの実用ツールに、
その大きな一歩となるアルゴリズムを開発

金融リスク分析や新素材開発等で広く用いられるモンテカルロ法は、高精度化に膨大な試行回数を要するという本質的な課題を抱えています。これに対し、量子コンピュータを使った量子振幅推定(Quantum Amplitude Estimation, QAE)アルゴリズムは、目標精度 ϵ を達成するために必要な計算量を、古典計算の O(1/ϵ^2)から量子効果で O(1/ϵ)に削減する「二乗則の高速化」を理論的に可能にします。

しかし、この高速化を実現する標準的QAE(Brassardら, 2002)は、実装に量子位相推定(Quantum Phase Estimation, QPE)というサブルーチンを必要としました。QPEは、多数の制御ゲートと大規模な逆量子フーリエ変換(Inverse Quantum Fourier Transformation, Inverse QFT)が不可欠なため、量子回路が極めて「深く」なり、さらに精度に応じて多くの補助量子ビットを要求します。この二つの制約は、ノイズの影響が避けられない現行・近未来の量子デバイス(NISQデバイスやEarly-FTQC)にとって致命的であり、標準的QAEは長らく実用困難なアルゴリズムと見なされてきました。

この障壁を克服すべく、当社では慶應義塾大学、IBM、三菱UFJフィナンシャル・グループとの共同研究を通じて、増幅演算子の適用回数が異なる複数の「浅い」量子回路を並列実行し、得られた測定結果群を古典コンピュータ上で最尤推定法を用いて統計的に統合する量子・古典ハイブリッド手法を確立しました。この手法では、標準的QAEの根幹であったQPEそのものが不要になります。これにより、QPEの内部に必須だった大規模な逆量子フーリエ変換(Inverse QFT)や、それに起因する深い回路、多数の補助量子ビットといった技術的ボトルネックをまとめて解消し、量子リソースを極めて効率的に利用できます。実際、回路の複雑性指標であるCNOTゲート数を従来比で最大18分の1にまで削減することに成功しました。さらに重要なのは、この現実的な構成が理論的な高速性を全く損なわない点です。計算誤差 ϵ を達成するための総計算量が O(1/ϵ)となり、古典モンテカルロ法の O(1/ϵ^2 )に対する二乗則の高速化を維持できることが示されています。

本アルゴリズムは、特定の産業課題を古典コンピュータよりも高速、高効率、または高精度に解くことで実用的な価値を生み出す「量子優位性(Quantum Advantage)」をより早期に、より小規模なデバイスで達成するための現実的な道筋を拓くものです。これは、量子コンピュータがビジネス価値を創出する具体的なツールとなり得ることを示す、重要な一歩と言えます。私たちはこうした技術基盤を使って、次なる挑戦へと歩みを進めています。

量子・古典ハイブリッド手法による量子振幅推定(従来手法との比較)

担当者の思い

「未知の可能性に満ちたフロンティア」を突き進み、
広い分野の課題解決につなげたい

  • サイエンスソリューション部

宇野 隼平

量子コンピュータは「未知の可能性に満ちたフロンティア」です。金融という枠を超えて社会全体の未来を大きく変えるかもしれないこの技術の研究開発に携われることに、日々興奮とやりがいを感じています。ただ、現在の量子コンピュータはまだ発展途上で、ノイズ(誤り)の影響や規模の制限といった特有の課題があります。本当に役立つアルゴリズムをゼロから生み出すことは簡単ではありませんが、そのような時こそチームで議論を重ね、諦めずに試行錯誤を繰り返すことで、少しずつ壁を乗り越えてきました。

私自身が常駐して研究開発を進めたKQCCには、アカデミアの研究者の方々はもちろん、金融機関だけでなく、三菱ケミカルやJSRといった化学メーカー等、多様なバックグラウンドを持つ企業から専門家が集結しており、普段は競合する三菱UFJフィナンシャル・グループの研究者の方と隣同士の席に座り、金融分野における量子技術の共通課題について、毎日のように率直に意見交換をしていました。

日々、それぞれの専門分野の視点から活発な議論が自然に生まれ、「そんな考え方があったのか」、「その技術は金融のリスク計算に応用できるかもしれない」といった、社内だけでは得られないような発見の連続でした。特に新しいアルゴリズムのアイデアを実装しようとしていた際には、その分野に深い知見を持つ化学メーカーの研究者の方と時間を忘れ、夜遅くまでホワイトボードの前で数式とにらめっこしながら議論を戦わせたことも一度や二度ではありません。そうした努力の結果、私たちが開発に関わった量子アルゴリズムが、今や世界中の研究者に使われる標準的な手法の一つになっていることは、大きな誇りです。

私たちの挑戦は、金融という一つの分野にとどまりません。この最前線でアルゴリズムに磨きをかけ続けると同時に、そこで得られた世界水準の開発力を、ライフサイエンスにおける新薬探索の加速や、革新的な材料開発、そして環境負荷の少ない次世代AI基盤の構築等、より広い分野での社会課題解決につなげたいと考えています。金融領域における探求と、他分野への応用という両輪を力強く回すことで、量子技術が持つ真の可能性を、より良い社会の実現へと結びつけていく。それが私たちの使命です。このエキサイティングなフロンティアをともに切り拓く次世代の人材育成にも、引き続き貢献していきます。

※社名、肩書き、所属は記事制作当時のものです。

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