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写真右:国立研究開発法人防災科学技術研究所 内藤さま

地震被害の全体像を迅速に把握する、
先端的な衛星画像解析技術の開発

プロジェクトの背景

震災被害を迅速に把握する衛星画像解析技術と、
支援計画への応用の可能性

日本は地震や水害等の自然災害が頻発する国であり、これらへの対応力を高めることは、社会の持続的な安全・安心の確保に直結する重要課題です。特に大規模地震が発生した際には、自治体や中央省庁が迅速かつ的確な初動対応を行うために、「どの地域が、どの程度の被害を受けているか」を早期に把握する必要があります。

しかし、地震発生直後の現地調査は、道路の寸断や橋梁の倒壊、がけ崩れや倒壊物による通行困難、余震による二次災害の危険性等、様々な要因により実施が困難となることが多く、多大な時間と人手を要することからも、被害の全体像を短時間で把握するには限界があります。

こうした状況を解決する手段として、衛星画像を活用した被害把握技術が注目されています。衛星画像は、地表から反射・放射される様々な波長の電磁波を計測したデータであり、広範囲の情報を一度に取得できるという特長があることから、被害状況を迅速かつ俯瞰的に把握する手段として非常に有効です。また、立ち入りが困難な地域における被害把握も安全に行うことができます。

一方で、衛星画像を災害対応の現場で活用するには、いくつかの課題も存在します。特に、衛星画像は専門性の高い情報であるため、専門知識を持たない人が衛星画像を見ただけでは、被害の有無や位置、深刻度を的確に判断することは容易ではありません。そこで近年では、衛星画像を自動で処理し、被害の有無や位置、範囲等を定量的に可視化する画像解析技術の研究開発が進められています。これにより、専門知識がなくても直感的に状況を把握できるようになり、災害時の初動判断が迅速かつ的確に行うことができます。被害の拡大抑止や効率的な支援活動への貢献が期待されています。

提供できる価値

衛星画像からの被災状況把握も可能とする、
高度な画像解析技術を保有

当社は、画像解析や機械学習の分野において、長年にわたり研究開発を継続してきました。特に機械学習については、現在のように広く普及する以前から取り組んでおり、応用展開を進めてきた実績があります。画像解析や機械学習は、災害対策をはじめとする様々な社会課題との親和性が高く、中央省庁、国立の研究機関、民間企業の研究部門をはじめとした多くのお客さまからご相談をいただきながら、課題解決に貢献してきました。

そうした取り組みの一環として、当社では衛星画像解析技術の高度化にも注力しており、災害時の被災状況把握をはじめ、土地利用状況の調査、国土地形の測量、交通や人流の把握等、幅広い分野において、衛星画像という新たな情報源を活用した機械学習手法の研究開発を推進しています。特に、災害対策や国土保全を目的とした複数の国家プロジェクトに参画し、衛星画像解析技術に関する研究開発の支援を行っています。

課題解決へのアプローチ

機械学習により建物の被害状況を自動判定し、
地図上に表示する機能を開発

これまでに参画してきた衛星画像解析プロジェクトの中から、今回は国立研究開発法人 防災科学技術研究所から受託し、研究開発支援を行っているプロジェクトをご紹介します。

本プロジェクトは、震災発生時における迅速な建物被害状況の把握を目的として、衛星画像を活用した技術の研究開発を行うものです。特に、2016年に発生した熊本地震では、道路の寸断や橋梁の倒壊、がけ崩れ、余震等により現地調査が困難な状況が多く見られたことから、安全かつ効率的に被災現場の情報を収集する手段の必要性が改めて認識されました。

このような背景のもと、防災科学技術研究所では、熊本地震による被害を記録した高解像度の光学衛星画像や航空写真等のデータを収集し、災害関連の研究を進めています。当社は、これらの画像データを活用し、震災後に取得した衛星画像や航空写真から建物の被害状況を自動判定する技術を開発しました。

この技術では、画像内に写る建物の領域を自動抽出した後、建物の外観に現れる被害の特徴から「正常」「損傷」「倒壊」の三段階で判定する機械学習モデルを構築しました。また、判定した被害の程度に応じて色分けした結果を地図や画像上に視覚的に表示する機能も実装しました。

本技術により、建物の倒壊や損傷状況を俯瞰的に把握するための「被害マップ」を短時間で作成できるようになりました。現地調査に先立って、被害範囲や全体的な被害規模、地域ごとの被害度の違いを把握できるため、迅速な救助活動の計画立案や、支援優先度の高い地域の抽出等、初動対応における意思決定を支援する技術としての有用性が期待されています。また、二次災害の回避、救援物資の配備計画への応用も視野に入れ、研究開発を進めています。

防災科学技術研究所では、本技術を活用することで、災害時の建物被害の空間的傾向や被害要因の分析に必要なデータを効率的に取得できるようになりつつあり、災害の科学的理解の深化や、防災・減災に資する技術・制度の構築、将来的な政策立案に向けた基盤整備等、社会への貢献が期待されています。

2023年には、本プロジェクトで開発された建物被害判定技術が、土木学会の「AI・データサイエンス奨励賞」を受賞1する等、対外的にも高い評価を受けました。

被害マップ作成の仕組み

取り組みの詳細

少量のデータでも
高精度な機械学習モデルを構築する技術力

一般的に、機械学習では、大量のデータを学習させることで高い精度を得ることができるとされています。しかし、本研究開発の対象である大規模災害、特に建物に被害が生じるような災害のデータは非常に限られており、精度の高い機械学習モデルを構築するうえで大きな課題となっていました。

こうした課題を解決するために、当社では、目的や取得可能なデータに応じた解析手法の設計、画像処理の知見をいかした特徴量の最適設計、効率的なハイパーパラメータの探索、学習内容に適した損失関数の設計を組み合わせて、少量の災害データでも高精度なアウトプットを出力できるモデルを開発しました。

本プロジェクトでは、建物の被害状況を自動判定する技術として、インスタンスセグメンテーション手法であるMask R-CNN2を採用しました。Mask R-CNNは、抽出対象の物体を個別に認識する領域分割法であり、光学衛星画像や航空写真に写る各建物を個別の形状に応じて自動抽出し、それぞれの建物について「正常」「損傷」「倒壊」の三段階で被害状況を判定できます。

従来検討されていた画素単位で被害を判定するU-Net3や、物体検出ベースの手法とは異なり、Mask R-CNNは建物形状に合わせた領域を個別の建物ごとに抽出し、そのまま被害判定まで一括で行うことができるという特徴を持ちます。このため、判定結果を基に建物被害マップを自動作成する等、より実用的で利便性の高いアウトプットが可能となりました。

一方で、Mask R-CNNは、物体検出、領域マスク判定、クラス分類といった複数の処理機能を有する複雑なモデル構造であるため、学習には多くのデータを必要とし、パラメータの調整も非常に難しいという課題があります。特に、建物に被害が生じるレベルの大規模災害のデータは少なく、高性能なモデルの構築には大きな困難が伴いました。

こうした課題に対し、当社では、限られた災害データでも有効な学習を実現するために、学習パラメータのチューニングにベイズ最適化のアプローチを採用しました。さらに、各パラメータの探索範囲も文献調査に基づいて設定する等の工夫を重ねた結果、性能評価の高いU-Netによる被害推定と同程度の精度を実現し、実用化に向けた大きな成果を挙げることができました。

Mask R-CNNによる建物被害の自動分類モデル4

画像解析技術の可能性

災害対応をはじめ、国土保全、エネルギー計画等、
幅広い分野で活用される技術へ

光学衛星画像や航空写真を活用した画像解析技術は、広範な被災地域の被災状況を把握できるため、災害時の初動対応や救助支援計画、復興計画等の幅広い分野での活用が期待されています。当社は、防災科学技術研究所と連携し、研究成果の実用化を通じて、被災による損失の低減と安心して暮らせる社会の実現をめざします。

こうした技術の発展を支える基盤として、宇宙分野における技術革新も急速に進展しています。世界的には、衛星コンステレーション(複数の人工衛星を軌道上に配置し、全体で一つのシステムとして運用する方式)をはじめとした衛星関連技術の開発が加速しており、取得できるデータの量・頻度・精度が大きく向上しています。

日本国内でも、政府による宇宙戦略基金の創設等、宇宙関連技術への支援体制が整いつつあり、市場規模の拡大が期待されています。さらに、成層圏通信プラットフォーム(HAPS)を活用したリアルタイム航空写真の計測技術の研究も進行しており、商用サービスの提供開始を見据えた取り組みもあります。

こうした技術的・社会的な背景を踏まえると、衛星画像や航空写真の解析技術は、震災対応に限らず、様々な分野で日常的に活用される存在へ進化していくと考えられます。

具体的な活用例としては、洪水や火災等の災害における被害の把握や復旧計画の立案、防災対策への応用が挙げられます。また、土地の利用状況、人工構造物の状態、自然環境の変化を定期的にモニタリングすることで、インフラ整備等の国土保全にも貢献することができます。

さらに近年は、世界的にサステナブルな社会の実現が求められる中で、衛星画像の解析技術はエネルギー分野にも応用が広がっています。例えば、太陽光や風力等の再生可能エネルギー設備の適地選定、資源の探査、交通量や人の流れの可視化によるエネルギー需要の予測等が挙げられます。

このように、衛星画像解析技術は今後、社会の様々な領域でその可能性を広げていくことが見込まれており、私たちの暮らしや社会のあり方をより豊かで持続可能なものへと導く力を持っていると考えられます。私たちは、こうした技術の可能性を最大限にいかしながら、持続可能で安心できる社会の構築に向けて、更なる挑戦を続けていきます。

担当者の思い

土屋 美恵

  • 情報通信研究部

注目技術「フィジカルAI」の力で、
社会の発展に貢献する

近年、フィジカルAI(Physical AI)というキーワードが注目され始めています。
フィジカルAIとは、カメラやマイク等のセンサデバイスから得られる実世界のデータをAIに学習させることで、現実空間を認識して判断や制御を可能にするAIを指します。これまで当社が取り組んできた画像解析やセンサデータ処理等の技術開発は、このフィジカルAIの領域に位置付けられるものであります。

現実空間を対象とするフィジカルAIは、社会課題の解決に直結する技術として期待されており、今後の社会インフラや産業構造に影響を与える可能性を秘めています。また、日本政府もフィジカルAIを含むAI技術による社会課題の解決に強い関心を寄せており、現在策定中の「人工知能基本計画」では、フィジカルAIが、医療・防災・産業分野等での活用を通じて持続的な社会の構築に貢献する重要な柱として位置付けられています。

華々しい未来が予想されているフィジカルAIですが、その技術開発には地道で泥臭い部分が多いのも事実です。今回紹介したプロジェクトでも、まずは機械学習用の教師データを作成するために、衛星画像に写る建物を一つずつ手作業で囲み、被災度に応じた色分け作業を行いました。次に、AIモデルの構成パラメータを調整しながらAIモデルの構築と性能評価を繰り返し、さらに、構築したAIによる誤判定箇所を分析し、対策を講じてAIモデルを再構築するといった多くの試行錯誤を重ねました。こうした綿密な作業により、高性能なAIを作成することができました。

フィジカルAIは、技術開発において地道な作業や専門的な知見と経験に基づく工夫が求められる一方で、実世界の複雑な課題に対応できる可能性を秘めた有望な技術です。当社は、画像処理技術をはじめ、フィジカルAIに関連する研究開発に長年取り組んできた実績があり、フィジカルAIを専門とする技術者が多数在籍しています。私自身も、画像や波形処理、三次元データ処理、ロボティクス等とAIを組み合わせた業務に多く携わってきました。これらの知見と経験をいかし、フィジカルAI分野を牽引できる存在になりたいと考えています。そしてその先に、社会の持続的な発展に貢献していくことをめざしていきます。

※社名、肩書き、所属は記事制作当時のものです。

1土木学会 構造工学委員会 AI・データサイエンス論文集編集小委員会「2023年 AI・データサイエンス賞」ページ
https://committees.jsce.or.jp/struct1002/node/42
2He, Kaiming, Georgia Gkioxari, Piotr Dollár, and Ross Girshick. “Mask R-CNN.” In Proceedings of the IEEE International Conference on Computer Vision (ICCV), 2980–2988. IEEE, 2017. https://doi.org/10.1109/ICCV.2017.322.
3Ronneberger, Olaf, Philipp Fischer, and Thomas Brox. “U-Net: Convolutional Networks for Biomedical Image Segmentation.” In Medical Image Computing and Computer-Assisted Intervention – MICCAI 2015, edited by Nassir Navab et al., 234–241. Vol. 9351. Springer, 2015. https://doi.org/10.1007/978-3-319-24574-4_28.
4内藤昌平, 土屋美恵, 友澤弘充, 田口仁, 「複数種類の高解像度衛星画像を用いたMask R-CNNによる建物抽出・被害分類モデル」, AI・データサイエンス論文集, vol.4, no.3, pp.189–204, 2023. DOI: 10.11532/jsceiii.4.3_189.

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