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成年後見制度の利用はわずか6%。半数以上が利用意向もなく、支援者の視点を踏まえた利用促進策の検討や任意後見制度等の推進が求められる

認知症の人に対する預貯金・財産の管理支援に関する調査結果を発表

2017年5月19日
みずほ情報総研株式会社

みずほ情報総研株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:西澤 順一)は、認知症の人に対する預貯金・財産の管理を支援したことがある40歳以上の男女(2,000名)を対象に「認知症の人に対する家族等による預貯金・財産の管理支援に関する調査」を実施し、このたび調査報告書としてまとめましたのでご案内いたします。

認知症高齢者は年々増加し、2015年時点で約500万人、2025年には約700万人に増加すると推計されており、日常生活の金銭管理にも支援を必要とする人が今後増加してくると考えられます。認知症の人の預貯金・財産の管理に対する社会的な支援としては、成年後見制度や日常生活自立支援事業などの仕組みが整えられているものの、必要と推定される人数に対して利用者は少なく、現状では家族・親族が支えていることが多いと考えられます。

しかし、これまで家族・親族による預貯金・財産管理の実態はあまり明らかにされてこなかったことから、今回の調査は、家族・親族が担っている預貯金・財産の管理支援の実態、困難、ニーズ等について明らかにすることを目的として実施しました。

主な調査結果は以下のとおりです。

  1. 家族・親族が預貯金・財産の管理を支援することになった理由として「ATMの操作・利用が難しくなった」が最も多く48.5%
  2. 預貯金・財産の管理の方法は「ATMによる預貯金の管理(本人の代理として実施(本人は不在))」59.8%、内容は「50万円未満の預貯金の引き出し」76.9%が最も高かった
  3. 成年後見制度を利用している者はわずか6.4%であり、「成年後見制度のことは知っているが利用するつもりはない」との回答が55.4%を占めた
  4. 支援する上で「とても負担を感じる」と回答した者の割合が高かった内容は「本人にわかるように説明すること」22.5%、「本人の同意や直筆の委任状を得ること」20.2%
  5. 預貯金・財産の管理について「本人にわかるように説明すること」に「とても負担を感じる」と回答した者の割合は、本人の考え方や希望を「ほぼ把握できている」場合の20.7%に対し、「把握できていない」場合は40.5%と約2倍に増加
  6. 支援に難しさを感じた際に相談できる相手として回答した割合は、家族・親族以外では、「ケアマネジャー・地域包括支援センター職員など介護の専門職」35.3%や「金融機関の職員」29.8%が多く、一方で「弁護士・司法書士など法律の専門職」は10.1%にとどまった
  7. 専門職に相談したい内容は「家・土地の管理・処分に関すること」38.5%、「税金に関すること」38.1%、「相続に関すること」34.3%などが高かった

アンケート調査の概要

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認知症の人に対する預貯金・財産の管理支援に関する調査
調査期間 2016年10月6日~10月12日
調査対象 全国40歳以上の男女のうち、認知症の家族・親族がいる者(*)で、かつ、過去3年以内にその認知症の家族・親族の預貯金・財産の管理を支援したことがある者
  • *認知症と診断された家族・親族、もしくは認知症の疑いがある家族・親族がいる者
有効回答数 2,000人
主な調査項目
  • 家族・親族が預貯金・財産の管理を支援することになった理由
  • 預貯金・財産の管理支援の内容
  • 成年後見制度の利用の状況
  • 預貯金・財産の管理支援の際に負担・困難に直面した経験
  • 預貯金・財産の管理に対する本人の考えの理解
  • 認知症の方の預貯金・財産の管理支援について、相談した(したい)内容 等

調査・分析結果

1. 支援をすることになった理由

  • 家族・親族が預貯金・財産の管理を支援することになった理由として「ATMの操作・利用が難しくなった」が最も多く48.5%、次いで「お金の計算が難しくなった」46.1%、「窓口での説明の理解が難しくなった」42.5%であった。

図表1

2. 支援方法と支援内容

  • 預貯金・財産の管理支援の方法は「ATMによる預貯金の管理(本人の代理として実施(本人は不在))」が59.8%。組み合せ別では、「ATM(代理)のみ」が21.7%で最多、次いで「ATM(代理)と窓口(代理)」が19.2%。

図表2-1



  • 預貯金・財産の管理支援の内容は「50万円未満の預貯金の引き出し」76.9%が最多。
  • 「資産運用の手続き」、「相続の相談・手続き」など、金額が大きく、本人への影響が大きいと考えられる支援も1割前後の支援者が経験。

図表2-2


3. 成年後見制度の利用の状況

  • 「成年後見制度を利用している」はわずか6.4%、「成年後見制度のことは知っているが利用するつもりはない」との回答が55.4%。
  • 日常生活自立度のランクIV(常に目を離すことができない状態)・ランクM(専門医療を必要とする状態)で成年後見制度を「利用している」割合が高まるが、「利用している」と「利用を検討している」の合計割合は常にほぼ一定である。

図表3


4. 支援において感じる負担

  • 預貯金・財産の管理を支援する上で「とても負担を感じる」と回答した者の割合が高かったのは「本人にわかるように説明すること」22.5%、「本人の同意や直筆の委任状を得ること」20.2%であった。

図表4

5. 預貯金・財産の管理に対する本人の考え方や希望の把握

  • 預貯金・財産の管理について「本人にわかるように説明すること」に「とても負担を感じる」と回答した者の割合は、本人の考え方や希望を「ほぼ把握できている」場合の20.7%に対し、「把握できていない」場合は40.5%。本人の考え方や希望を把握できていないと感じる者ほど負担を感じている傾向がみられる。
  • 預貯金・財産の管理に対する本人の考え方や希望を「ほぼ把握できている」と回答した者の中では「負担は感じない」割合が44.0%となっていた。

図表5

6. 相談できる相手

  • 預貯金・財産の管理を支援する上で難しさを感じた際に相談できる相手として、専門職では「ケアマネジャー・地域包括支援センター職員など介護の専門職」や「金融機関の職員」と回答した割合が、相談者の約3割にのぼった。
  • 「弁護士・司法書士など法律の専門職」への相談は相談者の1割に留まっていた。
  • 一方で「相談できる相手はいなかった」者も9.5%いた。

図表6

7. 専門職に相談したい内容

  • 専門職に相談したい内容として「家・土地の管理・処分に関すること」38.5%、「税金に関すること」38.1%、「相続に関すること」34.3%などが多かった。

図表7

考察

成年後見制度の利用促進においては、支援者の視点も取り入れるべき

  • 本調査結果によれば、支援者の過半数が「成年後見制度のことは知っているが利用するつもりはない」と回答していた。
  • この背景には、成年後見制度の申請において複雑な手続きを踏まなければならない、成年後見制度を利用しなくても不便を感じていないなど、支援者にとって、利用に対するインセンティブが働いていないことがあると考えられる。
  • 現在の日本では、法定後見制度の中で障害の最も重い場合に適用される「後見」については、本人以外の者が申し立てる方法が主流となっている。成年後見制度の利用促進にあたっては、支援者の視点をこれまで以上に取り入れることが求められるのではないか。

預貯金・財産の管理を支援している家族・親族をサポートする専門職のネットワークへの期待

  • 家族・親族等の支援者が預貯金・財産の管理をする上で難しさを感じた際に、「ケアマネジャー・地域包括支援センター職員など介護の専門職」を相談相手として回答した割合が多かった。
  • 一方で、専門職に相談したい内容としては「家・土地の処分に関すること」など、介護の専門職では対応できないような高度な財産管理に関するニーズが大きくなっており、金融機関や弁護士・司法書士などの専門職へつなげられることが期待される。
  • 平成29年3月に閣議決定された「成年後見制度利用促進基本計画」においても、権利擁護支援の地域連携ネットワークの整備が掲げられており、預貯金・財産の管理を支援している家族・親族をサポートする専門職のネットワークが構築されていくことや、円滑に支援につなげられることが期待されるのではないか。

認知症を発症する前の早い段階から、財産管理について考える機会をもつよう啓発し、任意後見制度等の利用を促進するべき

  • 「本人にわかるように説明すること」を負担だと感じる割合は、預貯金・財産の管理に対する本人の考え方や希望を把握できていると感じる者ほど低い傾向がみられた。
  • 認知症を発症する前の早い段階から、将来的な財産管理の希望を話し合っておくなどの対策が必要であり、金融機関、司法関係者等から、あらかじめ対話の機会をもつことの意義を広く啓発していくことが求められるのではないか。
  • さらには、成年後見制度の中でも、本人の判断能力があるうちに契約を結んでおく任意後見制度や、信託の利用など、本人が予め申請・登録する制度の利用促進が望ましいのではないか。


本調査の内容については、こちらをあわせてご覧ください。
「認知症の人に対する家族等による預貯金・財産の管理支援に関する調査」調査レポート
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/report/2017/ninchisho1705.html

●みずほ情報総研の「社会保障関連」領域の取り組みについて

みずほ情報総研は、過去30年にわたる中央省庁の政策策定に関わるコンサルティング、現在の制度運用を支える多数のシステム開発実績があり、総勢150名のスタッフが、本領域に取り組んでいます。近年、我が国では先進国では例を見ないほどの少子・高齢化や労働市場の変化に伴い、福祉ニーズの多様化や高度化が進むなど、社会変動への対応に迫られています。当社では、社会・経済の構造的な変動に対応するために、より一層柔軟な社会保障政策立案が必要であると考え、これまでの知見を活かしながら、社会保障関連領域での取り組みを強化してまいります。

本件に関するお問い合わせ

報道関係者からのお問い合わせ

みずほ情報総研株式会社
広報室 井川 公規
電話:03-5281-7548
E-mail:info@mizuho-ir.co.jp

アンケート調査に関するお問い合わせ

みずほ情報総研株式会社
社会政策コンサルティング部
小松 紗代子
電話:03-5281-5404

社会政策コンサルティング部03-5281-5281

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