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取組の必要性については高い意識が見えるも、具体的な取組は少数

LGBTQ+に関する地域金融機関の取組状況と従業員の意識を可視化するアンケート調査を実施

2024年3月25日
みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:吉原 昌利)は、全国の地域金融機関(地方銀行/第二地方銀行/信用金庫)と従業員を対象に、LGBTQ+*1に関する取組状況と意識や風土を可視化するアンケート調査を実施し、このたび調査結果をまとめましたのでご案内いたします。地域金融機関とLGBTQ+に関する日本では数少ない調査研究の1つとなります。

昨年(2023年)6月、「LGBT理解増進法」*2が成立し、企業に対して性的マイノリティへの理解増進のための普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保等が努力義務として定められました。また、昨今日本でも重視される「ビジネスと人権」においては、大企業のみならずサプライチェーン上の中堅・中小企業にも、「人権尊重」の取組が求められています。他方で、中堅・中小企業においては特にその取組が十分とはいえない状況です。そこで、私たちは「中堅・中小企業」に影響を及ぼせる存在として地域金融機関に着目しました。近年、地域金融機関は、非財務面でも地域の主導的役割を求められている背景があります。多くの中堅・中小企業と取引のある地域金融機関が、SOGI(性的指向・性自認)*3の多様性を前提とした施策*4を行うことは、自組織のみならず、取引先企業にもプラスの影響を及ぼすことに繋がります。また、地域の中心である地域金融機関の動きは、企業のみならず地域社会全体へも影響を与えることとなります。

SOGI(性的指向・性自認)は全ての人が持つものであり、SOGI(性的指向・性自認)に係る社会課題は、一部の人にのみ関係のある"特別な課題"ではなく全ての人に関わる社会課題、人権課題です。SOGIの多様性を前提とした就業環境の整備や意識・風土の醸成等の施策を行うことは、既存の制度や意識を見つめ直し、様々な多様性のある「個」を大切にできる構造を考えることに繋がり、女性や外国人労働者、障害者など他の人権・ダイバーシティに関わる施策を考えるうえでも重要です。

地域金融機関でこうした就業環境整備や意識・風土の醸成を行うには何が必要なのか検討するため、まずは今年度、実態を把握するための以下2種類のアンケート調査を実施しました。

  1. 地域金融機関におけるSOGI(性的指向・性自認)に関する体制/制度の現状に関するアンケート調査(調査対象:地域金融機関 ※すべての地方銀行62・第二地方銀行37・信用金庫254、計353 /有効回答数72(有効回収率20.4%)※72金融機関の内訳は、地方銀行:9.7%、第二地方銀行:4.2%、信用金庫:86.1%)
  2. 地域金融機関におけるSOGI(性的指向・性自認)に関する風土/意識の現状に関するアンケート調査(調査対象:地域金融機関で働く従業員個人/有効回答数2,472)

なお、本調査は、過去の調査等を参照しながら、平森大規氏(法政大学グローバル教養学部助教)、松中権氏(認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表)、村木真紀氏(認定NPO法人虹色ダイバーシティ理事長)をはじめとする有識者の助言を得て調査設計を行いました。

今後、私たちは本アンケート調査結果と個別金融機関や業界団体へのヒアリング結果、有識者との議論をもとに、レポートの発信や地域金融機関向けの研修資料案の作成などを行い、本テーマに係る取組の必要性を提言してまいります。

結果サマリー

【アンケート調査①(地域金融機関向け)より】

  • 「LGBT理解増進法」については6割弱、「パワハラ防止法*5」については8割以上の地域金融機関が、「対応している」もしくは「対応を検討している」と回答。一方で、地方自治体の施策(同性パートナーシップ制度等)については6割程度が「わからない」と回答した。
  • 住宅ローン等の金融商品において、規定の「配偶者」の定義に同性パートナーを含めるなど、性的マイノリティの人の存在を前提にした商品設計を行っているかどうかについては、3割程度が「対応している」もしくは「行っていないが、検討している(既に話し合いや情報収集を始めている)」「行っていないが、検討する予定がある」と回答している。
  • 地域金融機関内で性的マイノリティに関する取組を行っているのは回答者72行のうち7行(1割弱)のみであった。取り組むうえでの課題として「当事者のニーズや社会動向等の情報不足」「参考にしたい他行の状況がわからない」「何から始めてよいかわからない」などが挙げられた。
  • 地域金融機関は、性的マイノリティに関する取組において、特に業界団体からの支援を求める割合が高いことがわかった。とりわけ、「地域金融機関における性的マイノリティに関する取組に対する情報提供(事例の紹介等)」や「地域金融機関でそのまま適用できる性的マイノリティの存在を前提とした就業規則やお客様対応マニュアルの整備」「地域金融機関における性的マイノリティに関するルールの明確化(ガイドライン等)」「地域金融機関が相互に性的マイノリティに関する取組について情報交換を行えるネットワーク形成」については、7~8割程度が業界団体に対して「支援・取組を期待する」と回答した。
  • 以上のように、取組は十分とはいえないが、「地域金融機関として、性的マイノリティに関する社会環境の課題解決に貢献したい」に対して「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と回答する金融機関は9割程度と、意識と取組状況に乖離がみられる。

【アンケート調査②地域金融機関で働く従業員個人向け)より】

  • 「いまの職場に性的マイノリティは“いないと思う”」と回答した人の割合は7割程度、「身近な人の中に性的マイノリティは“いないと思う”」と回答した人の割合は9割程度とどちらも高く、家族や友人、職場等、あらゆる場所や関係性において、性的マイノリティの当事者の存在が「身近ではない」「いない」と思って過ごしている人が多いことがうかがえた。
  • 「職場の人から性的マイノリティであると伝えられたときに、その事実や内容を第三者に伝える」ことについて、2割弱が「第三者に伝えても問題ない」もしくは「本人から秘密にしてほしいと言われない限り第三者に伝えても問題ない」と回答し、一定のアウティング*6のリスクが可視化された。
  • 「同性愛やトランスジェンダーをネタにした冗談を言う」「性的関係を強要する」「『男らしさ』や『女らしさ』を要求する」などのハラスメントは、異性愛者・シスジェンダー※3を参照よりも、性的マイノリティ当事者のほうが多く受けていることがうかがえた。
  • 現在地域金融機関で働く性的マイノリティの転職経験者のうち4割は、「性的マイノリティであることで職場で嫌な思いをした」ことが転職の理由だと回答した。
  • 7割以上が「地域金融機関は性的マイノリティの人の存在を前提とした対応を行うべき」と回答するなど、「性的マイノリティを取り巻く社会課題を解決する一助になりたい」という従業員の「意識」も垣間見えた。

  1. *1LGBTQ+:レズビアン(女性の同性愛者)、ゲイ(男性の同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と自分の認識する性別が異なる人)、クィアやクエスチョニング(自分の性のあり方がわからない、決めていない等)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称の一つとして使われることがある。「+」はこれら以外の様々な性のあり方を含めるためにつける場合がある。
  2. *2LGBT理解増進法:正式名称は「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」。
  3. *3SOGI(性的指向・性自認):どのような相手に性愛感情を抱くのかを表す「Sexual Orientation」(性的指向)と、自分が認識している性別を表す「Gender Identity」の頭文字をとった言葉。本調査では、「異性愛者(性的指向が異性に向く人のこと)」や「シスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と認識する性別が一致していること)」の人も含めてあらゆる人の属性を説明できるSOGI(性的指向・性自認)という表現を用いている。
  4. *4SOGI(性的指向・性自認)の多様性を前提とした施策:例えば、福利厚生の"家族"に同性パートナーやその家族を適用することや、性別に基づいた制服を廃止することなどが挙げられる。これまでこうした制度は、「異性愛者」「シスジェンダー」等のマジョリティの規範に合わせて運用されてきたことから、これをSOGI(性的指向・性自認)の多様性を前提とした形に変えていくことなどが施策として必要である。なお、本報告書では、調査票に合わせて「性的マイノリティに関する取組」という表現も使用している。
  5. *5パワハラ防止法:正式名称は「労働施策総合推進法」。2020年6月~職場におけるパワーハラスメント防止措置が事業主(大企業)に義務となり、2022年4月からは中小事業主も義務化された。本法律の中で、「相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動」や「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する」(アウティング)がパワハラに該当するとされている。
  6. *6アウティング:本人の性的指向や性自認等について、本人の了解を得ずに第三者に暴露すること。SOGI(性的指向・性自認)に関わるハラスメント(SOGIハラスメント)の1つ。2015年、一橋大学法科大学院の学生がアウティングを理由に大学敷地内で転落死する事件が起き、同事件の裁判では「人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害するものであって、許されない」とされた。「パワハラ防止法」でも「パワハラ」の1つに挙げられており、既に、企業内で起きたアウティングに関する労災認定もされている。

アンケート調査の概要

a.地域金融機関におけるSOGI(性的指向・性自認)に関する体制/制度の現状に関するアンケート調査

左右スクロールで表全体を閲覧できます

調査対象 地域金融機関(すべての地方銀行(62)・第二地方銀行(37)・信用金庫(254)、計353)
  • *回答者は経営企画関連部門や人事関連部門
調査方法 郵送による配布・回収
調査期間 2023年10月17日~2024年1月19日
有効回答数 72(有効回収率20.4%)
  • *72金融機関の内訳は、「地方銀行」9.7%、「第二地方銀行」4.2%、「信用金庫」86.1%である
調査項目
  • 回答した金融機関の基本属性
  • 人材の「採用」に関する現状
  • 法制度や地方自治体施策への認知と対応
  • 金融商品設計(住宅ローン等)における対応状況
  • 地域金融機関内の施策について
  • 個人のお客様や取引先企業への対応について
  • 行政や業界団体に期待すること
  • 性的マイノリティを取り巻く社会環境に対する意識

b.地域金融機関におけるSOGI(性的指向・性自認)に関する風土/意識の現状に関するアンケート調査

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調査対象 地域金融機関(地方銀行・第二地方銀行・信用金庫を対象とした)で働く従業員(雇用形態は問わない)
調査方法 インターネット調査会社が保有するパネルを活用したアンケート調査 ※完全匿名で実施
調査期間 2023年10月16日~10月27日
有効回答数 2,472
調査項目
  • 回答者の基本属性
  • 回答者のSOGI(性的指向・性自認)に係る認識
  • 地域金融機関で性的マイノリティの人が置かれる状況
  • 地域金融機関における性的マイノリティに関する取組や風土
  • 性的マイノリティの人を取り巻く社会環境に対する意識

本調査の詳細については、こちらをご覧ください。
LGBTQ+に関する地域金融機関の取組状況と従業員の意識を可視化するアンケート調査結果紹介

関連コラム
第2回(DEI編)SOGI(性的指向・性自認)による差別のない社会への道のり(2023年12月7日)

本件に関するお問合せ

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
社会政策コンサルティング部
ヒューマンキャピタル創生チーム
堀 杉田 田中文隆
電話:03-5281-5276

みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社
広報室 舟山
電話:03-5281-7548
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社会政策コンサルティング部03-5281-5276

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