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2019年2月26日

100年に一度の変革期に直面する自動車税制の現状と課題

環境負荷の低減の観点から

環境エネルギー第1部 川村 淳貴

電気自動車へのシフト、自動運転技術やコネクテッドカーなどのICTの進展、カーシェアリングなどの自動車を保有せずに利用する新しい形態の登場を背景に、自動車業界は100年に一度の変革期を迎えている。自動車税制はこれまで、政府の財源確保としての役割だけでなく、エコカー減税等を通じて、「環境負荷の低減」としての役割も同時に担ってきたが、変革期を迎えるにあたり、後者の役割を維持することはできるのだろうか。

日本の自動車税制の現状を確認しておきたい。自動車には、取得段階の自動車取得税、保有段階の自動車税等、利用段階の揮発油税等の3タイプの税金がかかっている。このうち、取得段階や保有段階の自動車税制については、「環境負荷の低減」に向けて、環境負荷の小さい車の税負担を軽くし、反対に環境負荷の大きい車の税負担を重くすることで、より環境負荷の小さい車に消費者選択を誘導するエコカー減税およびグリーン化特例と呼ばれる制度があり、2019年以降も継続が決まっている。

一方で、エコカー減税やグリーン化特例以外の自動車税制については、平成31年度税制改正大綱において、2019年10月の消費税増税による駆け込み需要と反動減などの需要変動を平準化するために、消費税増税後の1年間に限り自動車税等の初年度課税(環境性能割)の税率を引き下げることや、自動車税を恒久的に減税することなどが決定された。従って、取得段階や保有段階の自動車税制は縮小傾向にあり、このまま放っておけば、取得段階や保有段階のエコカー減税等による「環境負荷の低減」のインセンティブは徐々に減衰していくことになる。

また、現状の税制は自動車の保有や利用形態の変化が十分に考慮されていない。例えばトヨタ自動車は、税金や保険料の支払いや、車両メンテナンス等の手続きをパッケージ化して、月額定額で乗りたい車を保有せずに利用する新サービス(KINTO)を2019年から日本でスタートさせる。しかしこのサービスでは、税金が保険料や車両メンテナンス費と一体化されているため、現行の取得段階や保有段階のエコカー減税等による税負担の軽減は曖昧になり、消費者に与える「環境負荷の低減」のインセンティブは薄まってしまうおそれがある。

日本政府は、平成31年度与党税制改正大綱の検討事項の中で、自動車関連諸税について環境負荷の低減や財源の安定的な確保の観点で、中長期的な検討を行うことを定めた。しかしながら、KINTOのような新サービスが出現し始める中、短期的な視点でも、既存税制のままでは「環境負荷の低減」に資する自動車税制として十分な役目を果たせなくなる可能性がある。今後の自動車税制の検討にあたっては、自動車業界の変革期を見据えた早期の検討を期待したい。