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2019年6月3日

洋上風力発電導入のカギを握るSEPの動向

グローバルイノベーション&エネルギー部 古林 知哉

2018年7月に第5次エネルギー基本計画が閣議決定され、再生可能エネルギーを主力電源化していくことが政策の方向性として明記された。今後、2030年の再生可能エネルギーの電源比率22~24%達成に向けて導入が進められるが、その中でも大量導入を期待されるのが、洋上風力発電である。

洋上風力発電は、島国である日本において、海底に基礎を固定する着床式であれば9000万kWと国内の総発電容量の約3分の1のポテンシャルがあるものの、事業環境等の課題から導入が進んでいなかった。しかしながら、2019年4月、「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下、再エネ海域利用法)」が施行されたことで一歩進むこととなる。一般海域において、あらかじめ調査を行い、気象、海象等の自然条件が適当で発電量が見込め、かつ漁業等に支障がないといった複数の基準に適合する区域を、国が促進区域として設定し、公募で事業者を選定するという仕組みである。公募で選定された事業者は、最大30年の事業期間中の海域の占用が許可される。2030年度までに5区域の指定を行うことを目指しており、報道では青森県や秋田県などが促進区域に名乗りを上げているとされる。

この再エネ海域利用法により、事業者の事前の調査や調整の負担が軽減されるとともに、事業の見通しが立てやすくなることから、政府が掲げる2030年に洋上風力82万kWという目標またはそれ以上の導入に向けて、洋上風力発電の開発が進むものと期待される。

洋上風力発電の建設やメンテナンスは文字通り洋上で行うため、陸上風力発電のそれとは大きく異なる。この点から、洋上風力発電の導入のカギを握ると考えられるのが、SEP(自己昇降式作業台船、Self Elevating Platform)である。SEPは、風車や基礎の設置工事や大規模なメンテナンスを行う際に用いられる大型の船である。船体を昇降させるための脚をもち、脚を海底に固定して船体を海面から持ち上げることにより、波浪の影響を受けずに作業を行うことを可能とする。また、広いデッキ面積を有しており、複数基分の風車のブレードやタワー、基礎を搭載して設置海域に輸送できるため、帰港することなく一度に複数の風車を設置することができる。

SEPは港湾土木工事やボーリング調査などさまざまな洋上の作業に用いられるが、近年ではクレーンを通常装備し、洋上風車の設置を主目的としたタイプが開発されている。特に洋上風力発電が盛んな欧州では、風車の大型化に伴い、吊上能力が1,500トン以上のクレーンを搭載したさらに大型のSEPの導入も進んでいる。今年4月には、2隻のSEPを保有するルクセンブルクの施工会社Jan De Nulが、吊上能力3,000トンのクレーンを搭載し、デッキ面積も既存のSEPの2倍という超大型SEPを2022年に完成させると発表しており、さらなる風車の大型化への対応や作業の効率化を見据えた取り組みが始まっている*1

SEPの保有者は、発電事業者や施工会社などであることが多いが、欧州ではSEPの保有者が変わることは珍しいことではなく、SEPあるいはSEPを運用する子会社ごと売却するというケースも多く見られ、筆者の確認する限りでも10件程度存在する。さらに、プロジェクト組成の一部として、SEPを建造し洋上ウィンドファーム完成後に売却するということも行われており、ビジネスモデルは多様化している。実際に、デンマークのエネルギー会社であるDONG Energy(現Ørsted)とドイツの風車メーカーであるSiemensは共同でSEPを運用する子会社を保有していたが、2017年にベルギーの施工会社であるGeoSeaに売却している*2

公開情報では、2020年までに国内で2隻程度、洋上風車の設置を目的としたSEPが導入される予定であるが、現在計画されている洋上ウィンドファームの建設にはまだまだ足りていない状況にある。再エネ海域利用法の施行により、促進区域に設定された各地域で同時期に設置工事が開始されると、発電事業者はSEPの調達に頭を悩ますことになる。欧州からチャーターする手段もあるが、欧州においてもSEPの需要は依然として高い。SEPの建造にも2年程度の時間を要するため、近いうちにSEPの建造計画の発表が相次ぐかもしれない。

洋上風力は1カ所で数十万kWといった大規模な事業になることが予想される。SEPの建造や運用のほか、洋上ウィンドファームの維持管理や洋上の気象・海象の調査といった新たな産業が創出されることで、国内はもとより導入地域への高い経済波及効果が期待される。