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2019年9月26日

埋もれ行く環境価値を利活用するために

卒FIT電源のJ-クレジット化について議論開始

環境エネルギー第2部 桂 貴暉

2019年11月、いよいよ「卒FIT電源」が登場する。一般に卒FIT電源とは、固定価格買取制度(FIT)の買取期間が終了した再生可能エネルギー電源を意味するが、本稿では、その再エネ電源の中でも昨今頻繁に話題に上る住宅用の太陽光発電を、「卒FIT電源」と呼ぶことにする。卒FIT電源は、初年度だけで約53万件の登場が見込まれており、その容量は200万kWに達する*1。これらはFIT買取期間の間に投資回収を終えているため、安価な再エネ電源として活用できる可能性があり、旧一般電気事業者や新電力が積極的に買取プランの提示を行っている。

ここで問題になるのが、卒FIT電源が持つ発電に伴う温室効果ガス排出量がゼロの価値、いわゆる環境価値がどのように取り扱われるかということだ。

卒FIT電源が発電した電力のうち、小売電気事業者に買い取られた電力の環境価値については非FIT非化石証書*2として電力と紐付けて取引することが可能である。一方、発電電力の住宅での自家消費分に関する環境価値を認証する制度は今のところ存在していない。そのため、このままでは当該環境価値は埋没してしまう。この課題に対応すべく、9月19日に開催された第19回J-クレジット制度運営委員会において、卒FIT電源のJ-クレジット制度対象化に向けた議論が始まった。

前提として、現状のJ-クレジット制度において、卒FIT電源を対象にすることはできない。卒FIT電源には「追加性」がないためである。

J-クレジット制度は、環境活動への投資のうち一般には経済的にハードルが高いと判断されるようなものを、この制度の後押しにより実現させることを理念としている。このようなプロジェクトにおいては、J-クレジット制度が存在することで、“追加的”に温室効果ガスの排出が削減され、追加性を持つと見なされる。

具体的に、各プロジェクトが追加性を有しているか否かは、主に設備の投資回収年数が3年以上であること、および当該設備の運転開始後の経過年数が2年以下であることの2点をもって判断される。卒FIT電源は設備の稼働から10年が経過しており、またすでに投資回収も完了してしまっていることから、追加性を持たないと判断される。そこで、たとえば自家消費の一層の拡大により系統の負荷を軽減することが、温室効果ガスの排出削減に寄与するとの考えの下、それらに資する設備*3への追加的な投資を行うことで、卒FIT電源をJ-クレジット制度の対象とし、自家消費した電力の全量をクレジット化することを認める事務局案が提示された。

事務局の試算によると、今秋登場する全ての卒FIT電源からクレジットが創出された場合、その量は年間60万t-CO2程度に上ることが示された(自家消費率を60%と仮定)。これは、これまでのJ-クレジットの平均的な年間認証量の約半分に相当する。早ければ2019年度末、企業の再エネ電力調達における新たな選択肢が登場するかもしれない。

  • *1)住宅用太陽光発電設備のFIT買取期間終了に向けた対応(資源エネルギー庁「再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会」資料)
    (PDF/1,360KB)
  • *2)卒FIT電源、大型水力等、FITの適用を受けていない非化石電源が発電した電力の非化石価値を証書化したもの
  • *3)具体的な設備としては、出力制御機能付きパワーコンディショナー、蓄電池、電気自動車、貯湯槽付きヒートポンプが提示された。