経営・ITコンサルティング部 紀伊 智顕
デジタルテクノロジーの急速な進展および普及に伴う産業構造、社会のあり方の変革
近年デジタルテクノロジーの急速な進展および普及に伴い、個々の製品やビジネスのみならず産業構造、社会のあり方までもが大きく変わりつつある。
最もわかりやすい例がスマートフォンの登場である。
かつて人気だったデジタルカメラやビデオカメラ、音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、地図、手帳、カーナビゲーションなどが、2007年に登場したスマートフォンにより、わずか10数年で大幅にシェアを奪われている。たとえば、デジタルカメラの2018年の国内向け出荷台数は約284万台と前年から19.2%減少しており、ピークだった2008年の約1111万台と比べ、約1/4にまで落ち込んでいる。
また、スマートフォンやクラウドなどを活用したP2Pビジネスのスタートアップが短期間で急速にユーザーを増やし、既存の産業構造に大きな影響を与えるケースも増えている。時間に余裕のある自家用車所有のドライバーとタクシーより手軽快適かつ安価に車で移動したいユーザーをUI/UXに優れたスマートフォンアプリでマッチングし、相乗りによる移動を提供しているUberは、現在60カ国以上、700以上の都市で年間500億件以上のマッチングを行い、毎日1800万人が利用している。Uberは設立して10年経っていない(2009年創業)にも関わらず、時価総額は創業80年超のトヨタ自動車の1/3に迫る約8兆円に達している。
下の図表は、筆者が米国出張時にサンフランシスコ市内と空港の移動において、往路をタクシー、復路をUberと同じくライドシェアサービスを展開するLyftを利用した際の領収書である。タクシーでは、筆者の発音が悪いこともあり目的地のホテル名を伝えて運転手が理解するまで時間を要したが、Lyftはアプリで設定した国際線ターミナルにスムースに向かい、かつ料金も同じルートにも関わらず1/2程度と安いなど、快適かつ安価なサービスを受けることができた。デジタルテクノロジーを用いて急成長するスタートアップが既存産業や我々の生活を変えつつあることを実感した。

米国でのタクシー領収書(左)とLyftの領収書(右)
近い将来、あらゆるモノにセンサーが付与され、位置や稼働状況、温度など、状態や周辺環境に関する情報を収集することが可能となる。無数のIoTセンサーから集められた膨大なデータは、容量の制約がないクラウド、あるいは改ざんが困難なブロックチェーンに収められる。こうした膨大なデータを人手で分析することは困難なことから、AIの活用が急速に伸びている。また、AIでの分析結果を基に、ロボットやRPAなどロボティクス技術を用いて自動実行することにより、省力化と高付加価値化の実現が可能となる。こうしたデジタルテクノロジーの急速な進展および普及に伴う新しいビジネスモデルの登場により、今後あらゆる業界で破壊的な変革が進むと想定される。
IoTデータ×クラウド/ブロックチェーン×AI⇒ロボティクスなどによる自動実行

さまざまな分野における破壊的変革が進展

ビジネスの顧客接点は、カスタマイズ×O2Oへ
前述の「IoT×AI×クラウド/ブロックチェーン⇒ロボティクスなど自動実行」の進展等により、今後あらゆるビジネスの顧客接点は、「マス×リアル」から「カスタマイズ×O2O(Online to Offline)」へと大きく変化していくと考えられる。
たとえば、従来情報の入手はいわゆるマスメディアが主流であったが、関心領域やキーワードに沿ってキュレーション*1を行う、さまざまな立場の識者コメントから多角的な視点が得られるニュースアプリが注目を集めている。また、衣食住や美容・健康においても、モノを所有せずに借りるサブスクリプションモデルや、ユーザーの精神・肉体の状態に合わせてカスタマイズして提供するサービスも増えつつある。さらに近年は、我々のあらゆる生活やビジネスに関わる移動交通分野においてもMaaS*2が注目されるなど、今後こうした動きはますます加速していくだろう。
もちろん短期間で全ての既存ビジネスが新しいビジネスモデルに駆逐されたり、既存ユーザーが新しいサービスに乗り換える訳ではないが、5~10年の中長期的スパンにおいては、IoT、AI、5G、量子コンピュータ、ブロックチェーンなど、現段階では未成熟のテクノロジーが社会インフラとして根付き、小売や交通などあらゆる産業分野において、これまで以上に激しい変革が起きると想定される。
デジタル社会においては、スマートフォンやIoTデバイス、キャッシュレスやMaaSの利用等を通じて収集した顧客データを、属性のみならず時間や場所、感情や体調等を考慮しつつ、かつプライバシーに配慮したうえで、ほしい時にほしい場所でほしいモノやサービスを、素早くダイレクトにつながるオンライン(デジタル)と親密な対面コミュニケーションによるオフライン(アナログ)を巧みに組み合わせて提供することが重要になってくる。そのため、IT企業に限らずあらゆるプレーヤーが、デジタルテクノロジーを活用した既存ビジネスの変革や新規ビジネスの創出に果敢にチャレンジしていくことが不可欠となるだろう。
あらゆるビジネスの顧客接点が、“マス×リアル”から“カスタマイズ×O2O”へ

- *1)情報を選んで集めて整理すること。
- *2)Mobility as a Serviceの略。出発地から目的地までの移動ニーズに対して最適な移動手段をシームレスに一つのアプリで提供するなど、移動を単なる手段としてではなく、利用者にとっての一元的なサービスとして捉える概念。
紀伊 智顕(きい ともあき)
みずほ情報総研 経営・ITコンサルティング部 シニアコンサルタント
RFID、ITS(高度道路交通システム)、スマートコミュニティなど、IoT、AI、ビッグーデータ関連の調査・コンサルティング、実証実験・PoC実施支援に携わる。2016年8月よりみずほフィナンシャルグループ デジタルイノベーション部 シニアデジタルストラテジストを兼任、Fintech分野(クラウドファンディング、ブロックチェーン等)の新規事業検討・開発を担当。
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