環境エネルギー第2部 藤間 義人
2015年のパリ協定合意以後、二酸化炭素削減を目的とした自主的取り組みは驚くほど進化を遂げた。SBT等の国際的な気候変動イニシアチブが力を持ち始め、先進的な企業や投融資家がその取り組みに賛同を表明した。多くの企業がパリ協定に合致した目標設定を行うとともに、具体的な行動を起こし始めた。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の特別報告書が発表されれば、それに合わせて目標を2℃から1.5℃に引き上げるなど、イニシアチブ運営者は本気だ。一方で、日に日に増加するイニチアチブと、それに合わせて増加する企業への要求に対して、困惑している企業担当者も少なくない。現場からは「できない」といわれ、社内調整をクリアして対外発表しても、外部からは「不十分」と批判される。では、できもしない絵を描くことが正解なのか?と悩まれた方も多いだろう。
現状、企業の二酸化炭素排出削減は、省エネルギー化、再生可能エネルギーの調達もしくは証書等の購入のいずれかだ。省エネルギー化には限界があり、再生可能エネルギーの導入も、地理や技術成熟度に依存する。米国のように広大な土地があれば太陽光・風力の導入は容易だが、日本では限界がある。国内の海洋資源は豊富だが、その利活用技術は未成熟だ。カーボンオフセット*1という手段もあるが、現状、SBTはその利用を認めていない。現状のルールは、日本のような国にとって不利といわざるを得ない。日本が欧米と同じ土俵で戦えるようにするためには、ルール変更は必須だ。
一方で状況は変わりつつある。2019年、Shellは森林保護等に3億ドル投資してカーボンオフセットする計画を発表し、英国にてカーボンオフセット付ガソリンを追加料金なしで販売し始めた。また、Shellは同年、イタリアの自動車部品メーカCLN、東京ガス等に対してカーボンオフセットLNGを販売した。その他、COP25を控え国連主導によるREDD+*2の試行も始まった。SBTの運営主体であるWRI(世界資源研究所)やShell等が参画する気候変動イニシアチブEnergy Transitions Commissionは、2018年に発表したレポートで、特に鉄鋼、化学、セメント、輸送産業(航空・船舶・自動車)の移行手段として、カーボンオフセットおよび天然ガスは有用であると評価した。
CORSIA*3を見据えている部分も多分にあろうが、幸運なことに、世界はカーボンオフセットの活用に動き出している。熱の低炭素化に苦慮している企業にとっては朗報だろう。カーボンオフセットには課題もあるが、CO2フリーメタンや水素が実現されるまでの移行手段の候補として一考に値すると考える。
- *1)経済活動等における避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、排出量に見合った温室効果ガスの削減活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせる手法。
- *2)途上国での森林減少・劣化の抑制や森林保全等による温室効果ガス排出量の減少に対して、国際社会が資金などの経済的なインセンティブを付与する手法。
- *3)Carbon Offsetting and Reduction Scheme in Aviationの略。2016年、国際民間航空機関(ICAO)により創設された国際航空のためのカーボンオフセットおよび削減スキーム。