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非化石証書の価格に関する試行的な分析

技術動向レポート

環境エネルギー第2部 コンサルタント 中村 悠一郎

本稿では、2018年5月より取引が始まった非化石証書の価格について、類似制度であるJ-クレジットの取引情報から分析を行った。国が定める非化石証書の最高及び最低入札価格は、“再エネ電力価値”の価格と需要量に関するデータの蓄積と分析を踏まえてなされるべきである。

非化石証書の価格に関する試行的な分析(PDF/724KB)

2018年5月に取引が始まった非化石証書は、5月と8月に2回入札が実施されたが、どちらも総販売量は総販売可能量の0.01%程度にとどまった。一方、2018年4月に実施されたJ-クレジットの入札販売では、再エネ発電由来J-クレジット(以下、J-クレジット)の総販売可能量約8億kWhに対して2倍を超える約16億kWhの入札があり、全量が落札された(図表1)(1)

図表1 非化石証書とJ-クレジットの入札結果比較

図表1

(資料)一般社団法人日本卸電力取引所HP、J-クレジット制度HPより筆者作成

非化石証書とJ-クレジットは、法律上の位置付けや取引形態等に違いがあるとはいえ、本質的には電力の需要家における“再エネ電力価値”の調達手段という意味で同じものと見なすことができる。それにも関わらず、これほどまでに極端な違いが発生している原因の一つに、両者の価格設定の違いがあると考えられる。非化石証書は最低入札価格:1.3円/kWh及び最高入札価格:4.0円/kWhと、入札価格に上限及び下限が定められている。J-クレジットも最低入札価格(非公表)が定められてはいるものの、第2回以降、総販売可能量の全量が落札されていることから、最低入札価格は販売量加重平均価格を下回っていることが理解できる。つまり、事実上、定められていないことと等しい状況にある。このことが両者の入札販売の結果に違いをもたらしていると考えられる。そこで、本稿では、両者の入札販売の結果から“再エネ電力価値”に対する需要曲線を推計し、非化石証書の価格の設定方法に関する示唆を得る。

J-クレジット制度HPによれば、第1回から第5回までのJ-クレジットの入札結果は図表2の通りである。

図表2 J-クレジットの入札結果推移

図表2

(資料)J-クレジット制度HPより筆者作成

多くの場合、J-クレジットは事業者間の相対にて取引が行われ、入札販売以外に指標となる価格情報は存在しない。このため、入札販売に参加する事業者は、「1回前の入札結果を指標価格とし、今回の入札販売への入札量及び入札価格を決定する」と考えられる。つまり、図表3のように指標価格と需要量が対応すると仮定する。

図表3 指標価格と総入札量の対応関係

図表3

(資料)J-クレジット制度HPより筆者作成

図表3のうち、価格と総入札量がどちらも存在する第3回から第5回までの3セットに加え、図表1の非化石証書の価格と総入札量の2セットの合計5セットをサンプルとし、需要曲線を推計する。これら5セットの散布図を図表4に示す。

図表4 J-クレジット及び非化石証書の価格と総入札量の散布図

図表4

(資料)一般社団法人日本卸電力取引所HP、J-クレジット制度HPより筆者作成

図表4からは、明らかに右下がりの関係性が確認できる。つまり、J-クレジットや非化石証書の価格が上昇すれば、需要量に相当する総入札量が減少するという関係である。このような関係性が現れる要因には、価格の他、それぞれの入札時期や法律・制度上の位置付けの違い等、様々なものが考えられるが、詳細な要因を分析するにはサンプル数が不足している。このため、本稿ではこれらの要因は考慮せず、需要量と価格の関係だけに着目することとする。

サンプル数として決して十分ではないが、図表4のデータセットを用い、J-クレジットと非化石証書を“再エネ電力価値”という1つの商品と見なし、試行的に需要曲線を推計してみたい。需要量は価格の上昇に伴ってゼロに漸近すると考えられるため、自然対数をとった価格を説明変数として推計する。最小二乗法を用いることで、5つのデータセットから図表5の青線:需要曲線が推計された。さらに、対応する価格と需要量を乗算することで求められた売上を同図表5の赤線:売上曲線で示している。

価格の上昇に伴い需要量は逓減するため、売上は上に凸の曲線を描く。これは、経済学における一般的な財・サービスの需要曲線及び売上曲線と同様の形状である。

2018年度から取引が開始された非化石証書は、その売上を以て国民のFIT賦課金負担を軽減させることが目的である。この目的の最大限の達成のためには、非化石証書の売上を最大化することが必要である。本稿で推計した需要曲線及び売上曲線に従えば、0.4~0.6円/kWhの価格帯において“再エネ電力価値”の売上は最大となる可能性が示唆された。筆者が様々な事業者(小売電気事業者、電力の需要家等)に対して行ったヒアリングにおいても、“再エネ電力価値”に対する支払い意思額として0.5円/kWh程度という回答が多く得られており、これと整合する結果といえる。つまり、現行の非化石証書の最低入札価格:1.3円/kWhは、売上の最大化という目的に対しては高すぎるといえる。ただし、繰り返しになるが、価格以外の変動要因を除外し、サンプル数も少ないという前提条件の下での推計であり、0.4~0.6円/kWhという値の統計的信頼性は担保されるものではない。

本稿では、試行的な分析ではあるものの、“再エネ電力価値”に対する需要曲線を推計し、非化石証書の価格の設定方法について検討を行った。その結果、一般的な財・サービスと同様に、“再エネ電力価値”についても、右下がりの需要曲線と上に凸の売上曲線が描け、その際、売上を最大化する価格帯は0.4~0.6円/kWh程度である可能性が示唆された。今後、非化石証書の価格の見直しに際しては、“再エネ電力価値”の価格と需要量に関するデータを蓄積し、本稿のような分析を通じて、売上を最大化するような価格設定、制度設計がなされるべきであろう。

図表5 “再エネ電力価値”の価格と需要量、売上の関係

図表5

(資料)筆者作成

  1. (1)J-クレジットは本来“t-CO2”単位で取引がなされるが、本稿では“kWh”単位で取引される非化石証書との比較を行うため、電力の排出係数を例年の全国平均係数とほぼ等しい0.5kg-CO2/kWhと想定し、“kWh”で表記する。

本レポートは当部の取引先配布資料として作成しております。本稿におけるありうる誤りはすべて筆者個人に属します。

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