環境エネルギー第1部 森岡 千佳子
2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が制定され、国民ひとり一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成を目指す「地方創生*1」という言葉が取り上げられて以降、我が国では「地域」を主眼に置いた施策が数多く展開されている。また、「誰一人取り残さない」世界の実現を目指すSDGsの考え方が、人口減少や地域経済の衰退といった多くの地域が抱える課題の解決に通じるところも多いことから、SDGsの達成に向けた動きが持続可能な地域の実現につながると期待されているところである。
では、持続可能な地域づくりに最も必要なものとは何か。それは、地域のさまざまな資源を活用して経済を動かし、歴史や文化を生み出す「人」と「人のつながり」であると筆者は考える。もちろんそこには、人々が安心・安全に暮らせること、安定した雇用や暮らしの基盤の維持があってこそではあるが、その地域を愛し、住み続けてくれる人を育て、その人と人とがつながってはじめて、持続可能な地域が実現するのではないだろうか。
以前担当した業務で、中国地方の流域圏に位置する4つの自治体を集めて協議会を設けたことがある。隣接する自治体ながら、担当者間の交流はそれまでほとんどなかったとのことだったが、2年間の事業の中で木質バイオマスをテーマに勉強会や検討を行った結果、数年後には4つのうち2つの自治体が「バイオマス産業都市」に認定された。この時、中心になっていただいたのは地元大学の副学長も務められた有識者で、協議会に参加したのは、その有識者が声掛けして集まったそれぞれの地域を盛り上げることに熱心なメンバーであった。地域のリーダー的な1人が作った人のつながりが、持続可能な地域づくりに向かって動き出したよい例といえよう。
環境省も、環境・経済・社会の統合的向上を目指す地域循環共生圏*2の形成とSDGsの実現を目指し、さまざまな地域課題の解決に取り組める人材を発掘することを目的として、概ね35歳以下の若手人材を対象とした「持続可能な地域の未来づくりに向けたSDGsリーダー研修*3」を2019年度よりスタートしている。
2019年10月から12月にかけ、全国3カ所で開催されたこの研修に参加したのは、地域を盛り上げていこうという熱意を持った自治体職員や会社員、NPOや地域おこし協力隊に参画している人など多岐にわたる総勢65名。「はじめまして」から始まった人と人とが、2泊3日の座学や視察、懇親会等を通じて打ち解け合い、最終日には、各自が考えている事業構想を、それぞれの立場や経験から意見を出し合ってブラッシュアップしていく。「その課題はここに相談するとよいのではないか」「Web開発の部分なら私も手伝える」「それ、あの人が詳しいよ」…など、多彩な業種の人の集まりならではのつながりがそこに形成されていった。
研修終了後の現在も、参加者および研修に参加した講師やメンターなどとFacebook等のSNS*4を活用した交流が行われている。地方都市が抱える少子高齢化や人口減少による担い手不足などの課題をものともせず、地域を愛し、地域のために盛り上げていこうとする熱意を持ったSDGsリーダー研修参加者。まだスタートしたばかりではあるが、この人々が今後キーパーソンとなって地域を引っ張るとともに、研修で構築した「人のつながり」をもとに、地域内外で協力し合える人々と連携し、持続可能な地域づくりの輪が全国に広がっていくことに期待したい。
- *1) 内閣官房・内閣府総合サイト「みんなで育てる地域のチカラ 地方創生」
- *2) ローカルSDGsともいわれ、地域資源を活かし、自立・分散型の社会を形成しつつ、各地域の特性に応じて近隣地域と補完し支え合う考え方で、これにより、ローカルビジネスの創出や地域経済の活性化、経済循環の拡大への貢献も期待されている。
- *3) 持続可能な地域の未来づくりに向けたSDGsリーダー研修(環境省)
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*4)
SDGs Leader
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