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2020年9月15日

資源戦略の新たな視点

脱炭素社会の形成に資する鉱物資源の戦略的確保について

環境エネルギー第2部 宮本 渉

再生可能エネルギー(以下、再エネ)は、脱炭素社会の形成に貢献する観点から、「環境価値」を持つエネルギーとして重要な役割を担っている。加えて、海外の化石燃料資源に頼らない「国産エネルギー」という点においても重要な役割を担っている。しかし、後者の国産エネルギーについては、議論の余地があるのではないだろうか。

再エネ発電技術の多くは、従来の火力発電技術とは異なり、多種多様な鉱物資源(たとえば、太陽光発電であればインジウムやガリウム、風力発電であればネオジムやジスプロシウム等)が利用されている。他方で、それらの多くは日本国内で産出されない鉱物資源であり、国外に依存せざるを得ない状況である。特に、ネオジムやジスプロシウム等のレアアースは中国に偏在しており、有事の際に供給が不安定になるなど、リスクを含んだ鉱物資源として認識されている。鉱物資源に乏しい日本にとって、再エネ発電技術に利用される鉱物資源を戦略的に確保しておくことは、2030年や2050年を見据えた再エネ導入拡大に向けて、重要な要素の1つであると考えられる。

鉱物資源の戦略的確保を議論するうえで留意しなければならない点は、鉱物資源ごとの「重要度」をどのように定めるか、ということである。2020年3月に公表された「新国際資源戦略*1」においても、産業規模によって評価される「経済価値」と、埋蔵量の偏在性等で評価される「供給上のリスク」等が考慮され、鉱物資源ごとの重要度が定められている。再エネ発電技術に利用される鉱物資源を評価する場合は、これらの視点に加え、冒頭でも触れた再エネの特長の1つである環境価値を考慮すべきではないだろうか。たとえば、再エネ導入による「CO2排出削減量」を鉱物資源ごとの貢献度に応じて割り当てることで、鉱物資源が持ちうる環境価値の評価が可能となる。経済価値や供給上のリスクでは考慮されない環境価値を評価に組み込むことで、再エネ発電技術に利用される鉱物資源の重要度が適切に定められるだろう。

梶山経済産業大臣の「再エネ主力電源化」発言*2にも表れているように、再エネの重要性は今後益々高まることが予想される。将来の再エネ導入拡大に備えると、再エネを国産エネルギーとして安易に捉えるのではなく、再エネ発電技術には多様な鉱物資源が利用されている「国外鉱物資源に依存したエネルギー」であると捉え、戦略的に重要な鉱物資源を確保しておくことが必要ではないだろうか。将来の再エネ導入計画と脱炭素社会形成へのインパクトを勘案し、新たに環境価値の視点を盛り込んだ「資源戦略」、加えて述べるならば、鉱物資源の戦略的な議論を勘案した「エネルギーミックス」の検討が望まれる。