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産業洗浄と環境対策

みずほ情報総研 環境エネルギー第2部 シニアコンサルタント 和田 宇生

  • *本稿は、2020年3月13日付の日刊工業新聞に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。

産業用洗浄剤の出荷量のうち、半分以上は溶剤系が占め、大気中に排出される。排出抑制対策には運転条件の調整、装置の改造、排ガス処理設備の導入などがあり、新規洗浄装置の導入も有効である。全国的には大気排出量は大幅に減少したが、地場産業などで中小企業が集中している地域では、新たな取り組みが望まれる。

排出抑制 中小対策が重要

産業用洗浄に使われる洗浄剤には溶剤系、水系、準水系などがある。溶剤系洗浄剤はさらにハロゲン系、炭化水素系などに大別され、ともに油に対して溶解力が強いという特徴があり、金属加工における脱脂などに使われている。また、水系洗浄剤はケン化や乳化などの作用で油を水溶化するという特徴があり、鉄鋼分野などで使われている。準水系洗浄剤は精密洗浄に適しており、電気機械器具、精密機械器具分野などで使われている。

重量ベースでは溶剤系が出荷量の半分以上を占めると推測され、環境中への排出は大気が大半である。

2017年度の環境汚染物質排出移動登録制度(PRTR)による届け出情報をもとに洗浄剤用途と推定されるジクロロメタン、トリクロロエチレンなどのハロゲン系物質のデータを集計すると、従業員規模が300人以下の事業所の占める割合は、排出量ベースでは約8割、届出件数ベースでは約9割に上る(表1、図)。したがって、排出抑制という観点では中小企業対策が重要である。

大気汚染防止の対策として(1)運転条件の調整(2)装置の改造(3)排ガス処理設備の導入―などがある(表2)。このうち、「(1)運転条件の調整」では有効な手段の一つとして冷却水温度の適正化が挙げられる。冷却管の詰まりが生じている場合や他用途との水の併用で水温が上がっている場合など、詰まりの除去や給水ルートの変更、チラーの使用などで、冷却効果が上がり、洗浄槽からの排出が抑えられる。また「(2)装置の改造」ではフリーボード(蒸気層上面から洗浄槽の上端までの長さ)の嵩上げが有効としてよく実施されている。

これらの対策は簡易なもので、効果は限定的であるが、一つ一つを見直し、複数の対策を合わせて行うことで、一定の効果が期待できる。

「(3)排ガス処理設備の導入」としては活性炭吸着が代表的である。洗浄用に使われる溶剤は単一成分であるため、吸着した溶剤は蒸気などを当てて回収し、洗浄剤として再利用される。深冷凝集という排ガス処理が採用されている場合もある。また、排出抑制対策として洗浄剤を揮発性の低い物質に変更する方法もある。しかし、この場合は新たに使用する洗浄剤成分の毒性や環境影響などを事前に十分把握しておくことが重要である。概して、排出抑制対策にかけるコストが大きくなるほど、排出抑制効果が大きい傾向にある。

図 PRTR届出におけるハロゲン系洗浄剤の大気排出量の推定(2017年度)

図表1

(注)鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、精密機械器具製造業の大気排出量の合計値。


表1 PRTRにおけるハロゲン系洗浄剤の届出件数の推定(2017年度)

従業員規模 届出事業所数 割合

50人以下

391

39%

51~100人

247

25%

101~300人

234

23%

301~500人

53

5%

501~1,000人

31

3%

1,001人以上

46

5%

1,002 100%

(注)図の4物質について、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、精密機械器具製造業の大気排出量の合計値。

地域一体の取り組み 新技術開発・導入カギ

実際に中小企業の洗浄現場を訪問してみると、今から30年以上前の環境意識が現在ほど高くなかった時代に製作された古い洗浄装置をよく見かける。洗浄装置は製造のメーンの装置ではないが、洗浄は製品の品質を左右する重要なプロセスである。新規の洗浄装置を導入すると、洗浄剤の排出量が大幅に減り、洗浄剤の消費量も減ることが期待され、環境対策としても新規投資は有効と考えられる。

産業用洗浄剤由来の揮発性有機化合物(VOC)については、06年以降、国としてVOC排出抑制対策が進められ、全国的に排出量が大幅に下がった。しかし、地域別に見ると、地場産業で中小規模の同業者が集中している一部地域で、環境中の濃度が比較的下がりにくいという課題も明らかになってきている。今後は、地域が一体となった取り組みとともに、洗浄方法自体の見直しや新しい洗浄技術を開発・導入するなどの取り組みも重要だろう。

表2 溶剤系洗浄剤の大気への排出抑制対策

運転条件の調整

洗浄の必要性、清浄度の見直し
洗浄機の起動・停止の手順の見直し
冷却水温の適正化、チラーの設置
洗浄物の置き方の工夫
洗浄機周辺の風の低減
局所排気による吸引過剰の防止
洗浄物の移動速さの見直し
洗浄後の液切り、乾燥の徹底 など

装置の改造

蓋の設置
フリーボードの嵩上げ
局所排気の形式の変更 など

設備の導入

排ガス処理装置(活性炭回収、深冷凝縮)の導入
新規洗浄装置の導入 など

洗浄剤の転換

揮発性の低い洗浄剤への転換 など