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2021年3月9日

復興は次の10年へ

東日本大震災後の企業立地補助金の変遷と今後の地域づくりへの期待

社会政策コンサルティング部 金澤 雅樹

復興庁の設置期限は2030年度末まで延長

2011年3月に発生した東日本大震災から10年となり、報道各社で様々な特集が組まれている。政府は2015年度までを「集中復興期間」、2020年度までを復興の総仕上げとした「復興・創生期間」と位置づけ、今年度末を復興庁の設置期限として政策を推進してきた。復興は着実に進む一方、今後も復興の状況に応じた取組が必要であることから、2019年12月の閣議決定では新たに2026年度までを「第2期復興・創生期間」とし、復興庁は2030年度末まで10年の設置期限延長が決定されている。

特に被災が大きかった岩手県・宮城県・福島県の復興状況を被災前と直近の製造品出荷額等の比で見ると、宮城県と岩手県は130%以上だが、原発被災も抱える福島県は103%と回復が遅れている。市町村別には、例えば宮城県塩釜市が128%と県平均に近いが、石巻市は95%、女川町は48%。同様に福島県相馬市が202%と大きく伸びているが、いわき市は97%、広野町は63%というように大きなバラつきがある(以上は、経済産業省「工業統計調査」2010年と2018年の調査データから筆者分析)。土地のかさ上げ・区画整理が続く津波被災地域や福島第一原発周辺には避難指示が続く地域を中心に、今日も多くの復興事業が継続されている。

被災地向けの企業立地補助金の変遷

震災直後から製造業等支援のために創設された補助金事業は、復興の大きな後押しとなってきた。工場等の新増設を支援する目的とした企業立地補助金は被災企業に限定するものではなく、被災地で工場等を新増設する製造業等に対し、投下固定資産額に応じた雇用創出を要件に付すことで、企業立地を促進し震災後急速に落ち込んだ産業の復興と雇用の回復を目指ざしたものである。

具体的には、2011年から「ふくしま産業復興企業立地補助金」(予算総額約2,000億円)、2012年から「原子力災害周辺地域産業復興企業立地補助金」(同140億円)、2013年から「津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金(津波補助金)」(同2,090億円)が次々に制度化された。また2016年には福島第一原発周辺の12市町村の支援をより重点化するため「自立・帰還支援雇用創出企業立地補助金(自立補助金)」(同673億円)が飲食店・ホテル・社宅等にも対象施設を広げる形で創設された。

そして2019年12月の閣議決定では津波補助金の制度延長と対象地域の重点化が決定。2021年度には自立補助金は215億円の追加予算措置を行い、福島イノベーション・コースト構想の重点6分野(廃炉・ロボット・医療・環境・農林・航空)については、浜通り3市町等に区域を拡充した対応等も行う予定としている。

これら大規模な予算措置による企業立地補助金は被災地の建設・設備投資に加え、確実な雇用創出をもたらしている。復興庁・経済産業省の令和2年度基金シートによると、例えば津波補助金のアウトカム指標に約6,000人の雇用人数が掲げられ、令和元(2019)年度時点では4,975人の実績を数える。

このように復興が遅れている地域はある中で、雇用創出の面では確かな実績も見られているところ、企業側にも自治体側にもメリットの大きい補助金の活用の在り方について考察してみたい。

企業は長期目線の補助金活用を

以上で示した補助金は、土地取得費も補助対象として制度設計されたことが大きな特徴である。製造業等の既存工場が投資拡大する、あるいは域外から工場が新規立地する上で、企業が土地を購入することは、製造業等の長期の定着を望む被災自治体にとっては望ましいことであった。そのため雇用要件を規定する投下固定資産額からは「土地取得費を除く」ことができるようになっている。

一方、補助事業で取得した財産は、減価償却期間中は目的外使用等の財産処分制限がかかる。制限期間は、土地は減価償却しないため永久であり、建物も構造によっては30年を超える。近年の目まぐるしい社会経済状況の変化に対応すべく、機動的な動きを見せたい企業にとっては、補助金を受領した工場等が将来の新たな企業活動の妨げになってしまうことは避けたいはずである。企業は補助金の要件を十分に確認し、初期投資で得られる補助のメリットと将来受ける利用制限とのバランスを見極めた対応が不可欠である。また、国としても長期の処分制限期間の在り方や運用について新たな議論も求められよう。

被災自治体は地域政策と連携した補助金活用を

被災自治体は、企業立地に関わる支援策が重点的に行われている地域である。他方、被災地ではない自治体は国の予算措置に頼ることなく独自の企業誘致施策を展開してきており、被災自治体は、補助金の有無に関わらず全国の自治体に競り勝って企業を呼び込んでいくことが求められる。

企業はサプライチェーンの強靭化等を目指し、企業活動の中で国内に限らず世界中で工場等の最適配置に動くものである。補助金の支援が継続している岩手県・宮城県・福島県は、補助金を呼び水として活用しつつ、支援が終了した将来も"選ばれる地域"として生き残ることができるかがポイントとなる。2020年度から津波補助金の対象地域から外れた青森県と茨城県の企業誘致の取組は、その試金石として注目していきたい。

被災自治体が、それぞれの地域の産業政策や移住定住施策と連携しながら企業立地補助金を活用することで、"ポスト補助金"を見据えた独自の地域づくりに繋がっていくと信じている。