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2021年12月27日

障害のある子どもたちの豊かな生活のために

障害児入所施設の役割と支援

社会政策コンサルティング部 玉山 和裕

障害児入所施設とは

本稿をご覧の皆様は障害児入所施設をご存知だろうか。障害児入所施設は障害のある子どもに、家庭に代わり家庭の機能を提供しながら、ウェルビーイングの実現に向けた支援も提供する施設であるが、近年ではその機能強化に向けた在り方の検討が行われ、また支援の質の確保・向上等を目的とする運営指針が作成・公表されるなど、様々な動向もみられる施設である。

本稿では、令和3年9月に厚生労働省より発出された「障害児入所施設の運営指針」*1(以下「指針」)にも触れつつ、当指針案の作成を支援した筆者なりに考える障害児入所施設の役割や意義、今後の取組課題をお伝えしたい。

  • 本コラムの内容は筆者の見解に基づくものであり、厚生労働省や指針作成に携わった有識者、及び当社の見解を代表するものではない点に留意されたい。

施設の目的・役割

障害児入所施設は児童福祉法に定められた施設である。子どもの特性、必要な支援・医療に応じ「福祉型」「医療型」の2つに整理され、以下の目的・役割が置かれている。

  目的・役割 施設数*2
福祉型障害児入所施設 保護、日常生活の指導及び独立自活に必要な知識技能の付与 255か所
医療型障害児入所施設 保護、日常生活の指導、独立自活に必要な知識技能の付与及び治療 218か所

また「入所施設」ということで、障害が重く在宅生活が難しい子どもの施設、というイメージもあるだろう。実際、家庭から得られる様々な学びや居心地の良い安らぎの環境を、家庭に代わり子どもに提供することは、指針にも記載されている障害児入所施設の大きな役割の一つである。

これに加え、障害児入所施設の大変重要な役割として、指針では子どものウェルビーイング(wellbeing)の実現が掲げられている。障害児入所施設には子どもの発達を支援するための様々な専門家がおり、日常生活の支援や個別療育、専門的な学びを通じて得られた、子どもたちのウェルビーイングの実現に直結する知見・経験を蓄積している。さらに行政、学校、また特に医療型であれば医療機関など、地域の関係機関との連携体制も強固である。こうした強みを十分に発揮し、子どもの入所中に子どものみならず保護者にも適切な支援を行える点は、他の施設や支援機関にない大きな強みであり、子どもの発達支援や家庭養育の準備のための最良の手段として、障害児入所施設を活用できると言える。

施設における支援上の基本事項

障害児入所施設での支援の基本として、指針では以下のような点が掲げられた。ここではその一部について、筆者の見解も交えつつ記す。

1 子どもの意見の尊重と決定への参画

子どもの人権への十分な配慮と人格の尊重がなされるとともに、子どもが自身の意見を表明し、意思決定できることを保障する。これは国連で採択された「子どもの権利条約」の4原則の1つでもあり、障害児入所施設にとどまらない児童福祉の基本でもある。

2 心身の発達保障に向けた家庭的養育の実践

児童福祉法で定められている「家庭養育優先の原則」では、子どもはまず家庭で暮らせるよう支援される必要があるが、それが難しい場合も、できるだけ良好な家庭的環境が提供されるべきとされる。障害児入所施設は、できるだけ家庭的な環境で子どもを健やかに養育し、これにより子どもの行動上の課題の軽減、社会性の獲得等を目指す。

3 子どもと家族の関係構築に向けた支援

保護者や家庭環境の状況から、すぐの家庭復帰が難しい場合にも、親子の関係性が薄れたり無くなったりしないよう、親子関係の再構築を支援するとともに、子どもの家庭復帰に向けた支援を常に念頭に置き、検討する。

4 適切なアセスメントの実施、入所支援計画の作成

障害児入所施設で暮らす子どもの状態や特性、子どもの入所理由は非常に多種多様である。こうした障害種別や特性、置かれている環境、今後どう生活したいかという考えなどを子ども一人ひとりについて的確に理解し、その自己実現に向け入所中に目指していく目標、提供する支援内容などを評価(アセスメント)するとともに入所支援計画としてまとめ、子どもや保護者の特性、意向などを的確に理解して作成することが必要である。

上記は一部であり、この他にも指針では様々な事項が基本として挙げられている。これらのことを通し、すべての子どもの存在をありのままに受けとめ、子どもが安心・安全に過ごせる、「ありのままに生活できるあたりまえの生活」の実現を目指すことが、障害児入所施設においては不可欠である。

おわりに

障害児入所施設は、家庭に代わり子どもの生活の場を提供することに加え、その専門性を発揮し子どものウェルビーイングを保障するという、大変重要な社会的役割を有する施設であることをここまでみてきた。

課題もいくつかある。例えば、施設をより一層家庭的環境に近い形で運営することだ。様々な理由で家族の養育が困難な子どもが暮らす児童養護施設では、子ども全員が一つの建物内で暮らすという従来の形から、地域の少し大きめな一軒家で、6人など少人数の子どもが暮らすなどの、いわゆる小規模化・地域分散化が進んでいる。障害のある子どもも、こうした家庭に近い環境で暮らせることのメリットが考慮され、個々の子どもや保護者の特性・意向に沿ったより住み良い環境が提供されることが理想だ。

そのためには施設や法人の努力のみでは限界がある。公的支援が行き届くこと、政策的な議論が尽くされることはもとより、地域住民一人ひとりの意識・関心が高まることが欠かせない。地域全体の理解に根差した支え合いや包括的な支援体制の構築、いわゆる地域共生社会の実現を目指すことが、障害の有無にかかわらず、すべての子どもが豊かに暮らせる地域社会の実現にも大きく資するものと考える。そのような社会の実現に向け、筆者も微力を尽くしていきたい。

  1. *1)障発0909第1号令和3年9月9日「障害児入所施設運営指針について」
  2. *2)令和元年社会福祉施設等調査「表1 施設の種類、年次別施設数(基本票)」

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