環境エネルギー第2部 奥田 直哉
気候変動に続く地球環境問題の1つとして、「生物多様性」が国際的に注目を集めている。その背景の1つとしてあるのは、国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)である。2022年4-5月に開催されるCOP15にて、生物多様性に係る2030年までの世界目標が採択される予定である。この次期世界目標には、ビジネスと生物多様性に関する目標など、企業に関する目標も含まれる見込みである。
世界目標の採択の流れを受け、生物多様性に係る企業情報開示を促す国際的なイニシアティブの動きが活発化している。SBT*1の自然版であるSBTs for Natureや、TCFD*2の自然版であるTNFDなどが代表的な例である。生物多様性などの自然損失に対して企業が設定する目標であるSBTs for Natureは、目標設定手法の開発が進められており、2022年中に最終ガイダンスが公表される予定である。また、昨年発足し企業に対し自然への依存度と影響について情報開示を求める「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」では、2022年中にガイダンスのβ版が公表される予定である。このように、国際的に生物多様性に対する取り組みが今後加速し、企業としても対応が求められようとしている。
国内においては、日本の次期生物多様性国家戦略によって、企業が積極的に生物多様性保全に貢献できる枠組みとして重要視されているのが「OECMの活用」である。OECM*3とは、保護地域ではないが生物多様性の保全に貢献する場所のことである。COP15では、2030年までに地球上の陸と海の面積の30%の保全・保護を目指す国際目標「30by30」が検討されている。日本はこの目標達成に向けて、OECMを核に自国の陸と海を人と自然が共生する地域*4に認定していくとしている。
このOECMには、企業の緑地も該当する。企業保有の森林、ビオトープ、敷地内の緑地、建物の屋上緑地などが該当地域として考えられる。OECMの認定を受けることは、今までCSR活動として管理していた緑地が、生物多様性保全並びに国際目標の達成に貢献する地域として認められることになり、高く評価される可能性がある。また、今後保全や創出に取り組みたい企業にとっては、認定取得は1つの指標になり得るであろう。国内におけるOECMの認定基準や認定スキームは、2022年度の試行に向け現在議論が進められており*5、その動向に注目が必要である。
次期世界目標の採択および国内外のさまざまな枠組みのガイダンスが示される2022年は、これまで以上に「生物多様性」がキーワードとなり、気候変動と同様に、多くの企業が生物多様性保全に積極的に取り組む契機となる1年になると予想する。その際、自社の自然リスク評価なのか、自社緑地の整備による貢献なのか、もしくはその両方や他の手段なのかなど、さまざまなアプローチから貢献・対策を検討することが、早期かつ優位に対応していくうえで重要になるのではないだろうか。
- *1)Science Based Targetsの略
- *2)気候関連財務情報開示タスクフォース
- *3)Other Effective area based Conservation Measureの略。民間等の取り組みにより、保全が図られている地域や、保全を目的としないが管理によって結果的に生物多様性保全に貢献している地域。
- *4)環境省は仮称として「自然共生エリア」としている。
- *5)環境省「民間取組等と連携した自然環境保全(OECM)の在り方に関する検討について」