2022年3月18日 サイエンスソリューション部 賀須井 直規
はじめに
東日本大震災から11年になる。復興は現在も途上の段階である一方、近い将来には南海トラフ地震や首都直下地震といったさらなる巨大地震の発生が懸念されている。地震大国と呼ばれる我が国にあって、地震およびその関連災害に対する防災・減災(以下、地震防災とよぶ)に向けた取組の検討・実施は、ますます重要性を増している。
地震防災に向けては様々なアプローチが検討されているが、その一つとしてデータの活用がある。近年におけるAI(人工知能)やビッグデータ解析などのデータサイエンス関連技術の発展を背景に、地震動観測データをはじめ衛星画像やSNSデータなど、多種多様なデータを地震防災に役立てようという取組が注目されている。
本コラムでは、地震防災におけるデータ活用について、国内におけるその現状を整理して紹介する。
地震防災におけるデータ活用の現状
地震防災におけるデータ活用の方法は、「①事前の発生予測」、「②地震が発生したと仮定した際の被害予測(ハザード評価)」、「③発生後の被害状況把握」の3種類に大別できる。それぞれについて、概要および現状を以下に整理する。
事前の発生予測:
ある断層でいつどの規模の地震が発生するかの予測については、「南海トラフ巨大地震が30年以内に70~80%の確率で発生する」といった長期予測*1や緊急地震速報のような超短期予測は既に行われているが、十分に早く十分に高精度に予測する方法は確立に至っていない。これに向け、データサイエンス関連技術の適用や放出される電磁波データの活用に注目した研究が行われている。
ハザード評価:
地震ハザード評価とは、もし地震が発生した場合にどのような被害が出るかを予測し評価することである。1つの構造物を対象とする場合もあれば、面的な広がりを持った地域を対象とする場合もある。通常、地震動データ、地盤データ、地形データ、構造物データを基に、数理的なモデルを数値シミュレーションで解くことにより、対象とする構造物や地域の揺れを計算する。通常はよく確立されたモデルを使用するため①に比べると精度は高いものの、実行に際して多種・多数のデータを整備する必要があることや、十分な精度を確保するには何百ケース分もの計算を行って確率的な評価を行う必要があることなど、実施難度の面で課題がある。
ここでも、評価の効率化、とりわけ計算実施ケース数の削減において、データサイエンスの技術の適用が試みられている。こうした技術の開発・適用について、当社でも積極的に取り組んでいる*2。
リアルタイムでの被害状況把握:
実際に大きな地震が発生した際には、個々人の避難の方針や、行政による救助・支援計画を立てる上で、リアルタイムで被害状況を把握することが重要である。被害状況把握には、被害状況を推定することだけでなく、その情報を幅広く発信し全ての関係者に確実に共有されることが必要である。地図データ、衛星画像、SNSデータといった多様なデータを統合・活用してリアルタイムで被災状況を推定し、これを共有する取組としては、統合災害情報システム(DiMAPS)*3の開発や、災害時情報集約支援チーム(ISUT)*4によるSIP4D*5の活用といった事例がある。ISUTは、2018年の発足以降、比較的大きな地震(例えば大阪府北部地震や北海道胆振東部地震)やその他の災害において活動実績があり、ISUTにより解析・集約された各種情報は、災害発生後数日以内に防災クロスビュー*6において幅広く公表され、意思決定に活用されている。
おわりに
地震防災に関して、近年のデータサイエンス関連技術の発展を背景に、地震動データや衛星画像、SNSデータといった多種多様なデータを活用して、事前の発生予測や被害予測、リアルタイムでの被害状況把握をより早期・高精度に行うための取組が盛んである。現状、これらの取組は発展の途上ではあるが、今後、ハード・ソフト両面での事前対策指針の明確化や発災直前から発災後における避難・救助の迅速化、ひいては地震災害の最小限化へとつながることが期待される。
当社でも、データサイエンスの技術を活用した地震ハザード評価の効率化・高度化についてノウハウ・実績を保有している。こうした取組を通じ、地震防災の発展、ひいては災害に対してより強靭な社会の形成に貢献していきたい。
- *1)
地震本部による長期評価では、南海トラフ地震は、マグニチュード8~9の規模で、今後10年以内に30%程度、30年以内に70~80%、50年以内に90%以上の確率で発生すると予測されている。
(PDF/2,900KB) - *2)当社のソリューション紹介ページ「時空間データ分析技術に基づく、実験・観測・シミュレーションデータの高度活用支援」の 適用事例 / データ活用例3にて、地震ハザード評価に関する技術の例を紹介している。
- *3)災害発生時に、発生状況(震度等)や各種インフラの被害情報を集約して地図上に可視化するシステム。
- *4)災害発生現場において、SIP4Dを活用して災害情報を収集・整理・地図化し、それを共有することを通じて、意思決定を支援する活動チーム。
- *5)災害対応に必要とされる情報を多様な情報源から収集し、利用しやすい形式に変換して迅速に配信する機能を備えた、組織を越えた防災情報の相互流通を担う基盤的ネットワークシステム(引用)。内部でDiMAPSデータを参照している。
- *6)SIP4D等により共有された災害対応に必要な情報を集約し、統合的に発信している災害情報発信サイト。
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2020年11月