社会政策コンサルティング部 日諸 恵利
医療・健康情報とは
まず、本稿のはじめに、「医療情報」と「健康情報」の定義・区分けについてご説明する。これらの定義は、国際的にも決まったものは無い。その上で、現在、国内では、医療・健康情報の活用・取扱いに係る検討を行う政府の各種会議体にて、医療・健康情報の利活用上の区分について、現在も活発な議論がなされている。そこで、健康情報と医療情報を分ける上でのポイントは、個人が自らアプリケーションや家庭用医療機器等を用いて取得する情報であるか、情報の取得に医療機関が介在するかという点となっている。さらに、医療情報の中でも、その要機密性に応じてレベル分けがなされている。
次に、医療情報や健康情報について議論・検討する際にしばしば聞かれる言葉について定義等をご紹介する。一つ目は、PHR(Personal Health Records)が挙げられる。こちらは、個人の健康・医療に関する情報を電子的に記録したもので、記録内容は個人が管理し、共有範囲を決めることができる情報を指す。二つ目としては、EMR(Electronic Medical Records)がある。こちらは、個人の健康・医療に関する情報を電子的に記録したもので、同一の医療組織に所属する権限が付与された医師・その他の医療職者が作成・収集・管理する情報を指す。三つ目は、EHP(Electronic Health Records)である。こちらは、その作成・収集・管理が可能な医師・その他の医療職者の範囲が、同一の医療組織の所属に限らないという点がEMRと異なっている。
医療・健康情報の利活用に関する政策的背景・議論・関連法規制等
医療・健康情報の活用・取扱いに係るテーマを検討する政府の主な会議体としては、「健康・医療・介護情報利活用検討会」(厚生労働省、経済産業省、総務省)をはじめとして、「情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会」(総務省、経済産業省)等が挙げられる。
また、関連する法規制や指針としては、医療情報を含めた要配慮個人情報に関するルールを定めた改正個人情報保護法(平成27年9月成立、平成29年5月30日施行)、認定匿名加工医療情報の取り扱いについて定めた「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(通称「次世代医療基盤法」)(平成29年5月公布、平成30年5月施行)、さらに上述の各会議体で策定された「民間PHR事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」(健康・医療・介護情報利活用検討会)及び「情報信託機能の認定に係る指針ver2.1」(情報信託機能の認定スキームの在り方に関する検討会)等をご参照されたい。
また、現行の医療・健康情報の利活用に関する仕組みのうち、プラットフォームとしては、厚生労働省の運営する「レセプト情報・特定健診等情報 データベース(NDB)」や、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が提供する「MID-NET」などが存在する。
その他、情報の流通・利活用の担い手としては、次世代医療基盤法に基づく認定匿名加工医療情報作成事業者や、新しいビジネスモデルである民間PHR事業者、情報信託機能(情報銀行)などが挙げられる。
医療・健康情報の利活用に関する課題
医療・健康情報の利活用に関する課題としては、大きく分けて、①医療・健康情報の電子化対応、②情報の取得・収集、統合化が挙げられると考える。
まず、①医療・健康情報の電子化対応に係る課題として、電子カルテは、400床以上の大規模病院ではほとんど導入されているが、200床未満の病院や一般診療所での導入は半数に満たず、紙で管理されている状況である。この数字が意味するところは、同一個人の医療・健康情報が、大学病院や国立がん研究センターなどの特定機能病院で治療が行われた場合は高確率で電子データとして残るものの、地域の基幹病院や、一般診療所における予後管理の状況や、日頃の受診データは電子化されていない可能性があるということである。
次に、②情報の取得・収集、統合化における課題としては、①の状況も含めて、医療連携におけるデータ部分の連携は未だ途上の状況である。具体的には、個人の医療データは、医療機関別、診療科別に拡散しており、転居はもちろんのこと、同疾病の重症化による転院でもデータが断絶することもある。また、統合化にあたっては、電子カルテ等の規格が定まっておらず、開発事業者ごとに異なるといった標準化の問題も存在する。
総括
医療・健康情報は、現在は統計情報、匿名加工情報が流通・活用されている状況であり、特に医療情報については、生データ(個人情報)を用いてのビジネスはこれからの市場であるという状況である。
但し、国際的にも、わが国政府によっても、データ流通・活用は推進されていくトレンドにあり、今後も引き続き法規制の整備・改正がなされていくことが予想される。
また、現在は、医療・健康データの利活用は製薬メーカーや保険会社、大学・研究機関等が中心となっているものの、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、消費者の健康・予防意識が高まり、かつ在宅における医療・健康サービスに対する需要の高まりから、引き続き、家電メーカー、アプリケーション開発事業者、食品メーカー等の新たなプレイヤーによる業界参入が期待されるところである。
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2019年1月
『The Finance』(2018年12月26日公開)