社会政策コンサルティング部 飯村 春薫
定時に仕事を切り上げ、やり残した仕事をいつ片づけるかを考えながら、子どもを預けている小規模保育所*1に向かう。疲れが溜まる時間帯だが、保育士さんと子どもから掛けられる「おかえりなさい!」の声で、その疲労は(ほんの少しだけ)吹き飛ぶ。ばたばたした毎日の中で、この瞬間が私は何よりも好きだ。
小規模保育所とは、都市部の待機児童対策や人口減少地域における保育の基盤維持等、地域の実情に応じた多様な目的に活用できることを目指して、2015年に施行された「子ども・子育て支援新制度」により認可化された保育施設である。受入れは0~2歳児まで、定員は6~19名と、他の保育施設と比較して、その名の通り「小規模」である。認可化から7年近くが経過しているものの、小規模保育所がどのような保育を提供しているのかについてはまだ広く知られていないのではないだろうか。本稿では、当社が実施した調査結果等を参照しながら、小規模保育所の特徴を整理した上で、今後のあり方を考えてみたい。
小規模保育所の制度上の課題と魅力
厚生労働省「令和2年社会福祉施設等調査」によると、令和2年10月1日時点の小規模保育所数は5,348施設、在所者数は83,822人と、認可保育施設*2に占める割合は小さいものの、待機児童問題が深刻な0~2歳児の保育の受け皿として確実に機能している。
上述の通り、小規模保育所は2歳児までしか受け入れられないため、保護者は3歳児以降の受入れ先を探す「再保活」が必要となる。この再保活は保護者にとって負担となり得る。地方自治体は、再保活に際して、例えば以下のような施策を講じているものの、「再保活に失敗したらどうしよう」という不安がつきまとうのも事実だ。
- 小規模保育所卒園児の入園先(連携施設)を確保する
- 小規模保育所卒園児には再保活時に加点する
- 卒園児を優先して選考する
他にも、「子どもが2人以上いる場合は、年齢差によっては違う保育所に預けなければならない」「園庭がない場合が多い」といったデメリットも聞かれるが、再保活が必要であることは、特に大きなデメリットと言える。
しかしながら、小規模保育所ならではの魅力も存在する。それは、子どもや保護者に対するきめ細かい対応だ。当社が2017年度に実施した小規模保育所・地方自治体担当者へのヒアリング調査*3からは、「小さな集団のため、丁寧な保育が提供されている」「子ども本人や家庭に課題がある場合にも、個別に対処している」といった意見が寄せられた。
また、同調査からは、「小集団であることから異年齢保育が行いやすく、年上に憧れる気持ちや年下を大切にする気持ちを育むことができる」旨の意見も聞かれた。通常、保育所では、年齢ごとにクラスが編成され、子どもは基本的には同じ年齢の子どもたちと一緒に過ごす。それが、小規模保育所では、少人数で保育者の目が届きやすいために、異年齢の子どもたちが一緒に活動する時間を多く割けるのだ。いずれも「小規模」という構造に起因するものであることから、調査時から約5年が経過した現在もその魅力は大方変わらないと考えられる。
実際に筆者も、保育士の先生方にはたくさん助けていただいた。日々の連絡帳には、その日の子どもの様子がとても丁寧に綴られていて、毎日の励みになった。担任以外の保育士の先生も子どもの様子をしっかりと見てくれていて、子どもが何かできるようになるたびに一緒に喜んでくれた。「いやいや期」の乗り切り方や、コロナ禍の過ごし方等について、何度も相談に乗ってくれた。先生方のサポートがなければ、仕事と育児は両立できなかった。
また、小規模保育所での日々の生活を通じて、小さな子を思いやる心が自然と育まれるとともに、異年齢の友だちが多くできたことも、子どもにとって大切な財産になっている。
課題があってもなお、選ばれる存在になるために
こうした経験をしているからこそ、筆者個人としては、再保活の大変さを含めてもなお、小規模保育所に子どもを預けて良かったと感じている。そして、きっと上述したような魅力が詰まった小規模保育所が全国にはたくさんあるのではないかと思う。
だからこそ、保活の際に、「再保活をしなければならない」というデメリットばかりに目が行き、小規模保育所を預け先の候補から除外しているならば、それは非常にもったいないと感じる。地方自治体にとっても、小規模保育所利用者が増えなければ、待機児童解消のために小規模保育所を導入した意味がなくなってしまう。
しかしながら、小規模保育所の魅力や特徴は、漠然と理解はされているものの、それらの整理や体系化は未だになされていなように思える。まずは、小規模保育所で行われている保育や保護者に対するサポートの実態を明らかにし、小規模保育所が果たしている/今後果たしていくべき役割について整理する必要があるだろう。
その上で、地方自治体や国が主導して、小規模保育所の魅力をより具体的に伝える取組*4が求められるのではないだろうか。もちろん、再保活の必要性も正確に伝えるべきだが、「家庭的な雰囲気での保育」や「きめ細かなサポート」が、子どもや保護者にどれだけ安心感をもたらすのか、より踏み込んだ形でその魅力を伝えることが、小規模保育所を選んでもらう第一歩となる。
小規模保育所の導入のきっかけの1つは、確かに待機児童解消だったかもしれない。引き続き、保育の受け皿の整備や人材の確保等の取組は必要であるものの、小規模保育所だからこそ果たせる役割、満たせるニーズが明確になりつつある今、多様な保育のニーズを満たす1つの選択肢として小規模保育の存在も大切にしていくべきではないだろうか。
- *1)子ども・子育て支援新制度により認可化された「地域型保育事業」の枠組みで運営されている小規模保育事業。本稿では紙幅の都合上「小規模保育所」と記載する。
- *2)保育所、認定こども園、小規模保育事業所、家庭的保育事業所、居宅訪問型保育事業所、家庭内保育事業所の合計である。施設数は36,331施設、在所者数は2,723,159人。
- *3)みずほ情報総研株式会社「保護者が希望する保育と実際に選択される保育施設との関係について」(厚生労働省 平成29年度子ども・子育て支援推進調査研究事業
- *4)例えば足立区では、小規模保育所や家庭的保育事業を紹介するパンフレットを作成し、広く魅力をアピールしている