みずほリサーチ&テクノロジーズ 主席研究員 藤森 克彦
- *本稿は、『週刊東洋経済』 2024年3月30日号(発行:東洋経済新報社)の「経済を見る眼」に掲載されたものを、同編集部の承諾のもと掲載しております。
こども・子育て支援に関する法案が、今国会で審議されている。注目されているのは、新たな安定財源の枠組みとして示された「支援金制度」である。
これは、企業を含め社会・経済の参加者全員が、連帯して広く拠出することにより、こども・子育てを支援する仕組みである。規模としては、支援金によって2028年度に1兆円程度を確保する。
支援金の徴収は、医療保険の賦課・徴収ツールを活用する。これにより、使用者の協力を得られる。被保険者も幅広く、高齢者を含む全世代が連帯する仕組みとなる。さらに、賦課上限月額139万円まで賃金比例で公平な拠出となる。
なお、支援金を「保険料の流用」という人がいるが、誤りだ。支援金は、医療保険とは別の独立した制度であり、医療保険には代行徴収をしてもらうにとどまる。また、支援金は社会保険とは異なり、支援金を拠出した人に絞って給付するわけではない。この点では税に近いが、支援金の使途はこども・子育て支援に法定されている。
筆者は、こども・子育て支援への安定財源の確保を歓迎している。日本では、高齢期には年金・医療・介護といった社会保険によって防貧機能が図られてきた。一方、子育て期は、支出が増え、収入が低下するにもかかわらず、公的支援の規模が小さかった。安定財源を持つことにより、若い人たちの人生の選択肢を増やすことができる。
ただ、子育てを終えた人や企業に対して、支援金拠出を求めることに疑問を持つ人もいるだろう。
しかし、全国民が利用する年金・医療・介護といった社会保険の持続可能性を脅かすのは、少子化である。子育て支援によって、現役世代の減少を抑制できれば、社会保険の持続可能性を高めることができる。
また、企業は、少子化の抑制によって、将来の労働力不足や需要不足を緩和できる。経済界が企業負担の伴う支援金制度を受け入れるのは、子育て支援への協力が長期的に企業の利益になるからだろう。
ところで、これまでの議論を見ると、支援金を単に「負担」あるいは「痛み」と捉え、「給付」とセットで捉える見方が弱い。これは、支援金に限らず、これまでの社会保障改革でも見られた傾向だ。
支援金にしろ、税・社会保険料にしろ、社会保障制度では、労働市場で得た賃金などから負担能力に応じて拠出する。そして、拠出された資金は、必要度に応じて家計に再び分配し直される。つまり、子育て期や、病気や要介護など、今支援を必要とする人たちに給付がなされ、人々の生活の安定化に資する。そのための拠出である。
したがって、こうした拠出を痛みとのみ捉えるのは一面的だ。痛みならば小さいほうがよいが、これは、生活安定化に向けた拠出である。給付を見ずに痛みと捉えることが、再分配機能を弱めて、将来不安を招いているのではないか。
さらにいえば、所得再分配は、経済成長にもプラスに働く。例えば、将来不安が減じて、世帯を形成する若者が増えれば、消費も増える。こうした分配面の改善が、経済成長につながり、「成長と分配の好循環」になるだろう。
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