調査部 経済調査チーム 主任エコノミスト 川畑大地
daichi.kawabata@mizuho-rt.co.jp
支持を広げるドイツのための選択肢
反ナチスを国是とするドイツで、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持を伸ばしている。AfDは、欧州債務危機時のメルケル政権によるギリシャ等への救済措置に不満を抱く経済学者らが中心となって結成されたため、当初はEUやユーロ圏からの離脱を強く主張していた。シリアなどから多くの難民が押し寄せた2015年の欧州難民危機後は、当時のメルケル政権の移民政策への批判や、移民・難民問題の焦点化、反イスラムを前面に出すことで支持を拡大してきた。こうした排外主義に加えて、党幹部がナチスを擁護する発言をするなど、過激な言動が問題視されており、ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁は、過激な極右組織との疑いから同党を監視対象に指定している。
このように、AfDは当局からも警戒されている政党だが、直近の世論調査では、政権与党である社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)が軒並み低迷する中、最大野党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)に次ぐ支持を得ている(図表1)。また、支持率の上昇は選挙結果にも表れている。6月に行われた欧州議会選挙ではドイツで第二党になったほか、旧東ドイツ地域のザクセン州、チューリンゲン州、ブランデンブルク州の3州で今月行われた州議会選挙でも第一党、あるいは第一党に迫る票を獲得した(図表2)。選挙結果は概ね予想通りであり、特に旧東ドイツはAfDが強い地域として以前から知られていたものの、極右政党が州議会レベルで第一党になるのは第二次世界大戦後初のことであったため、国内外で大きな衝撃が走った。
本稿では、AfD支持者の特性や同党への支持態度を左右する要因を分析するとともに、AfDの支持拡大が今後のドイツ政治経済に与える影響を考察する。
図表1 ドイツの主要政党支持率

図表2 2024年にドイツで行われた選挙の結果

旧東西ドイツ間の差異がAfD支持の遠因に
AfDはどのような人々に支持されているのだろうか。ここでは計量的な手法を用いてAfD支持者の属性を分析する。
分析には、欧州社会調査(ESS)が2023年から2024年にかけて実施した世論調査のデータを用いる。分析手法は、同じくESSのデータを用いて欧州の右翼政党支持態度を規定する要因を分析した中井(2020, 2021)を参考にしている。具体的には、被説明変数にAfDを支持する者を1、それ以外を0とする二値変数1を、説明変数には回答者の基本的な社会経済属性を規定する年齢(実数)、性別(男性=1)、所得(1~10の値をとり、10が最も高所得)、教育水準(1~8の値をとり、8が最も高学歴)、職業状況(就業者、失業者、主夫・主婦、年金生活者、障害・疾病のそれぞれを1とする二値変数)に加えて、自己人生満足度(0~10の値をとり、10が最も満足度が高い)、自国民主政治満足度(0~10の値をとり、10が最も満足度が高い)、欧州統合支持(0~10の値をとり、10が最も統合を支持)、伝統重視(1~6の値をとり、6が最も伝統重視)、規範重視(1~6の値をとり、6が最も規範重視)、自国への愛着(0~10の値をとり、10が最も愛着が強い)、自由重視(1~6の値をとり、6が最も自由重視)、移民が自国経済に与える影響(0~10の値をとり、10が最も肯定的)、移民が自国文化に与える影響(0~10の値をとり、10が最も肯定的)などの回答者の政治志向や移民への態度を表す変数を採用し、ロジスティック回帰を行った。なお、二値変数以外の説明変数の尺度は一様ではなく、係数の大小比較に適さないため、標準化したうえで推計を行っている。
推計結果は図表3の通りだ。説明変数のうち、年齢、性別、学生、自国民主政治満足度、EU統合支持、移民が自国文化に与える影響が統計的に有意にAfD支持確率を左右することが示された。推計結果の解釈は次の通りである。まず社会経済的要因を規定する変数を確認すると、年齢については、年齢変数が1標準偏差上昇するとAfD支持確率が51%低下する逆相関の関係がみられる。性別は、男性の方が女性よりもAfD支持確率が2.35倍(235%)上がる強い順相関関係が確認された。職業状況については、学生であれば支持確率が0.06倍、つまり学生はAfD支持確率が94%低下する強い負の相関関係がみられる。次に政治志向や移民への態度について確認すると、自国民主政治満足度、EU統合支持、移民が自国文化に与える影響は、変数が1標準偏差上昇すると、それぞれ、73%、48%、52%、AfD支持確率が低下する逆相関関係が確認され、特に自国民主政治満足度がAfD支持確率に大きな影響を与えることが示された。
図表3 AfD支持の規定要因分析結果

(注) ロジスティック回帰の結果。二値変数(性別、就業者、失業・求職、主夫・主婦、学生)はオッズ比、その他は標準化オッズ比。***、**、*はそれぞれ有意水準1%、5%、10%を表す
(出所)欧州社会調査より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
このように、所得水準や雇用状況等の個人的な経済環境はAfD支持確率に有意な影響を及ぼさない一方、自国民主政治への不満や欧州統合への否定的な姿勢、移民流入による自国文化破壊懸念など、社会文化的な要因がAfD支持態度に影響を与える結果となった。欧州レベルのデータを用いた同様の先行研究でも、概ね社会文化的な要因を表す変数が右派政党の支持確率に影響を及ぼす結果となっており、本分析と整合的な内容になっている。もっとも、AfD支持確率を有意に変動させるこれらの要因の背景には、回答者を取り巻く居住地域の経済状況や歴史的な経緯等の特性が深くかかわっている可能性がある。特に旧西ドイツ地域と旧東ドイツ地域の間の経済的・歴史的な差異は大きく、回答者の社会文化的な志向に影響を及ぼしている可能性が考えられる。実際、AfD支持確率に有意に影響を与えている、自国民主政治満足度、EU統合支持、移民が自国文化に与える影響、の三つの変数の平均値を、旧西ドイツ地域居住者と旧東ドイツ地域居住者に分けて比較すると、いずれも旧東ドイツ地域居住者の方が否定的な傾向が強く、両者の間に有意な差が確認される(図表4)。
図表4 旧東西ドイツ地域間における
変数別平均値比較

(注) 棒グラフに付したレンジは標準誤差のバンド。***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%で旧東西ドイツ地域間に有意差があることを表す
(出所)欧州社会調査より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
現在のドイツは、中世以来乱立していた領邦国家や自由都市が連合して形成された連邦国家であるほか、冷戦期には東西に分裂し、それぞれ社会主義と資本主義を採用したため、地域ごとに経済構造や歴史が大きく異なる。実際、ドイツの州別居住者一人当たりGDPをみると、地域間で経済力に差があり、特にかつて東ドイツに属していた5州(新連邦州2)の所得水準の低さが目立つ(図表5)。
図表5 ドイツの州別一人当たりGDP

(注) 2022年時点。赤字は旧東ドイツに属した州
(出所)Eurostatより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
東西統合後、経済力に劣る旧東ドイツ地域の発展を促すため、連帯税に代表される各種の政策が打たれたものの、統合後30年以上経った現在でも東西の経済格差は残存している。こうした東西ドイツの経済環境の違いは、自国民主政治や欧州統合への不満の遠因になっている可能性がある。東西ドイツの統合は、政治・経済的に安定・発展していた旧西ドイツに旧東ドイツが編入される形で実現したため、多くの分野で旧西ドイツの制度が適用されている。旧西ドイツ主導の統一・国家体制整備が行われる中で、東ドイツの様々な分野の指導的地位に西ドイツから多くのエリート層が流入したことが3、東部出身者のキャリアアップを妨げる一因になった。また、統合を主導してきた旧西ドイツ出身者が旧東ドイツ出身者への偏見を背景に、同地域出身者を要職から廃除したとも言われている。Bluhm, M. and Jacobs, O.(2016)によれば、実際、政治分野などの要職における旧東ドイツ出身者の数は少なく、旧東ドイツ地域居住者は自身の意見が政治に反映されにくいと感じても不思議ではない。こうした事実は、かねてより指摘されていた旧東ドイツ地域居住者の「二等市民」意識の強さや、自国民主政治への不満を高める要因の一つになっている可能性がある。右派政党や排外主義政党への支持態度を規定する要因に、所得等の個人的経済状況よりも社会的経済状況が関係していることはこれまでの研究でも指摘されてきたことだが、経済や政治面での劣等意識のようなものを背景に旧東ドイツ地域においてもこうしたソシオトロピックな要素がAfD支持確率の上昇につながっているのかもしれない。また、旧東ドイツ地域居住者にとって欧州統合は、主に東西統合を主導した旧西ドイツ出身の政治エリートによって進められたものであり、自由な人の移動を可能にしたことで移民の流入につながる一方、統合が深まっても東西の経済格差は残存している現状がネガティブにとらえられ、それが欧州統合への否定的姿勢につながっている可能性が考えられよう。
移民への態度の違いは、東西ドイツの歴史的差異が関係していると推察される。Weisskircher, M(2020)によれば、戦後にトルコ等からの移民労働者が多く流入した旧西ドイツ地域と異なり、旧東ドイツは他の社会主義国から小規模な移民労働者を受け入れるにとどまっていたため、文化的に均質性が高く、異文化経験が少ないとされている。こうした歴史的背景も、東部州において、移民流入による文化破壊への懸念の強さや、AfDへの支持につながっている可能性がある。
前述の通り、AfDは旧東ドイツ地域で支持される傾向があるが、その根底には、経済格差をはじめとする東西の隔たりがあると言えそうだ4。
懸念される政治経済の停滞スパイラルと若年層のAfD支持拡大
上記の分析・考察や昨今の社会経済状況を踏まえると、AfDの支持率は東部を中心に当面底堅く推移する可能性が高く、ドイツおよび欧州全体の政治経済への影響が懸念される。足元では、不法移民の流入が増加しているほか、8月には難民申請をしていた男性が無差別殺傷事件を起こしたことで移民・難民への反発が高まっており、ドイツ政府が9月16日からフランス、ルクセンブルク、オランダ、ベルギー、デンマークとの国境管理を開始する事態に発展している5。また、エネルギー高や高金利等に起因する経済不振の長期化を背景に、東西の経済格差(一人当たりGDPの東西間格差)も緩やかながら再び拡大しており、AfD支持率が上がりやすい環境にあると言えよう。
こうした中、ドイツでは来年9月に連邦議会選挙が予定されている。現時点の世論調査を踏まえれば(図表1再掲)、CDU/CSUが第一党になる可能性が高いものの、単独過半数には届きそうもない。そこで懸念されるのが、連立交渉難航による政治の停滞だ。主要政党は防疫線(コルドン・サニテール)を設けてAfDとの連立を否定しているが、同党は議会の第二・第三勢力になると予想される。また、昨年設立された新興の極左政党(経済では左派の一方、反移民を掲げるなど、社会文化的次元では右派の立場をとる)6であるザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)の躍進も予想される。一方、現政権与党のSPDや緑の党、FDPは大きく勢力を落とすとみられ、CDU/CSUは第一党になっても急進政党抜きでの過半数形成が困難になる可能性がある。連立交渉の長期化で政治的な不確実性が高まれば、経済への悪影響は避けられない。SPD、緑の党、FDPによる現政権7は、連立政権内での意見対立などから、ウクライナ戦争以降続くエネルギー高対策や財政政策等の分野で方針が定まらず、それが経済活動の妨げになっていると指摘されている。実際、ドイツの経済政策不確実性指数(EPUI)はウクライナ侵攻以降、高水準で推移しており、こうした中で、ドイツ商工会議所連合の調査によれば、経済政策が企業の事業リスクであると回答する企業の割合が過去最高水準になっている(図表6)。ドイツは、長引くエネルギー高を背景とする立地競争力の低下に伴う産業空洞化、中国企業との競争激化等を受けて深刻な景気低迷が続いている。こうした状況で政治不安が強まれば、景気回復がさらに見通しにくくなり、政治と経済の停滞スパイラルに陥る恐れがある。欧州の盟主であるドイツの政治経済の停滞長期化は、リーダー不在によるEU政治の停滞や、他国への波及を通じた欧州経済全体の地盤沈下につながりかねない。
図表6 ドイツの経済政策不確実性指数と
経済政策が事業リスクと認識する企業割合

(出所)ドイツ商工会議所連合、Scott R. Baker, Nicholas Bloom and Steven J. Davis(2016)“Measuring Economic Policy Uncertainty”、www.PolicyUncertainty.com.より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
さらに、憂慮すべき材料がある。前述の通り、AfD支持確率を左右する諸要因は、特に旧東ドイツ地域特有の経済・政治・歴史的事情が影響している可能性が高く、AfDの支持拡大は現在のところドイツ東部に限定された現象という見方もできる。しかしながら、こうした見方はやや楽観的に過ぎる。特に気がかりなのは、若年層の支持が全国的に拡大していることだ。
近年、AfDはSNSを活用して若年層の支持を取りつけているとも言われる。tagesschauがまとめた2024年の欧州議会選挙の結果をみると、年齢層が下がるほど前回2019年の選挙よりもAfDに投票した人の割合が上がっている8。時系列データを用いているわけではないが、図表3に示した分析結果でも年齢が下がるほどAfD支持確率が上がる結果になっている。そして、若年層でのAfD支持拡大は、旧東ドイツ特有のものとは言い切れない面がある。16~29歳のAfD支持確率を旧東西ドイツの地域に分けて比較すると、両者の間には大きな差がなく、統計的な有意性も確認できない(図表7)。他の年齢層(30歳以上)で明確に東西の差が出ているのとは対照的だ。あくまで推測の域を出ないが、年齢層が上がるほど、かつてのナチスの記憶が残っていたり、強力な反ナチス教育を受けたりしているため、極右政党への警戒感が強いのではないか。逆に言えば、若年層ほどナチスは遠い昔の話であり、極右政党への抵抗感が小さいのかもしれない。今後、世代交代が進んでいく中で、AfDは着実に支持を広げ、旧東ドイツ以外の州や国政でも第一党になる可能性も完全には排除できないだろう。短期的にも長期的にもドイツの政治的安定は見込みにくい状況であり、それは経済に悪影響を及ぼし続けるリスクがある。
図表7 旧東西ドイツ地域間における
若年層とその他年齢のAfD支持確率比較

(注)棒グラフに付したレンジは標準誤差のバンド。***、**、*はそれぞれ1%、5%、10%で旧東西ドイツ地域間に有意差があることを表す
(出所)欧州社会調査より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
[参考文献]
Bluhm, M. and Jacobs, O. (2016). “ Wer beherrscht den Osten? Studie zur Prasenz westdeutscher Eliten in ostdeutschen Fuhrungspositionen”, Universitat Leipzig, Institut fur Kommunikations- und Medienwissenschaft
中井遼(2020)「欧州におけるポスト難民危機期の排外意識分析~右翼政党支持・反移民態度・反欧州統合~」、『北九州市立大学国際論集』 18巻, 43-72
中井遼(2021)「欧州の排外主義とナショナリズム~調査から見る世論の本質~」、新泉社
田中素香(2019)「ポピュリズムとEU~政治経済学の視点から格差問題を中心に~」、『日本EU学会年報』第39号, 20―43
Weisskircher, M(2020), “ The Strength of Far-Right AfD in Eastern Germany: The East-West Divide and the Multiple Causes behind ‘Populism”, The Political Quarterly, Vol.91, No.3. 614-622
- 1なお、本稿の分析は特定の支持政党を持つ回答者に限定して行っている
- 21990年の東西ドイツ統一の際に、旧東ドイツ(ドイツ民主共和国)からドイツ連邦共和国に新たに編入された州の総称
- 3田中(2019)は、東西統一に際して、旧東ドイツ地域の支配層を廃除し、西ドイツから派遣された指導層が入れ替わる「エリート交換」が行われたと述べている
- 4ほかにも、Weisskircher,M(2020)は、旧東ドイツ地域では東西統合後に旧西ドイツから二大政党(CDU/CSUとSPD)が参入したため、これらの政党の地盤が弱く、AfDやBSWのような新興政党が支持を伸ばしやすいと指摘している
- 5ドイツは、加盟国間の自由な移動を可能にするシェンゲン協定に加盟している。協定加盟国は国内の治安に重大な脅威がある場合、一時的に国境管理を導入する権限を持っており、ドイツは欧州難民危機や昨今の移民増加を背景に、既にポーランド、チェコ、オーストリア、スイスとの国境で審査を導入していたが、今回の措置で隣接するすべての国との国境管理を強化することになった。移民・難民の抑制を望む世論のほか、ザクセン州やチューリンゲン州でのAfDやBSWの支持拡大も国境管理強化に踏み切る要因になったとみられる。ドイツが入国を拒否した移民が隣国に流入する可能性もあることから、ポーランドやオーストリアはドイツの対応に批判を強めており、EU域内での摩擦が生まれている
- 6東欧では、経済的次元では左派的な主張をする政党が、社会文化的次元では保守的な立場をとるケースがみられる。社会主義から資本主義に移行した歴史を持つ東欧諸国では、経済的自由主義は新体制における革新的思想である。そのため、社会文化的次元で自由主義的な主張をする勢力が、経済的自由主義の立場をとりやすい。一方で、こうした勢力に対抗する保守派は、経済的には左派、社会文化的には保守的な主張をする傾向にある。旧東ドイツは共産圏であったため、経済的次元における左右と、社会文化的次元における左右が一致しないBSWのような政党が支持されても不思議ではない
- 7各政党のシンボルカラーをとって「信号機連合」と呼ばれる
- 8ドイツでは2024年の欧州議会選挙で選挙権年齢が18歳以上から16歳以上に引き下げられたため、前回の選挙結果と単純比較できない点には留意が必要