キービジュアル画像

2024年10月18日

Mizuho RT EXPRESS

「みずほGDPナウ」で見る景気動向

10月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.1%と推計

調査部 主席エコノミスト 酒井才介
同 エコノミスト 西野洋平
saisuke.sakai@mizuho-rt.co.jp

ダウンロードはこちら (PDF/1,129KB)

10月中旬時点の「みずほGDPナウ」によれば7~9月期GDPは前期比+0.1%

景気動向をいち早くタイムリーに把握したいというニーズを踏まえ、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、浦沢(2023)等を参考にGDPナウキャスティング(GDPに先行して公表される経済指標を活用したGDP成長率のリアルタイム予測)に取り組んできた。太田他(2024)では、みずほリサーチ&テクノロジーズが構築したダイナミック・ファクター・モデルによるGDPナウキャスティングについての技術概要、予測パフォーマンス等を解説し、使用データが揃えば民間予測平均並みの予測精度が確保できることを示した。その上で、酒井他(2024)では9月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた7~9月期GDPのナウキャスティングの結果(前期比+0.0%と推計)を紹介したところである。

図表1 7~9月実質GDPの予測値

(出所)内閣府「四半期別GDP速報」、東京財団政策研究所「GDPナウキャスティング」、日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

本稿では、太田他(2024)で説明したモデルを用いて、酒井他(2024)と同様に、10月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた7~9月期GDPのナウキャスティングの結果を紹介する。米アトランタ連銀が発表するGDPナウの日本GDP版のようなものであるが、本稿では「みずほGDPナウ」と呼称することとしたい。使用データとしては、10月中旬までに得られる8月分の鉱工業生産、消費活動指数、所定外労働時間、中小企業景況調査、消費財出荷指数、第3次産業活動指数等を用いている(太田他(2024)が説明しているとおり、ステップワイズ法で使用データを採択している1)。

図表1のとおり、モデルによる10月中旬時点における7~9月期実質GDPの推計値は前期比+0.1%(年率+0.4%)となった。2024年度の日本経済は高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ること等を受けて個人消費や設備投資を中心に回復基調が続くことが見込まれるが(酒井(2024)を参照)、10月中旬時点までに得られるデータからは、経済活動の回復ペースの鈍さが示唆される。

図表2 予測値の改定過程と各経済指標の寄与度

(注)モデル予測値は、各時点で知り得るデータを用いて推計した実質GDP成長率予測値。棒グラフは各経済指標の予測値に対する寄与度を示す。各経済指標の確報値による改定も寄与度変化に反映されている
(出所)内閣府等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

なお、東京財団政策研究所による10月15日時点のナウキャスティングでは、7~9月期実質GDPは前期比▲0.09%(年率▲0.38%)と推計されており、本稿の推計よりもやや弱めの結果となっている(使用データは本稿と異なる。詳細は東京財団政策研究所ウェブサイトのGDPナウキャスティングを参照されたい)。一方、日本経済研究センターが公表した10月のESPフォーキャスト調査(回答期間は2024年9月26日~10月3日、回答者は37名)における7~9月期実質GDPの民間予測値平均は前期比+0.41%(年率+1.64%)となっており、本稿や東京財団政策研究所のナウキャストと比べて高めの成長率が見込まれている。ESPフォーキャスト調査における民間予測は、本稿のモデルで使用した10月中旬までに得られる月次データだけでは反映しきれない先行きの景気動向に対するエコノミストの「読み」(フォーキャスト)が予測値に反映されており、足元までのデータからリアルタイムでGDP動向を把握するナウキャストとは予測値の性質が異なる点には留意する必要がある(例えば、8月時点の生産活動指数や消費活動指数は後述するように地震や台風等の影響で下押しされており、民間予測平均では9月以降に生産・消費活動が持ち直すとの見方が織り込まれていると考えられる。

足元の生産や個人消費は冴えない動き。7~9月期の経済活動の回復ペースは緩慢

7~9月期のナウキャスティングについては、10月中旬までに公表された月次経済指標を使って、GDP1次速報値の予測値を9月中に2回、10月中に2回、計4回更新した。予測値アップデートの過程と、各月次経済指標の寄与度を示した結果が図表2である。太田他(2024)で示した枠組みと同様、図表2の折れ線が各時点における実質GDP成長率の予測値であり、月次の経済指標が新たに公表されたり更新されたりすることで予測値がアップデートされる。棒グラフは、予測値の改定幅、すなわち前回予測との差を各月次経済指標で寄与度分解したもので、寄与度を合計するとモデル予測値の改定幅と一致する。後述するように9月末に公表された8月分の鉱工業生産が想定以上に減少したこと等が下押しに寄与したことが確認できる。

以下、足元の景気動向をみる上で特に重要となる生産、個人消費関連の指標(「みずほGDPナウ」で使用している鉱工業生産、消費活動指数)の動きについて簡単に解説しておこう。

鉱工業生産は、景気循環との連動性が高く、速報性も高いことから多くのエコノミストが注目する指標の一つである。図表3のとおり、8月の生産指数は前月比▲3.3%(7月:同+3.1%)、7~8月平均でみても4~6月平均対比で▲0.3%と弱含んでいる。8月は世界的な半導体関連需要の回復等を背景に電子部品・デバイスの増加が続いた一方、台風の影響による工場の稼働停止により、自動車を中心に幅広い業種で減産となった。出荷の状況をみると、国内向けは低調な推移が継続しており、輸出向けは持ち直し基調で推移するも回復ペースは緩慢なものになっている。同時に公表された9月の製造工業予測指数は前月比+2.0%、経済産業省の補正試算値でみると同+0.3%とプラスが見込まれているものの、7~9月期でみると減産での着地が濃厚である(経済産業省の基調判断は「一進一退」となっている)。

図表3 生産指数の推移

(注)製造工業計は鉱工業全体から鉱業を除いたもの。季節調整値
(出所)経済産業省「鉱工業指数」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 消費活動指数の推移

(注)消費活動指数は旅行収支調整済みの季節調整値
(出所)日本銀行より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

また、GDPの5割以上を占める個人消費の動向をみる上で、消費活動指数は財・サービスの消費活動を包括的に捉えることのできる月次の経済指標という点で有用である2。図表4のとおり、8月の消費活動指数(実質、旅行収支調整済)は前月比+0.0%(7月:同▲0.1%)、7~8月平均でみても4~6月平均対比で+0.1%と鈍い伸びにとどまっている。高水準の賃上げを受けて名目賃金(共通事業所ベース)が前年比+3%程度まで上昇したほか、政府による定額減税も実施されたこと等を受けて回復が期待された夏場の個人消費であるが、足元のデータを見る限り力強さに欠ける推移となっている。8月は猛暑の影響で夏物衣類が好調だったほか、南海トラフ地震臨時情報や台風の影響で防災用品・保存食の需要が高まったこと等を受けて非耐久財が増加した一方で、自動車生産が減少したこと等を受けて耐久財が弱含んだほか、サービスも地震や台風の影響が重石になり減少した。実質賃金の回復等を受けて9月以降の個人消費は回復基調で推移するとみられるが、9月の消費者態度指数をみても「雇用環境」や「収入の増え方」が改善する一方で「暮らし向き」が悪化したため、総合指数は小幅な改善にとどまっている。9月の景気ウォッチャー調査の現状判断DI(家計動向関連)も小売やサービスを中心に前月から悪化するなど、家計の消費マインドは伸び悩んでいる様子がうかがえる。政府による「酷暑乗り切り緊急支援」を受けて電気・ガス代が抑制された一方で、夏場にかけて米類や生鮮野菜等の価格が高騰しており、購入頻度の高い食品の価格上昇が家計の節約志向を強めている面が大きいだろう。また、賃上げを「一時的な動き」とみなす家計が依然として多いことも個人消費の回復ペースの鈍さに影響しているだろう。日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」をみると、「1年前と比べて世帯収入が増加した」と認識する家計が足元で増加する一方、「1年後に今よりも世帯収入が増える」と予想する家計の増え方は相対的に鈍い(図表5)。さらに、消費者態度指数について世帯主の年齢別に「収入の増え方」をみると、39歳以下が改善する一方で40歳以上59歳以下は足元で弱含んでおり、若年層に比べて中年層は収入増に対して自信を持てていない模様だ(図表6)。個人消費の力強い拡大には、先行きの所得増に対する家計の自信の高まりが不可欠であると言えよう。

以上のとおり、7~9月期の日本経済は内需を中心に回復基調が続くと見込まれるが、10月中旬までに得られるデータを用いた「みずほGDPナウ」では7~9月期の実質GDPは小幅なプラス成長にとどまると推計され、現時点では経済活動の回復ペースは鈍いと言わざるを得ない。「みずほGDPナウ」を活用しつつ、引き続き景気動向を注視していきたい(次回の「みずほGDPナウ」の推計・発信については、11月15日に公表される7~9月期GDP一次速報を挟んで、10月分の鉱工業生産や消費活動指数の結果等を踏まえて10~12月期GDPのリアルタイム予測に取り組むこととし、12月中旬頃のレポート発刊を予定している)。

図表5 収入に関する家計の見方

(出所)日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表6 年齢階級別「収入の増え方」の推移

(注)みずほリサーチ&テクノロジーズによる季節調整。39歳以下、40歳以上59歳以下は、年齢階級による単純平均で、総世帯
(出所)内閣府「消費動向調査」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

[参考文献]

浦沢聡士(2023)「GDP ナウキャストと景気判断~景気判断実務における GDP ナウキャストの活用に向けて~」、内閣府経済社会総合研究所「経済分析」第208号

太田晴康・仲山泰弘・酒井才介・松浦大将・越山祐資・西野洋平(2024)「「みずほGDPナウ」の推計~DFMを用いた日本のGDPナウキャスティング~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年8月30日

酒井才介(2024)「年率+2.9%と1次速報から小幅な下方修正(4~6月期2次QE)」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『QE解説』、2024年9月9日

  1. 1今後のモデルの予測精度のパフォーマンス評価等を踏まえ、採択するデータについては見直しを行う可能性がある。
  2. 2消費活動指数を含む個人消費関連データの解説については、河田(2024)を参照されたい。

Mizuho RT EXPRESS