調査部 シニア日本経済エコノミスト 服部 直樹 ほか
要旨
- 日本経済にとって重要な中小企業だが、大・中堅企業に比べて利益率の改善に遅れ
- 中小企業(資本金規模1千万円以上1億円未満)は、日本の雇用者数・人件費の4割強を占める屋台骨
- 売上高経常利益率は改善傾向にあるものの、大・中堅企業との差が拡大。人件費負担が中小企業の利益を圧迫
- 中小企業が直面する3つの課題:人口減少、脱炭素対応、金利上昇
- 人口減少により人手不足や賃上げ圧力が強まる中、投資不足を背景に中小企業の労働生産性は伸び悩み。脱炭素対応、金利上昇も先行きのコスト増の要因
- 自然体のシミュレーションでは、中小企業の経常利益が2024~30年度にかけ減益に。労働力の伸び悩みを投資・生産性向上でカバーできず、供給制約が発生し売上増のボトルネックに。資金需要は増加ペースが鈍化
- 課題克服に向けた「打ち手」:事業承継・M&Aで経営転換を促し、投資積極化・生産性向上へ
- 供給制約と人件費増加への「打ち手」として、生産性向上に資する投資積極化がカギを握る。デジタル化を進める中小企業では、労働生産性や売上高が増加する効果あり
- 投資積極化に向け、経営のマインド転換が重要。事業承継をきっかけとするM&Aは大きなチャンスであり、M&Aを実施した中小企業は業績が向上する傾向
- 「打ち手」実施を反映したアップサイドケースのシミュレーションでは、設備投資・生産性が加速すると、中小企業でも先行き増益基調に転換することを確認。資金需要は非製造業を中心に高い伸びに
- 地域別シミュレーションでは、特に千葉県や沖縄県の中小企業で「打ち手」による利益改善幅が大きい結果
- ヒト・モノ・カネの悪循環から好循環へ、中小企業のモードチェンジを促す金融機関の役割
- 現状維持では、「投資抑制⇒生産性低迷・賃上げ余地縮小⇒人手確保難⇒収益低迷」の悪循環
- 事業承継・M&A支援を通じた経営転換の促進、 DX・サステナ支援、財務戦略の提供等により、「投資積極化⇒生産性向上・賃上げ余地拡大⇒収益拡大」の好循環へ