調査部 チーフ日本経済エコノミスト 酒井才介
同 エコノミスト 西野洋平
saisuke.sakai@mizuho-rt.co.jp
12月中旬時点の「みずほGDPナウ」によれば10~12月期GDPは前期比▲0.1%
景気動向をいち早くタイムリーに把握したいというニーズを踏まえ、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、浦沢(2023)等を参考にGDPナウキャスティング(GDPに先行して公表される経済指標を活用したGDP成長率のリアルタイム予測)に取り組んできた。太田他(2024)では、みずほリサーチ&テクノロジーズが構築したダイナミック・ファクター・モデルによるGDPナウキャスティングについての技術概要や予測パフォーマンス等を解説し、使用データが揃えば民間予測平均並みの予測精度が確保できることを示した。その上で、酒井他(2024)、酒井・西野(2024)では、9月中旬・10月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた7~9月期GDPのナウキャスティングの結果を紹介したところである。
図表1 7~9月実質GDPの予測値

(出所)内閣府「四半期別GDP速報」、東京財団政策研究所「GDPナウキャスティング」、日本経済研究センター「ESPフォーキャスト調査」等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
本稿では、太田他(2024)で説明したモデルを用いて、酒井他(2024)や酒井・西野(2024)と同様に、12月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた10~12月期GDPのナウキャスティングの結果を紹介する。米アトランタ連銀が発表するGDPナウの日本GDP版のようなものであるが、本稿では「みずほGDPナウ」と呼称することとしたい。使用データとしては、12月中旬までに得られる10月分の鉱工業生産、消費活動指数、所定外労働時間、中小企業景況調査、消費財出荷指数、第3次産業活動指数等を用いている(太田他(2024)が説明しているとおり、ステップワイズ法で使用データを採択している1)。
図表1のとおり、モデルによる12月中旬時点における10~12月期実質GDPの推計値は前期比▲0.1%(年率▲0.3%)となった。10~12月期の日本経済は、高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ること等を受けて個人消費や設備投資を中心に回復基調が続くことが見込まれるが(酒井(2024)を参照)、12月中旬時点までに得られる10月分の月次データからは軟調な滑り出しが示唆されたと言えよう。
なお、東京財団政策研究所による12月16日時点のナウキャスティングでは、10~12月期実質GDPは前期比+0.07%(年率+0.28%)と推計されており、本稿の推計よりもやや強めの結果となっているが、概ね横ばい圏での推移を見込んでいるという点では本稿と近い結果と言えるだろう(使用データは本稿と異なる。詳細は東京財団政策研究所ウェブサイトのGDPナウキャスティングを参照されたい)。一方、日本経済研究センターが公表した12月のESPフォーキャスト調査(回答期間は2024年12月3日~12月10日、回答者は37名)における10~12月期実質GDPの民間予測値平均は前期比+0.33%(年率+1.31%)となっており、本稿や東京財団政策研究所のナウキャストと比べて高めの成長率が見込まれている。ESPフォーキャスト調査における民間予測は、本稿のモデルで使用した12月中旬までに得られる月次データだけでは反映しきれない先行きの景気動向に対するエコノミストの「読み」(フォーキャスト)が予測値に反映されており、足元までのデータからリアルタイムでGDP動向を把握するナウキャストとは予測値の性質が異なる点には留意する必要がある(例えば、10月の消費活動指数は後述するように気温低下の遅れで冬物商材が振るわず非耐久財が大きく減少したことが全体を下押しした格好となっている一方、11月の景気ウォッチャー調査をみると気温低下で冬物衣料が伸びたことで家計動向関連の現状判断DIが改善しているほか、12月は高い伸びが見込まれる冬のボーナスが個人消費の押し上げ要因になると考えられる。今後の月次経済指標の動向によっては「みずほGDPナウ」による予測値が民間予測平均に接近していく可能性もあるだろう)。
10月の生産は増加も消費は弱い動き。10~12月期の経済活動は軟調な滑り出し
10~12月期のナウキャスティングについては、12月中旬までに公表された月次経済指標を使って、GDP1次速報値の予測値を12月中に2回更新した。予測値アップデートの過程と、各月次経済指標の寄与度を示した結果が図表2である。太田他(2024)で示した枠組みと同様、図表2の折れ線が各時点における実質GDP成長率の予測値であり、月次の経済指標が新たに公表されたり更新されたりすることで予測値がアップデートされる。棒グラフは、予測値の改定幅、すなわち前回予測との差を各月次経済指標で寄与度分解したもので、寄与度を合計するとモデル予測値の改定幅と一致する。12月3日時点では10月分の鉱工業生産の増加等が押し上げに寄与し、12月16日時点では、10月分の消費活動指数の減少等が反映された結果としてモデル予測値が12月3日時点から下方修正された格好になっている。
図表2 予測値の改定過程と各経済指標の寄与度

(注)モデル予測値は、各時点で知り得るデータを用いて推計した実質GDP成長率予測値。棒グラフは各経済指標の予測値に対する寄与度を示す。各経済指標の確報値による改定も寄与度変化に反映されている
(出所)内閣府等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
以下、足元の景気動向をみる上で特に重要となる生産、個人消費関連の指標(「みずほGDPナウ」で使用している鉱工業生産、消費活動指数)の動きについて簡単に解説しておこう。
鉱工業生産は、景気循環との連動性が高く、速報性も高いことから多くのエコノミストが注目する指標の一つである。図表3のとおり、10月(確報)の生産指数は前月比+2.8%と増加した。業種別にみると、電子部品・デバイスは減少した一方で、生産用機械が大幅に増加した点が目立つ。輸送機械等も増加傾向で推移しており、半導体製造装置の需要増や、自動車の生産正常化が背景とみられる。ただし、製造工業生産予測指数(生産計画)は11~12月がともに前月比マイナスで弱い動きとなっており、10月の生産用機械の大幅な増加の反動減が出ることが見込まれる。さらに、電子部品・デバイスについては、足元の出荷・在庫バランス(出荷・前年比-在庫・前年比)のプラス幅が縮小傾向で推移しており、生産のピークアウトが示唆される点には注意が必要だ。10~12月期の生産は一進一退の動きとなる可能性が高いとみている。
また、GDPの5割以上を占める個人消費の動向をみる上で、消費活動指数は財・サービスの消費活動を包括的に捉えることのできる月次の経済指標という点で有用である2。図表4のとおり、10月の消費活動指数(実質、旅行収支調整済)は前月比▲0.4%と3か月連続で減少している。一部自動車メーカーの受注再開を受けて新車販売台数が伸びたことから耐久財は増加したものの、10月は気温低下の遅れで冬物商材が振るわず非耐久財が大きく減少したことが全体を下押しした格好だ。ただし、11月の景気ウォッチャー調査では家計動向関連の現状判断DIが49.6pt(前月差:+3.2pt)と改善しており、物価高を受けた買い控えは継続しているものの、11月の気温低下で冬物衣料が伸びたことが個人消費を押し上げた様子がうかがえる。10~12月期は最低賃金や公務員給与の引上げに加え、高い伸びが見込まれる冬のボーナスが押し上げ要因になり3、個人消費は均してみれば増加基調で推移すると筆者は予測している。ただし、定額減税や防災需要・米の買い占め等による一時的な押し上げ影響が徐々に剥落するとみられるほか、物価高の継続で実質賃金の改善ペースは緩やかであり、これまで2年以上続いた実質賃金の低下に比して反発力は十分なものとは言えないことから、個人消費の伸びは7~9月期から大きく鈍化する可能性が高いだろう。
図表3 生産指数の推移

(出所)経済産業省「鉱工業指数」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表4 消費活動指数の推移

(出所)日本銀行より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
以上のとおり、12月中旬までに得られる10月分のデータを用いた「みずほGDPナウ」では10~12月期の実質GDPは前期比▲0.1%(年率▲0.3%)と小幅なマイナス成長が予測され、経済活動が軟調に推移していることを示唆する結果と言える。前述したように今後の月次経済指標の動向によっては「みずほGDPナウ」による予測値が上方修正される可能性があるとみているが、10~12月期の日本経済の回復ペースはエコノミストが予測しているよりも緩やかなものにとどまることも十分に考えられる点には留意が必要だ。「みずほGDPナウ」を活用しつつ、引き続き景気動向を注視していきたい(次回の「みずほGDPナウ」の推計・発信については、11月分の鉱工業生産や消費活動指数の結果等を踏まえて来年1月中旬頃のレポート発刊を予定している)。
[参考文献]
今井大輔(2024)「2024年冬季ボーナス予測~所定内給与の増加を受けて伸びが加速~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年11月8日
浦沢聡士(2023)「GDP ナウキャストと景気判断~景気判断実務における GDP ナウキャストの活用に向けて~」、内閣府経済社会総合研究所「経済分析」第208号
太田晴康・仲山泰弘・酒井才介・松浦大将・越山祐資・西野洋平(2024)「「みずほGDPナウ」の推計~DFMを用いた日本のGDPナウキャスティング~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年8月30日
河田皓史(2024)「個人消費は強い?それとも弱い?~強弱入り乱れる消費指標を読み解く~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年1月17日
酒井才介(2024)「年率+1.2%と1次速報から上方修正(7~9月期2次QE)」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『QE解説』、2024年12月9日
酒井才介・西野洋平・太田晴康・仲山泰弘(2024)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~9月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.0%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年9月19日
酒井才介・西野洋平(2024)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~10月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.1%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年10月18日
- 1今後のモデルの予測精度のパフォーマンス評価等を踏まえ、採択するデータについては見直しを行う可能性がある。
- 2 消費活動指数を含む個人消費関連データの解説については、河田(2024)を参照されたい。
- 3 ボーナス算定基準となる所定内給与が堅調に増加することに加え、堅調な企業収益を受けてボーナスの支給月数も増加するとみられ、今井(2024)は冬の民間企業の一人当たりボーナス支給額を前年比+3.5%と予測している。