調査部 チーフ日本経済エコノミスト 酒井才介
同 エコノミスト 西野洋平
saisuke.sakai@mizuho-rt.co.jp
1月中旬時点の「みずほGDPナウ」によれば10~12月期GDPは前期比+0.2%
景気動向をいち早くタイムリーに把握したいというニーズを踏まえ、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、浦沢(2023)等を参考にGDPナウキャスティング(GDPに先行して公表される経済指標を活用したGDP成長率のリアルタイム予測)に取り組んできた。太田他(2024)では、みずほリサーチ&テクノロジーズが構築したダイナミック・ファクター・モデルによるGDPナウキャスティングについての技術概要や予測パフォーマンス等を解説し、使用データがそろえば民間予測平均並みの予測精度が確保できることを示した。その上で、酒井他(2024)、酒井・西野(2024a)、酒井・西野(2024b)では、月次経済指標を用いたGDPナウキャスティングの結果を紹介してきたところである。
本稿では、太田他(2024)で説明したモデルを用いて、酒井他(2024)や酒井・西野(2024a)、酒井・西野(2024b)と同様に、1月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた10~12月期GDPのナウキャスティングの結果を紹介する。米アトランタ連銀が発表するGDPナウの日本GDP版のようなものであるが、本稿では「みずほGDPナウ」と呼称することとしたい。使用データとしては、1月中旬までに得られる11月分の鉱工業生産、消費活動指数、所定外労働時間、中小企業景況調査、消費財出荷指数、第3次産業活動指数等を用いている(太田他(2024)が説明しているとおり、ステップワイズ法で使用データを採択している1 )。
図表1のとおり、モデルによる1月中旬時点における10~12月期実質GDPの推計値は前期比+0.2%(年率+0.8%)となった。10~12月期の日本経済は、高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ること等を受けて個人消費や設備投資を中心に回復基調が続くことを筆者は見込んでいたが(酒井(2024)を参照)、1月中旬時点までに得られる11月分の月次データからは、緩やかながらも日本経済はプラス成長が続くことが示唆されたと言えよう。
図表1 10~12月実質GDPの予測値

なお、東京財団政策研究所による1月15日時点のナウキャスティングでは、10~12月期実質GDPは前期比+0.04%(年率+0.17%)とほぼゼロ%成長近傍の予測となっており、本稿の推計よりやや弱い結果と言えるだろう(使用データは本稿と異なる。詳細は東京財団政策研究所ウェブサイトのGDPナウキャスティングを参照されたい)。一方、日本経済研究センターが公表した1月のESPフォーキャスト調査(回答期間は2024年12月23日~2025年1月8日、回答者は35名)における10~12月期実質GDPの民間予測値平均は前期比+0.30%(年率+1.20%)となっており、本稿や東京財団政策研究所のナウキャストと比べてやや高めの成長率が見込まれている。ESPフォーキャスト調査における民間予測は、本稿のモデルで使用した1月中旬までに得られる月次データだけでは反映しきれない先行きの景気動向に対するエコノミストの「読み」(フォーキャスト)が予測値に反映されており、足元までのデータからリアルタイムでGDP動向を把握するナウキャストとは予測値の性質が異なる点には留意する必要がある(例えば、12月は高い伸びが見込まれる冬のボーナスが実質賃金の改善に寄与することで個人消費の押し上げ要因になると考えられ、エコノミストの予測にはこうした見方も反映されているとみられる)。今後の月次経済指標の動向も見極める必要があるだろう。
11月の生産・消費は冴えない動き。10~12月期の経済活動の回復ペースは緩やか
10~12月期のナウキャスティングについては、1月中旬までに公表された月次経済指標を使って、GDP1次速報値の予測値を12月から1月にかけて4回更新した。予測値アップデートの過程と、各月次経済指標の寄与度を示した結果が図表2である。太田他(2024)で示した枠組みと同様、図表2の折れ線が各時点における実質GDP成長率の予測値であり、月次の経済指標が新たに公表されたり更新されたりすることで予測値がアップデートされる。棒グラフは、予測値の改定幅、すなわち前回予測との差を各月次経済指標で寄与度分解したもので、寄与度を合計するとモデル予測値の改定幅と一致する。酒井・西野(2024b)が示したとおり10月分の経済指標までを反映した段階では小幅なマイナス成長が予測されていたが、11月分の経済指標の動向として、後述するように鉱工業生産が減少した一方で消費活動指数が小幅ながらも回復したこと等を受け、モデル予測値も1月の改定において前期比プラス圏に浮上した格好になっている。
以下、足元の景気動向をみる上で特に重要となる生産、個人消費関連の指標(「みずほGDPナウ」で使用している鉱工業生産、消費活動指数)の動きについて簡単に解説しておこう。
図表2 予測値の改定過程と各経済指標の寄与度

(出所)内閣府等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
鉱工業生産は、景気循環との連動性が高く、速報性も高いことから多くのエコノミストが注目する指標の一つである。図表3のとおり、11月(確報)の生産指数は前月比▲2.2%(10月同+2.8%)と3カ月ぶりに低下した。業種別にみると、生産用機械(半導体製造装置等)、輸送機械(自動車等)、電子部品・デバイス(メモリ等)の生産指数が低下している。輸送機械は3カ月ぶりに減産となったが、振れを伴いながらも回復基調との見方は変わらない。生産用機械工業は10月の急増の反動から減産となったものの、AI需要拡大を受けて半導体製造装置が好調であり、高水準を維持している。一方、電子部品・デバイス工業は2カ月連続の減産となっており、足元で回復が一服している点は懸念材料だ(出荷・在庫バランス(出荷・前年比-在庫・前年比)も出荷の伸びの弱さを主因としてプラス幅が縮小傾向で推移している)。均してみれば生産活動は緩やかに持ち直しているとみているが、足元は力強さに欠ける動きと言えるだろう。先行きも、12月にかけて生産用機械が持ち直すとみられる一方、電子部品・デバイス等がさらに減産し、全体としては一進一退の動きが続く可能性が高い。
また、GDPの5割以上を占める個人消費の動向をみる上で、消費活動指数は財・サービスの消費活動を包括的に捉えることのできる月次の経済指標という点で有用である2。図表4のとおり、11月の消費活動指数(実質、旅行収支調整済)は前月比+0.1%と4カ月ぶりに増加した。酒井・西野(2024b)が述べていたとおり10月は気温低下の遅れで冬物商材が振るわず非耐久財が大きく減少した一方、11月に入り全国的に気温が低下したことで冬物商材の売り上げが伸びたため、非耐久財が増加したことが全体を押し上げた格好だ。ただし、食料品の値上げが相次いだことが重石となり、前月までの落ち込みを取り戻せていない点には留意する必要がある。12月の消費者態度指数をみても前月から低下しており(「耐久消費財の買い時判断」や「暮らし向き」が低下)、物価高の継続が消費マインドを下押しする構図が続いている状況だ。10~12月期は最低賃金や公務員給与の引上げに加え、高い伸びが見込まれる冬のボーナスが押し上げ要因になり3、個人消費は均してみれば増加基調を維持すると筆者はみているが(酒井(2024)を参照)、定額減税や防災需要・米の買い占め等による一時的な押し上げ影響が剥落したとみられることに加え、野菜・米類等の身近な食料品の価格高騰、政府による電気・ガス代補助措置の終了等を受けて家計の節約志向が強まっている(日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(12月調査)によれば、体感物価が平均で前年比+17.0%と加速しているほか、暮らし向きDIはコロナ禍前を大幅に下回る水準で低迷が継続している)。足元の個人消費の動向は、生産と同様に力強さを欠くとの印象は否めないだろう。
図表3 生産指数の推移

(出所)経済産業省「鉱工業指数」より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
図表4 消費活動指数の推移

(出所) 日本銀行より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
以上のとおり、1月中旬までに得られる11月分のデータを用いた「みずほGDPナウ」では10~12月期の実質GDPは前期比+0.2%(年率+0.8%)とプラス成長が予測され、緩やかながらも経済活動の回復継続を示唆する結果と言える。前述したように今後の月次経済指標の動向も見極める必要があるが、足元の消費マインドの動向等を踏まえると、10~12月期の日本経済の回復ペースはエコノミストが予測しているよりも緩やかなものにとどまることも十分に考えられる点には留意が必要だ(なお、次回の「みずほGDPナウ」の推計・発信については、2月17日に公表される10~12月期GDP一次速報を挟んで、1月分の鉱工業生産や消費活動指数の結果等を踏まえて1~3月期GDPのリアルタイム予測に取り組むこととし、3月中旬頃のレポート発刊を予定している)。
[参考文献]
今井大輔(2024)「2024年冬季ボーナス予測~所定内給与の増加を受けて伸びが加速~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年11月8日
浦沢聡士(2023)「GDP ナウキャストと景気判断~景気判断実務における GDP ナウキャストの活用に向けて~」、内閣府経済社会総合研究所「経済分析」第208号
太田晴康・仲山泰弘・酒井才介・松浦大将・越山祐資・西野洋平(2024)「「みずほGDPナウ」の推計~DFMを用いた日本のGDPナウキャスティング~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年8月30日
河田皓史(2024)「個人消費は強い?それとも弱い?~強弱入り乱れる消費指標を読み解く~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年1月17日
酒井才介(2024)「年率+1.2%と1次速報から上方修正(7~9月期2次QE)」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『QE解説』、2024年12月9日
酒井才介・西野洋平・太田晴康・仲山泰弘(2024)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~9月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.0%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年9月19日
酒井才介・西野洋平(2024a)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~10月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.1%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年10月18日
酒井才介・西野洋平(2024b)「「みずほGDPナウ」(24年12月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比▲0.1%(年率▲0.3%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年12月18日
- 1今後のモデルの予測精度のパフォーマンス評価等を踏まえ、採択するデータについては見直しを行う可能性がある。
- 2消費活動指数を含む個人消費関連データの解説については、河田(2024)を参照されたい。
- 3ボーナス算定基準となる所定内給与が堅調に増加することに加え、堅調な企業収益を受けてボーナスの支給月数も増加するとみられ、今井(2024)は冬の民間企業の一人当たりボーナス支給額を前年比+3.5%と予測している。