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2025年2月27日

Mizuho RT EXPRESS

中国の迂回輸出がアジアの対米輸出を押上げ

中国製品比率が高いベトナムは米関税の標的となるおそれ

調査部 主任エコノミスト 亀卦川 緋菜
hina.kikegawa@mizuho-rt.co.jp

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アジア新興国の対米輸出額は拡大

アジア新興国1から米国への輸出は増加を続けており、United Nations (2024)の最新データでは輸出額が約4,000億ドルに達した。特にベトナムやインド、タイからの輸出が2015年対比でそれぞれ3.6倍、2倍、2.2倍と大幅な伸びを見せた。アジア地域における製造業の強化と米国市場の需要増加がこれらの拡大を支えている。加えて、中国からの輸出品がアジア新興国で加工されたうえで米国に輸出される迂回輸出が対米輸出を加速させた点も無視できない。本稿では、OECD (2024)が提供する対米輸出品に占める中国付加価値データを用いて、中国の迂回輸出の影響を分析し、米国新政権の今後の関税政策がどの国を標的とする可能性があるかを考察する。

対米輸出品に占める中国付加価値シェアが上昇。中国の迂回輸出強化を示唆

対米輸出の増加に中国の迂回輸出がどの程度影響しているかを分析するため、OECD(2024)のデータを用いて、米国向け輸出品に占める中国由来の付加価値シェアを分析した2。このデータは、OECDの国際産業連関表をもとに輸出品の付加価値がどの国由来であるかを集計している。中国の付加価値シェアが高いほど、当該輸出品に対するアジア新興国の付加価値面での貢献度(典型的には、アジア新興国内での加工度)が低いことになるため、中国の迂回輸出の度合が高いと考えられる。

図表2に示すとおり、ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンでは米国への輸出品に占める中国由来の付加価値の割合が増加している。米国が2018年に対中関税の設定を表明3して以降、中国はベトナムなどアジア新興国を中国製品の迂回輸出拠点として活用する傾向を強めてきた可能性が示唆される。

一方、インドの対米輸出品に占める中国の付加価値シェアは2015年から増加しておらず、低位なままである。インドは、対米輸出品に占める自国の付加価値割合が2015年から2020年にかけて75%から77%に増加しており、自国の技術力の向上により米国向けの輸出を増加させたと考えられる。

図表1 アジア新興国から米国への輸出額

(出所)国連より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表2 国別対米輸出額と輸出品に占める
中国の付加価値の割合

(注)「中国付加価値シェア」は、最新の2020年データを「24年」に利用。各国から米国への輸出品のうち「製造業」における中国の付加価値の割合を集計
(出所)OECD、国連より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

製品別では「電気・電子機械」で中国付加価値シェアが拡大

次に、中国付加価値シェアの動向を品目別に確認すると、図表3に示すとおり、インドを除く各国で「電気・電子機械」の中国付加価値シェアが上昇した。電気・電子機械には、スマートフォンや半導体デバイスなどが含まれるが、これらは米国の対中追加関税(第一次トランプ政権時に課されたもの)の対象となっている。中国が、米中通商摩擦を受けたサプライチェーン見直しにより、アジア新興国に生産移管を進めた可能性がある。

図表3 対米輸出の製品別にみた中国付加価値の割合

(注)各国から米国への輸出品における中国の付加価値の割合を業種別に集計
(出所)OECDより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

一方、インドは、電気・電子機械を含め大半の品目で中国付加価値シェアが低下しており、いずれの業種とも自国企業の技術力の向上が対米輸出の拡大につながっていると考えられる。その一因として、インドが高い関税を設定することで国内産業を保護してきた点が挙げられる。例えば、WTO(2025)のデータを用いて電子機械の関税率(通常関税率)を見ると4、インドの関税率は他のアジア新興国と比べて高く設定されていることが確認できる(図表4)。2015年から2023年にかけて、インドの製造業は、アジア新興国の中でベトナムに次ぐ伸びをみせており、インドが輸入関税を高く設定することで、自国の製造業の育成を進めてきたことがうかがえる(図表5)。

図表4電気・電子機械の平均関税率(25年)

(注)平均関税率は、各HSコードで設定されている最大関税率をHSコード数で単純平均して算出
(出所)WTOより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表5アジア6カ国の製造業GDP

(注)産業別GDP(製造業)の実質値を使用
(出所)世界銀行より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

輸出品に占める中国付加価値シェアが高いベトナムは米関税の標的となる可能性

本稿で取り上げたとおり、アジア新興国からの対米輸出が拡大しており、中国による迂回輸出がその成長を加速させていると考えられる。こうした動きを受け、中国に対し強硬な姿勢をとる米国がアジア新興国に対して高関税を課すリスクが高まっている。特に、対米輸出額が大きく輸出品における中国付加価値の割合が高いベトナムは、米関税のターゲットとなる可能性が大きいといえる。

一方、インドは関税により国内産業を保護しながら、自国の技術力向上によって独自に競争力を高め、中国の代替輸出の影響を受けずに対米輸出を拡大したため、米中対立の文脈で米関税の対象となるリスクは相対的に低いといえる。しかしながら、第二次トランプ政権は、対米貿易黒字の大きさや中国による迂回輸出の可能性等にかかわらず、米国よりも高い関税を設定している国に対して同率の関税を課す「相互関税」の導入を打ち出しており 、この新たな動きによってインドも影響を受ける可能性が高い。この意味での米国からの圧力が強まることで、インドは高関税政策の見直しを迫られるリスクが現実味を帯びてきている。

アジア新興国は、貿易相手国の多様化による特定国依存の回避、高関税政策の見直し、さらに国内産業の競争力強化に向けた投資の推進が、長期的な経済成長を実現するうえで求められている。

[参考文献]

OECD (2024) “Trade in Value-Added (TiVA) 2023 edition”, https://www.oecd.org/en/topics/sub-issues/trade-in-value-added.html, 2025年2月26日アクセス

Office of the United States Trade Representative (2018) “USTR Issues Tariffs on Chinese Products in Response to Unfair Trade Practices”, Press Release, June 15, 2018

The White House (2025) “Fact Sheet: President Donald J. Trump Announces “Fair and Reciprocal Plan” on Trade”, Fact Sheets, February 13, 2025

United Nations (2024) “UN Comtrade Database”, https://comtradeplus.un.org/, 2025年2月26日アクセス

WTO (2025) “Applied Duties and Trade (IDB), HS Subheading Duties”, https://tao.wto.org/, 2025年2月26日アクセス

  1. 1本稿では、ベトナム、インド、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピンの6か国を指す。中国は含まない。
  2. 2OECDの最新データは2020年。新型コロナウィルス感染症によるサプライチェーンへの影響は限定的とみられる。
  3. 3Office of the United States Trade Representative (2018)
  4. 4米国は特定の新興国に対して一般特恵関税を設定しているが、本稿では単純化のために通常関税率を用いた。なお、関税率の集計にあたり「電気・電子機械」の分類は、財務省「概況品コード」を参照した。