調査部 チーフ日本経済エコノミスト 酒井才介
同 エコノミスト 西野洋平
saisuke.sakai@mizuho-rt.co.jp
4月中旬時点の「みずほGDPナウ」によれば1~3月期GDPは前期比+0.75%
景気動向をいち早くタイムリーに把握したいというニーズを踏まえ、みずほリサーチ&テクノロジーズでは、浦沢(2023)等を参考にGDPナウキャスティング(GDPに先行して公表される経済指標を活用したGDP成長率のリアルタイム予測)に取り組んできた。太田他(2024)では、みずほリサーチ&テクノロジーズが構築したダイナミック・ファクター・モデルによるGDPナウキャスティングについての技術概要や予測パフォーマンス等を解説し、使用データがそろえば民間予測平均並みの予測精度が確保できることを示した。その上で、酒井他(2024)、酒井・西野(2024a)、酒井・西野(2024b)、酒井・西野(2025a)、酒井・西野(2025b)では、月次経済指標を用いたGDPナウキャスティングの結果を紹介してきたところである。
本稿では、太田他(2024)で説明したモデルを用いて、4月中旬時点までに得られる月次経済指標を用いた1~3月期GDPのナウキャスティングの結果を紹介する。米アトランタ連銀が発表するGDPナウの日本GDP版のようなものであるが、本稿では「みずほGDPナウ」と呼称することとしたい。使用データとしては、4月中旬までに得られる2月分の鉱工業生産、消費活動指数、所定外労働時間、中小企業景況調査、消費財出荷指数、第3次産業活動指数等を用いている(太田他(2024)が説明しているとおり、ステップワイズ法で使用データを採択している1)。
図表1 1~3月実質GDPの予測値

図表1のとおり、モデルによる4月中旬時点における1~3月期実質GDPの推計値は前期比+0.75%(年率+3.05%)となった。外需に景気の牽引役は期待しにくい中、高水準の企業収益が賃金や設備投資に回ることで内需を中心に日本経済は回復基調で推移しているとの見方を筆者は維持しているが(酒井(2025)を参照)、4月中旬時点までに得られる2月分の月次データからは、経済活動の回復継続が示唆されたと言えよう。
なお、東京財団政策研究所による4月15日時点のナウキャスティングでは、1~3月期実質GDPは前期比+0.45%(年率+1.79%)とプラス成長の予測となっており、本稿の推計より弱めの結果となっている(使用データは本稿と異なる。詳細は東京財団政策研究所ウェブサイトのGDPナウキャスティングを参照されたい)。一方、日本経済研究センターが公表した4月のESPフォーキャスト調査(回答期間は2025年3月27日~4月3日、回答者は37名)における1~3月期実質GDPの民間予測値平均は前期比+0.01%(年率+0.08%)とほぼゼロ成長が見込まれており、本稿や東京財団政策研究所のナウキャストと比べてかなり弱い予測値となっている。本稿や東京財団政策研究所のナウキャストでは足元で公表された経済指標が堅調な結果となったことを「素直に」反映している一方、ESPフォーキャスト調査では先行きに対する民間エコノミストの慎重な「読み」が反映されている点等が予測値の違いにつながっている可能性がある。例えば、4月7日に公表された2月の実質消費活動指数(旅行収支調整済)は、耐久財消費で新車販売が好調だったほか気温低下に伴いエアコン・暖房器具の売れ行きが良好だったこと等を受けて前月比+1.2%(1月:同▲0.1%)と3カ月ぶりに増加しており、こうした指標の動向等を本稿のナウキャストでは織り込んでいる。一方、ESPフォーキャスト調査における民間予測では(2月の消費増加は天候要因による押し上げが大きく)基調としては食料インフレ等を受けた消費マインドの弱さが継続しているとの見方2、あるいは1~3月期は前期の反動で輸入が高い伸びとなることで外需寄与度が押し下げられるとの見方等が織り込まれている可能性がある3。こうした点も頭に入れながら、今後の月次経済指標の動向を見極める必要があるだろう。
なお、1~3月期のナウキャスティングについては、4月中旬までに公表された月次経済指標を使って、GDP1次速報値の予測値を3月から4月にかけて4回更新した。予測値アップデートの過程と、各月次経済指標の寄与度を示した結果が図表2である。太田他(2024)で示した枠組みと同様、図表2の折れ線が各時点における実質GDP成長率の予測値であり、月次の経済指標が新たに公表されたり更新されたりすることで予測値がアップデートされる。棒グラフは、予測値の改定幅、すなわち前回予測との差を各月次経済指標で寄与度分解したもので、寄与度を合計するとモデル予測値の改定幅と一致する。4月1日時点では2月分の鉱工業生産や消費財出荷の増加、4月23日時点では前述した2月分の消費活動指数に加え、第3次産業活動指数4の増加がプラスに寄与し、成長率予測値を押し上げた格好になっている。
図表2 予測値の改定過程と各経済指標の寄与度

(出所)内閣府等より、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成
以上のとおり、4月中旬までに得られる2月分のデータを用いた「みずほGDPナウ」では1~3月期の実質GDPは前期比+0.75%(年率+3.05%)とプラス成長が予測され、経済活動の回復継続を示唆する結果と言える。前述したように今後公表される経済指標の動向によってGDPの実績値は本稿の予測対比で下振れる可能性があり、引き続き景気動向を注視していきたい。
なお、次回の「みずほGDPナウ」の推計・発信については、5月16日に公表される1~3月期GDP一次速報を挟んで、4月分の鉱工業生産や消費活動指数の結果等を踏まえて4~6月期GDPのリアルタイム予測に取り組むこととし、6月中旬頃のレポート発刊を予定している。米国のトランプ政権の関税政策により輸出や生産が下押しされることが見込まれ、日本経済の動向については注意が必要な局面を迎えることから、ナウキャストによる景気動向の把握はより重要なものとなるだろう。
[参考文献]
浦沢聡士(2023)「GDP ナウキャストと景気判断~景気判断実務における GDP ナウキャストの活用に向けて~」、内閣府経済社会総合研究所「経済分析」第208号
太田晴康・仲山泰弘・酒井才介・松浦大将・越山祐資・西野洋平(2024)「「みずほGDPナウ」の推計~DFMを用いた日本のGDPナウキャスティング~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年8月30日
河田皓史(2024)「個人消費は強い?それとも弱い?~強弱入り乱れる消費指標を読み解く~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『みずほインサイト』、2024年1月17日
酒井才介(2025)「年率+2.2%と1次速報から下方修正(10~12月期2次QE)」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『QE解説』、2025年3月11日
酒井才介・西野洋平・太田晴康・仲山泰弘(2024)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~9月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.0%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年9月19日
酒井才介・西野洋平(2024a)「「みずほGDPナウ」で見る景気動向~10月中旬時点で7~9月期GDPは前期比+0.1%と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年10月18日
酒井才介・西野洋平(2024b)「「みずほGDPナウ」(24年12月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比▲0.1%(年率▲0.3%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2024年12月18日
酒井才介・西野洋平(2025a)「「みずほGDPナウ」(25年1月中旬時点)~10~12月期GDPは前期比+0.2%(年率+0.8%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年1月22日
酒井才介・西野洋平(2025b)「「みずほGDPナウ」(25年3月中旬時点)~1~3月期GDPは前期比+0.07%(年率+0.28%)と推計~」、みずほリサーチ&テクノロジーズ『Mizuho RT EXPRESS』、2025年3月19日
- 1今後のモデルの予測精度のパフォーマンス評価等を踏まえ、採択するデータについては見直しを行う可能性がある。
- 2食料品を中心とした価格上昇を受けて足元の実質賃金は前年比マイナスで推移している。3月の消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)は、電気・ガス代補助措置の再開が下押しに作用した中でも前年比+4.2%と高い伸びが続いており、特に、米類など身近な食料品の価格高騰は家計の節約志向を強めていると考えられる。日本銀行「生活意識に関するアンケート調査」(3月調査)によれば、体感物価が平均で前年比+19.1%と加速しているほか、暮らし向きDIはコロナ禍前を大幅に下回る水準で低迷が継続している状況だ。3月の消費者態度指数や景気ウォッチャー調査の現状判断DI(家計動向関連)をみても低下が続いており、消費マインドは弱い動きが続いている。
- 32024年10~12月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比+0.6%(年率+2.2%)と、輸入の減少による外需の大幅プラス寄与を受けて事前予想対比で「出来過ぎ」の感があったが、1~3月期は逆に輸入の反動増で外需がマイナスに寄与する可能性がある。「みずほGDPナウ」では輸入のデータを使用しておらず、輸入の動向が攪乱要因となってGDP実績値から乖離する場合がある点に留意する必要がある。
- 4基準年次が2015年(平成27年)基準から2020年(令和2年)基準に改定されたことを受け、新系列データが公表されていない2017年12月以前を含む旧系列データと、新系列データを独自に接続させて推計に使用している(本稿執筆時点では接続指数が公表されていないため)。