キービジュアル画像

2025年10月27日

Mizuho RT EXPRESS

上昇を続ける中国のコア物価

補助金や貴金属価格上昇が主因。インフレ基調回復は遠い

調査部 主任エコノミスト 鎌田晃輔
kosuke.kamata@mizuho-rt.co.jp

ダウンロードはこちら (PDF/665KB)

総合CPIはマイナス圏の一方、食料・エネルギー除くコアは19か月ぶりの1%超え

「中国でデフレ圧力が高まっている」と指摘する声は多い。実際に消費者物価指数(CPI)を見ると、2023年後半以降は総じて下落傾向にあり、足元(2025年8~9月)は2か月連続の前年比マイナスとなっている【図表1】。

図表1 消費者物価指数(CPI)

(出所)中国国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

一方、振れが大きい食品・エネルギーを除いたコアベースでみると、2025年以降は逆に前年比プラス幅が拡大しており、9月にはついに2024年2月以来となる1%に達した。

物価の基調により近いとされるコアCPIが上昇しているため、中国経済はデフレから脱却しつつあるかのようにも見える。本稿では、足元のコアCPIの上昇を支えている品目を特定し、物価上昇の持続性について検討してみたい。

コアCPIの上昇は、買い替え補助金や貴金属の価格上昇による影響が大きい

図表2は、食品とエネルギーを除いた17の財・サービス分類について、2023年から2025年にかけての前年比上昇率を示したものである。2025年は、ゼロコロナ政策の解除により経済活動が再開した2023年から物価上昇が続いていた「漢方薬」や「旅行・外出」の上昇が一服した一方、「家電製品」「通信機器」「その他財・サービス」の上昇が目立つ。

図表2 コア財・サービス別のCPI上昇率

(注)2025年は1月~9月の累計前年比ベース
(出所)中国国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

このうち、「家電製品」および「通信機器」については、政府の耐久財買い替え補助金政策を追い風に関連消費が急拡大した影響が大きい。2025年は補助金政策の予算を倍増(1,500億元→3,000億元)させたこともあり、家電製品の小売売上は前年同期比+25.3%、通信機器は同+20.5%と急増した(いずれも1~9月の累計ベース)。

「その他財・サービス」には非常に広範な品目が含まれており1、内訳ごとの伸び率は公表されていないものの、貴金属の価格上昇が大きく影響しているとみられる。CPIの公表元である中国国家統計局は8月の公表結果について「金・プラチナ装飾品価格はそれぞれ+36.7%、+29.8%となり、合計でCPIを約0.22ポイント押し上げた」と説明している。貴金属製品の国内需要が高まっている背景には、世界経済の先行き不透明感が燻るもとで金などの貴金属が「安全資産」として注目を浴びるなか、資産防衛目的で購入する動機が強まっていることが挙げられる。

補助金政策の予算切れで家電等の押し上げ効果は減衰へ。インフレ基調回復は遠い

補助金効果による家電・通信機器消費の拡大と資産防衛を目的とした貴金属需要の拡大は、今後も物価上昇を支えるのだろうか。

補助金効果については、単月ベースで見た家電製品の小売売上高が9月時点で前年比+3.3%と8月の+14.3%から急減速するなど、既に息切れ感が漂っている【図表3】。報道によれば、9月末時点で予算の全額(3,000億元)が地方政府に配分済みであり、追加の押し上げ効果は期待しづらいことから、10月以降は家電・通信機器等の売上が反動減に転じる可能性が高い。補助金関連品目の消費拡大による物価の押し上げ効果は今後減衰していくとみるべきだろう。

貴金属需要の拡大による物価の押し上げは当面続くとみられる。地政学リスクや世界経済の先行き不透明感などを背景に、金やプラチナの国際価格は歴史的な高値圏にある【図表4】。これらの要因は早期の解消が見込みがたく、安全資産として貴金属を購入する動きは続きそうだ。

図表3 家電製品の小売売上高

(出所)中国国家統計局、CEICより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

図表4 金・プラチナ価格の推移

(出所)LSEGより、みずほリサーチ&テクノロジーズ作成

いずれにせよ、コアCPIの上昇は補助金や貴金属需要といった特殊要因に依るところが大きく、その他の幅広い品目に物価上昇の動きが広がっているわけではない。つまり、最近のコアCPIの前年比プラス幅拡大は「基調」ではないと筆者は評価している。過剰生産を背景とした過度な値下げ競争がデフレ圧力となるなか、補助金効果のはく落に伴って再び物価の上昇ペースが鈍化する可能性は高く、インフレ基調回復への道のりは遠い。

  1. 1「居民消费支出分类(2013)」によれば、「その他の財」には宝飾品・時計、トランク・バッグ類、乳児用品、喫煙具、葬祭用品などが含まれる。「その他のサービス」には宿泊、美容・理容、社会福祉、保険、金融などのサービスが含まれる。