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ケミマガコラム【Vol. 1】

ほんとうは怖い静電気のはなし

2018年8月30日 環境エネルギー第1部 貴志 孝洋

特に冬、ドアノブを触った時や服を脱ぐ時などに、「バチッ」と痛い思いをすることが多い迷惑な静電気。実は、機材への微細粉の付着やペットボトルと包装材など異なる材質の分別、静電気を用いた集塵(電気集塵)など工業的に有効活用されている。しかし、静電気は、大規模な災害を引き起こす原因となることも報告されており、目に見えないことなどから対策が見落とされがちな危険なものでもある。

消防白書によると、2009年から2015年に発生した危険物施設における火災(爆発を含む)1,549件の着火原因の約2割(266件)を静電気が占めている。本コラムでは、化学物質による火災や爆発などの原因となり得る「静電気」について考える。

はじめに

2016年6月に、化学物質のリスクアセスメントの義務化などを含む改正労働安全衛生法が施行され、一定の危険有害性を有する化学物質(SDS交付義務対象物質)を製造または取り扱う場合、業種や規模に関わらず、「すべての」事業者は、リスクアセスメントを実施することが求められている。SDS交付義務対象物質は、「労働安全衛生法施行令」別表第9および別表第3第1号に2018年8月現在で673物質が掲げられている(*1)。

改正労働安全衛生法に基づくリスクアセスメントにおいては、化学物質を吸入することなどで健康を害する「有害性」だけではなく、引火や爆発などの「危険性」も対象となっていることが重要なポイントである。  特に危険性の場合、専門的な知見が求められることから後回しにされることもしばしばあるが、ひとたびリスクが顕在化すると極めて大きな災害につながるおそれが高いことから、厚生労働省および労働安全衛生総合研究所は、危険性に着目したリスクアセスメント支援ツールを公開し、当該ツールを活用することでリスク低減措置の検討を支援している(*2)。

化学物質の危険有害性に起因する災害は、2つに大別される。有害性に起因する中毒や薬傷などの健康障害と、危険性に起因する引火などによる火傷や建屋の火災などである。年間それぞれ200件程度、150件程度発生しており、最悪の場合、がんになるおそれや大規模火災・爆発などを引き起こすおそれがある。本稿では、労働災害のうち、危険性に起因する災害を対象に、発生原因について考察する。

化学物質による火災は、発火または引火した化学物質に可燃物(周囲の可燃性の化学物質や建材など)が接触することによって次々と火が広がり(延焼し)発生する。そのため、火災を防止するためには、延焼を防ぐことも二次災害防止の観点から重要であるが、化学物質を発火/引火させないこと、つまり着火源(点火源)を取り除くことが危険性のリスク低減において極めて重要である。

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事業場における主な着火源
着火源
(点火源)
点火源の例 火災防止対策の代表例
裸火 溶接の火、溶断の火、グラインダーの火、加熱炉の火、タバコの火、ストーブの火など 点火源と可燃物は離す(点火源の近傍に可燃物は置かない)
火花 金属の衝撃火花、電気火花、溶接・溶断の火花など
  • 接触しても火花が出ない工具を使う
  • 設備を防爆型にする
  • 溶接・溶断により生じる火花の飛散を防止する
静電気 人体や機器に帯電した静電気の放電など(人が動くと、液体を流すと、摩擦すると、ものを剥がすと静電気が発生する。)
  • 帯電防止服などを着用し、静電気を発生させない
  • 発生した静電気が帯電しないように、アースを取る
高温 高温配管、高温設備など
  • 高温部分を保温カバーで覆い、表面温度を下げる
  • 高温体近傍で可燃物を取り扱わない
摩擦熱
摩擦火花
  • ベルトコンベヤー等の回転物の摩擦で温度が上昇し発火
  • 研磨、粉砕等の作業において発生した摩擦熱・摩擦火花
  • 摩擦が生じていないか、設備等を定期的に点検する
  • 設計値以上の負荷をかけない
  • 可燃物との縁切りを行う
自然発火 廃塗料、廃スラッジ、廃触媒、おがくずなどの堆積物が発熱あるいは蓄熱することで、温度が上昇して発火など 可燃物を空気中で堆積したまま放置しない

上記の着火源のうち、「目に見えない」ことから見落としがちになる「静電気による着火」に着目し、静電気の発生原因の解説や主な対策、注意点について紹介する。

静電気の発生メカニズム

「静電気」と、いわゆる一般の「電気」の大きな違いは、静電気の電流が非常に小さいことである。「電気」の電流値がおおよそ数A(アンペア)であるのに対し、「静電気」は、数pA~μA(10-12~10-6A)程度であり、非常に小さな電流であることから電荷がほとんど動かないことを意味する。しかし、ほとんど動かないことから電荷が蓄積していき、結果的に高い電位となる。この電位が、一般的には数kV(キロボルト)以上の場合は対策が必要とされている。

静電気はちょっとした作業でも発生するおそれがあり、目に見えないことからも気付かないうちに帯電してしまうこともある。静電気の発生メカニズムはさまざまあるが、基本的に異なる種類の物質が接触した後、分離することで発生することが知られている。

事業場における静電気が発生する代表的なケースとして、(1)化学物質の配管内での流動、(2)スプレーやボンベなどからの噴霧、(3)混合などを伴う容器での調合、(4)作業者の移動時の服の擦れなどが知られている。さらに近年では、スマートフォンやタブレットが普及し、誰でも利用できる状況にあるが、スマートフォンなどの利用の際に発生する静電気が着火源になるおそれがあるとされており、事業者によっては事業場でのスマートフォンなどの利用を禁止している。さらに、ノック式のボールペンも場合によっては静電気が発生し、着火源になるおそれがあるとされている。

上記のようなケースで静電気が帯電した状態で、他の導電性の物体に接触、あるいは接近すると激しい放電が発生する。これを静電気放電(Electro-Static Discharge:ESD)といい、スパーク(火花)を生じさせることもあり、このスパークが着火源となり引火性の蒸気に着火し、火災や爆発を生じさせることだけではなく、電子機器の誤作動などの原因にもなる。

静電気の帯電・静電気火花の主な防止対策

事業場における静電気による火災などを防ぐためには、(1)静電気の発生を抑制すること、(2)人体への帯電を防止すること、(3)静電気の意図的な放電(スパークを生じさせる前に放電すること)などが重要である。

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静電気による火災を防ぐ主な対策
静電気の発生抑制
  • 摩擦を小さくする
  • 化学物質の配管内などでの流速(移動速度)を大きくし過ぎない
人体への帯電防止
  • 帯電防止服、帯電防止靴(静電靴)を着用する
  • 作業現場で服の脱着を避ける
静電気の意図的な放電
  • アースを取る(容器、タンク、装置、配管等を接地する)
  • 送油、化学物質の調合後、静置する時間を設ける
  • 作業場の湿度を高くする(50%以上が望ましく、30%以下は危険)
  • 床の伝導性を確保する(塩ビなど絶縁性のシートは敷かない)

おわりに

前述のとおり、静電気は目に見えないことから見落としがちになるため、対策が後手になりがちであるが、静電気に起因する火災などの災害は近年になっても報告されている。そのような災害事例は、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」に物質別に公表されている(*3)。特に可燃性ガスや引火性液体など、引火のおそれがある化学物質を製造するあるいは使用する場合は、過去に静電気による火災事例がないかなどを確認し、静電気が発生するおそれはないかをなどを十分に検討するべきである。

なお、本稿では静電気対策のうち代表的なものを挙げているため、その他の対策や各対策の注意すべきポイントなどは詳細な専門書を参照されたい。

  1. *1表示・通知対象物質(ラベル表示・SDS交付義務対象673物質)の一覧・検索(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」)
    http://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html
  2. *2爆発・火災等のリスクアセスメントのためのスクリーニング支援ツール(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」)
    http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07_2.htm
    リスクアセスメント等実施支援ツール/実施マニュアルについて(労働安全衛生総合研究所)
    https://www.jniosh.go.jp/publication/houkoku/houkoku_2016_01.html
  3. *3化学物質による災害事例(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」)
    http://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/saigaijirei.htm

参考文献

  • 労働安全衛生総合研究所技術指針「静電気安全指針2007」(産業安全技術協会)
  • 『静電気トラブルQ&A』(株式会社明広社)
  • 着火火災の原因となる液体の静電気帯電現象(安衛研ニュースNo.114、労働安全衛生研究所)
    https://www.jniosh.go.jp/publication/mail_mag/2018/114-column-1.html

関連情報

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2018年1月
化学物質の危険性のリスクアセスメント支援について
『セイフティエンジニアリング』 vol.188 (公益財団法人総合安全工学研究所、2017年9月1日発行)
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