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EUのスマートリージョン戦略「SMART EUROPE」から学ぶ

2019年1月29日 環境エネルギー第1部 熊久保 和宏

我が国は2008年以降少子高齢化に伴う人口減少の局面を迎えている。生産年齢人口(15~64歳の人口)の減少が人手不足をもたらし、消費者の減少は国内サービス市場の縮小に影響を与えている。また、住民の高齢化・少子化は地域コミュニティの機能を低下させ、日本の伝統文化の消失につながる可能性がある。

日本ほど急激ではないものの、EUでも人口減少と高齢化の懸念に直面している。そこで生じる地域での数々の課題を乗り越えるために、地域レベルで人口減少下でも経済成長を実現するための試みがスタートしている。そのひとつがSMART EUROPEだ。

SMART EUROPEは、著名な経済思想家であるジェレミー・リフキン氏が提唱する“The Third Industrial Revolution”に沿った、スマートシティやスマートリージョンを現実化するためのロードマップ策定プログラムである。2017年2月に、ブリュッセルにて欧州委員会(EC)と欧州地域委員会が共催したハイレベル会合「欧州への投資:スマートな都市と地域連携の構築」において同氏が発表したもので、EUの地域のスマート化関連政策に少なからず影響を及ぼしている。

SMART EUROPEでは、次世代コミュニケーション、次世代エネルギー、次世代モビリティの3つの社会インフラを一体的に構築することで、地域レベルでの社会・産業構造の変革を促し、地域経済の発展と雇用創出、そして脱炭素化を同時実現することを目論んでいる。

次世代コミュニケーションとは、センサ等によって大量の情報をデジタル化して自動的に収集し、5G等の通信技術で高速かつ大容量のデータを送り、AIで高度かつ迅速に分析して判断することで、いつでもどこでもスムーズな会話や活動を支援する情報通信インフラである。

次世代エネルギーは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーを大量に活用する地域のエネルギーインフラである。地域単位で再生可能エネルギーのような分散型電源を整備・運営することで、身の丈に合った設備投資を行い、経済的にも持続可能で環境に配慮した地域産業の創出を目指している。

次世代モビリティとは、電気自動車、燃料電池車、供給ステーション、自動走行技術、高度道路交通システム(ITS)などによって、化石燃料は使わずに、安全かつ高効率な交通・物流を実現するインフラのことである。高齢な交通弱者でも移動がしやすくなると期待されている。

そして、ジェレミー・リフキン氏らは、SMART EUROPEのフィージビリティ・スタディとして、3つのモデル地域(オー・ド・フランス地域圏、ロッテルダム=デン・ハーグ大都市圏、ルクセンブルク大公国)で、EU、国、地方公共団体、産業界、学識経験者、市民・NGO等、地域の多様なステークホルダーを巻き込み、新たな社会システム構築のためのプランを描いた。

その中では、単なる理想像を描写するだけではなく、各種プロジェクトがもたらす雇用創出や経済的なインパクトについて分析し、首都圏、郊外および農村地域における効果的なガバナンスモデルについても提案している。

興味深いのは、先端技術・システムを用いた地域振興策であることを押し出しつつも、各要素が、新たに化石資源を掘り起こさない、非化石資源を積極的に活用するといった、脱炭素化社会構築のための原則と直結する点だ。さらに重要なことは、地域経済の発展と雇用創出のために、地域社会システム全体にイノベーションを起こし、新たな競争力を産み出そうとしている点である。

近年、我が国では地方自治体を中心として公共施設の再配置や統廃合が議論されている。人口減少にともなって税収が減少し、施設の維持管理が困難になることが目に見えているからだ。一方で、地域住民に対する行政サービスの質と量を損なわない工夫が必要となっている。多くは教育施設や役所の機能を統合し、行政コストを削減しようとする意識が強くなっているが、教育や行政サービス自体が次世代コミュニケーション、次世代エネルギー、次世代モビリティによって大きく様変わりする可能性がある。学校に行かなくても勉強ができる、役所に行かなくても用が済むという時代が訪れようとしている。

私たちもSMART EUROPEに学び、社会的課題の解決と脱炭素社会の実現という両面に向けて、地域から未来への糸口を見つけ出すことはできないだろうか。

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