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キャッシュレス決済の現状と課題

2019年3月19日 ソリューション第3部 百井 勝

筆者が勤務している職場は「社員食堂」がないため、会社にいるときの昼食は近所の飲食店に行くことが多い。大手のチェーン店も当然利用するのだが、個人経営のお店を利用すると、レジの脇にQRコード(以下、QR)が掲示されているお店をよく見かける。昨年までは、中国系のAlipay(支付宝)やWeChat Pay(微信支付)が目立っていたが、最近は純国産のQRもよく見かけるようになった。特に大手コンビニチェーンのレジでは、決済手段を表すロゴが、相当数表示されるようになってきたというのが実感ではないだろうか。

日本の状況

2018年は「キャッシュレス元年」と言えるほど、新聞やネットメディアなどで「キャッシュレス」が盛んに報道された。特に10月から始まる消費税の増税に伴い、キャッシュレス決済を行う消費者に購入額の数パーセントを還元する政策が発表されたこともあり、今後より一層「キャッシュレス」が報道される機会は増えるだろう。

2017年に公表された「未来投資戦略2017(*1)」で10年後の2027年までに、現在20%程度のキャッシュレス比率を40%程度まで引き上げる目標がKPIとなったこともあり、消費税の増税に伴う還元もその比率を上げるための政策の一つと言える。

ただし、現在20%と言われている比率の計算には、家賃や公共料金の支払などで使われる「口座振替」を使った支払いは含まれていない。また、最近話題のスマホアプリ経由の支払いについては、最終支払手段がクレジットカード払い以外の所謂、口座からの現金チャージやポイントチャージによる支払いなどは含まれていないため、実質的な現金以外の決済比率は、全体的には5~10%程度高いのではないかと思われる。

店頭での決済シーンとその裏側

実際の決済手段を現金支払い以外で大きく分けると、(1)クレジットカード決済、(2)タッチ決済、(3)QR(バーコード)決済の3つになる。

(1)クレジットカード決済

少し前までは、おおよそ1万円以上の高額の支払いで使われることが多くあったが、決済時のサインや専用端末からの暗証番号入力などが必要で、ひと手間かかる決済であった。近年では大手スーパーのレジなどサインレスで使える場所も増え、平均的な決済金額も下がってきている印象だ。日本で発行されたクレジットカードの決済は「口座振替」が主流で、毎月の利用額が集計され、カード会社の指定する日に指定した預金口座から引き落とされる。

(2)タッチ決済

筆者は通勤に地下鉄を利用しているが、定期券で改札を通過する際には東京メトロの「PASMO」を使っていて、改札口ではタッチするだけ。技術的には「FeliCa」といわれるソニーが開発した非接触型ICカードで、JR東日本の「Suica」と同じ技術だ。このPASMOは事前にチャージしておくことで、通勤時の定期券としての利用のほかに、コンビニなどでそのチャージ額の範囲内で支払いができる。

店頭での支払いでは専用端末にかざす(タッチする)だけなので、タッチ決済と言われることが多くなった。タッチするデバイスは、プラスチックの板カードだけではなく、モバイルSuicaやモバイルEdyなど「おサイフケータイ」として携帯電話やスマホに登録することで、お店の専用端末にタッチするだけで決済が可能となっている。

この決済の場合、「事前にチャージ」することがほとんどの場合で必要となっていて、お店や専用機での現金チャージのほかに、銀行口座やクレジットカードと連動したチャージ、チャージ金額が一定額を下回った場合に自動的にチャージを行う「オートチャージ」機能があるケースも多くなってきている。

(3)QR(バーコード)決済

冒頭触れたQR決済で多く普及しているのは、利用者がお店で表示されているQRを読み取るMPM(Merchant Presented Mode)という方法だ。一方、大手コンビニチェーン等ではCPM(Consumer Presented Mode)というタイプで、利用者がQRを表示して、お店の従業員がバーコードリーダー等でスキャンして読み取り、決済を完了させる。

MPMでは、店側はお店を識別できるQRを紙に印刷しレジ脇に掲示するだけで、高価な決済端末等を必要としないため、加盟店になるハードルが低く、中国などで爆発的に普及した。ただし、安価な導入には、不正利用対策等のセキュリティに問題があるのも事実だ。大手コンビニのようにPOSレジの改修を含め設備投資が可能であれば、セキュリティ上の問題はクリア可能となるが、小規模経営者向けの普及という点ではコスト的な課題も多いと思われる。

実際の決済では、QRの裏側は銀行口座と紐づけのデビット決済(口座残高までの決済)や事前チャージ型、クレジットカード連動型など、いろいろな手段が事業者ごとに差別化されている。

キャッシュレス化の課題

大きな時代の流れとして、未来投資戦略2017で目標とされたキャッシュレス比率は自然体でも達成できると思われるし、消費税還元の政策もあり、より加速するものと思われる。

ただし、キャッシュレス化の進展にはデメリットを上回るメリットが必ず必要で、ユーザーである我々がそのメリットを正しく認知しないと、一時のキャンペーンのお得感だけでは、定着しないと考えている。現在のキャッシュレス手段は乱立気味で、いずれ淘汰の局面も起こりえると思われるが、最終的にはユーザーの利便性を一番に考える手段が生き残ると確信している。ランチのシーンを考えても、券売機方式の人気ラーメン店ならタッチ決済がスピード重視で良いと思われるが、食後にレジで精算するなら、席に座ったままスマホを触りQRで決済などでもいい。特に複数人がレジで個別決済する場合などは、事前に個人間送金機能を使い、代表者がまとめて席で支払うなど、便利なシーンが決済手段の特性に合わせていろいろ出てくると思われる。ユーザーの利用体験に即した決済手段の差別化がうまく図られるかが、今後の課題だろう。

筆者の所属する<みずほ>も、先般「J-Coin Pay」というQRベースの新しい決済手段をリリースした。一緒に参画する他の金融機関を含め、口座を保有している潜在的な利用可能者は非常に多いため、メリットを感じるユーザー体験をぜひ提供してもらいたいものだ。

  1. *1未来投資戦略2017
    (PDF/3,600KB)

  • *QRコードはデンソーウェーブの登録商標です。
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