ページの先頭です

プラスチックごみ問題への取り組みにあたり、まず考えること

2019年4月26日 環境エネルギー第2部 内藤 秀治

近年、海洋に流出した廃棄物の過半を占めるとされるプラスチックごみが世界的に問題視されはじめ、日本国内においてもプラスチックごみ問題は、気候変動と並び注目されるキーワードとなっている。2016年1月に開催された世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)では、今後対策を講じなかった場合、2050年までに海洋中に存在するプラスチックの重量が魚の重量を超過するとの試算が報告された*1。筆者は休日にウインドサーフィンをして過ごすことが多いが、海岸では多くのプラスチックごみが散見され、プラスチックごみによる海洋汚染の深刻さを実感している。

また、近年では、魚介類等の生物によるマイクロプラスチック*2の摂食に伴う人間の健康への影響も懸念されている。2018年10月の欧州消化器学会では、人間の排泄物からマイクロプラスチックが発見されたという報告もあり、プラスチックごみ問題に対し早急な対策が求められている。

このように深刻化するプラスチックごみ問題に対し、国内外で対応が加速している。

国内においては、環境省を中心に「プラスチック資源循環戦略」策定に向けた検討が進められており、2019年3月時点の公表資料*3では、基本原則を「3R+Renewable(持続可能な資源)」とし、(1)プラスチック資源循環、(2)海洋プラスチック対策、(3)国際展開、(4)基盤整備を重点戦略として設定している。また、そのマイルストーンとして、2035年までに全てのプラスチックごみについてリユース・リサイクルを中心に100%有効利用すると設定している。現在の我が国のプラスチックごみのうち58%が熱回収されていることに鑑みると、熱回収になるべく頼らずに有効利用率100%を達成するためには、リユース・リサイクルが容易な製品の設計・製造といった企業の取り組みが必要不可欠である。

一方で海外に目を向けると、EUでは使い捨てプラスチックの使用禁止が2019年3月に欧州議会にて正式に可決され*4、日本の検討内容よりも一歩踏み込んだ規制が発表された。EU以外にもプラスチック規制を発表した国は複数あり、国内外の動向を注視しておかなければ、海外の規制対応に遅れ、製品輸出・販売等ができなくなるなど、ビジネスにおいて不利益を被る可能性がある。反対に先進的な取り組みについてはグリーン公共調達等の対象になり、新たなビジネスチャンスを獲得できる可能性もある。

加えて投資家の動きにも着目しておく必要があるだろう。欧米では機関投資家を中心に、プラスチックごみ問題をリスクと位置付け、企業に取り組みを働きかける動きが出始めている。たとえば、ノルウェー政府年金基金を運用するノルウェー銀行インベストメント・マネジメントは、プラスチックごみの汚染対策などの取り組み強化と、関連情報の開示を企業に要請している。今後、気候変動問題におけるCDP*5のように、プラスチック問題に対するグローバルイニシアティブが登場する可能性もあるだろう。

プラスチックごみ問題について、気候変動問題と同様に企業の取り組みがより一層求められる時代に突入しつつある。その気運は企業にとって大きなリスクのようにも思われるが、プラスチックごみ問題の解決に資する商品・サービスを開発・提供することで、ビジネス拡大の追い風に変えることもできるのではないだろうか。

  1. *1The New Plastics Economy Rethinking the future of plastics
    (PDF/1,400KB)
  2. *2自然環境中の紫外線や波により破砕・細分化され、5mm以下のサイズとなったプラスチックを指す。
  3. *3プラスチック資源循環戦略の在り方について ―プラスチック資源循環戦略(案)―(答申)
    (PDF/272KB)
  4. *4Circular Economy: Commission welcomes European Parliament adoption of new rules on single–use plastics to reduce marine litter
  5. *5ロンドンに本部を置く、企業の環境取り組み情報の収集、分析、公表を行う国際NGO。
ページの先頭へ