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フードテックで変わる未来(1)

FoodTech ―技術との融合がもたらす新たな食文化

2019年10月28日 経営・ITコンサルティング部 伊藤 慎一郎

FoodTechとは

近年、各業界で、人工知能(AI)やブロックチェーンといったテクノロジーと既存ビジネスが組み合わさり新たな付加価値を生み出す「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が活発となっている。その中で、注目を浴びている一つにFoodTechがある。

FoodTechとは、「食(Food)」と「テクノロジー(Technology)」が融合して新規サービス・商品を創出する動きを表す。現在、最も代表的な例としては、大豆やエンドウ豆等を主原料として植物から人工肉を作り出す「Beyond Meat」がある。欧米では菜食主義者からの支持が多く、世界大手のハンバーガーチェーン店も当該商品の試験販売をカナダで実施することを発表した。Beyond Meatは、栄養価も見た目もほとんど実物の肉と変わらないのが特徴であり、提供元の企業が今年の5月に上場すると、初日で2億4000万ドル(約264億円)を調達した。出資者の中には、マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏等が含まれる。

他には、ロボットトラクターのような省人化や無人化により食品の効率的な生産を行ったり、食品の鮮度を保つことで廃棄物を減らしたりなど、「食品」の生産から廃棄までの幅広い分野で、テクノロジーとの融合による新たなサービス・商品が生み出されている。

FoodTechが解決を目指す課題と問題

まず、FoodTechがこのように注目される理由として、FoodTechのもたらす価値に注目してみたい。FoodTechへの期待やFoodTechによって解決を目指している課題や問題は、以下の通りである。

  1. (1)人口増加による食糧不足と飢餓問題
    日本の人口は減少傾向にあるが世界では未だに人口増加が激しい。現状、世界人口は国連の発表によれば77億人であるが、2050年には97億人にも達することが予想されており、食料不足は大きな課題となる。世界的な食料不足になれば、8億2000万人を超える飢餓に苦しむ人々がさらに増えることにもつながる。これらの問題を解決していくために、生産が容易な新たな食物の開発や省力での大量生産が検討されている。
  2. (2)廃棄物の増加
    食料不足や飢餓という問題を抱える一方で、世界の食料品廃棄は1年あたり13億トンを超え、全体生産量の三分の一にもなる。現状、捨てら去れてしまっている安全な食料をいかに有益に活用するか、というのは前述の食糧不足の解決にもつながる。
  3. (3)菜食主義の増加
    健康志向や宗教上の制限、動物愛護等のさまざまな理由により、菜食主義が拡大を始めている。摂取する食料に偏りがあると健康への影響が懸念されるため、代替の食品や全ての栄養素を満たす商品の開発を求める声は大きい。
  4. (4)食の安全
    従来から問題とされてきた領域である。直近では異物混入や産地偽装等が発生しており改めて注目が高まっている。その他にも人為的なミスや自然に発生する傷みなど原因がさまざまであり、対応には長期間安全に保存して運搬する方法や商品の状態を可視化したり自動的に判別したりするテクノロジー等が期待される。
  5. (5)人材の不足
    食品のバリューチェーンは農業や漁業から始まり、食品加工、外食業等までとさまざまであるが、人材不足がどの業界でも問題となっている。スマート農業やロボット活用による省人化、無人化が検討されている。

FoodTechの取り組み領域

こうした5つの課題と問題を解決するための具体的な取り組みは多岐にわたるが、みずほ情報総研では、FoodTech領域で取り扱う食に関する領域を、「生産」や「調理」など7つに分けて分析をしている。

  1. (1)生産領域
    主に農業を中心に、食料を生産する分野での取り組み領域である。日本ではロボット技術やICTを活用したスマート農業を実現するため、農林水産省が中心となり研究開発・導入実験を進めている。酪農や水産業でも人工知能(AI)を活用して、飼育や養殖の効率性を高める動きが広がっている。
  2. (2)食品領域
    食品そのものをテクノロジーで変えていく取り組み領域である。日本の場合は、代替肉分野に代表される菜食主義対応よりは、健康志向として一つの食品に何十種類の栄養素を練りこんだパーフェクトフードのほうにより注目が集まっている。
  3. (3)調理技術領域
    調理器具等の食品の加工に関わる道具に対する取り組み領域である。人間の代わりに調理や盛り付けを行うロボット等のロボティクスの取り組みが多いが、分子レベルで加熱、冷凍するなど新たな調理方法も研究されている。
  4. (4)流通領域
    運搬、搬送等の運送分野に関わる取り組み領域である。自動車や飛行機、船といった従来型の運搬手段をブレークスルーしようとする試みや、運搬時の鮮度維持や非効率な運搬等の課題に対してテクノロジーで解決を図ろうとしている。消費者に商品が届くデリバリーサービスも本領域に含まれる。
  5. (5)外食(中食)領域
    外食や家に持ち帰って食べる中食分野での取り組み領域である。日本では少子化傾向もあって外食への需要は減少傾向にあるが、調理された料理を持ち帰る中食は増加傾向にある。こうした中食への変換に伴うニーズの取り込みや、近年、外食領域で大きな課題となっている人材不足への対応など幅広い内容となる。
  6. (6)メディア領域
    食品やその調理方法等を発信または情報共有する取り組み領域である。これまでは本やインターネットを利用して料理家等のレシピを学ぶのが主流であった。しかし、一般人が投稿するレシピから始まり、最近では調理シーンの動画等を見ながら気軽に情報収集や追体験を楽しむスタイルも増えている。
  7. (7)廃棄・再加工領域
    食品の廃棄物の処理や再加工への取り組み領域である。まだ食べられるのに廃棄される食品ロスは日本でも約650万トンに上るといわれており、大きな社会問題となっている。食品の消費までの期間を延ばすことや飼料等への再加工といった分野にテクノロジーを適用することで、ロスを減少させることが期待される。

このように一つひとつの目的が重要であるため、達成すると各企業や消費者に与える影響も大きいものとなる。米国投資会社アグファンダーの調査では、2018年の米国等でFoodTechに投資された額は170億ドル(約1兆8000憶円)に達し、2012年と比較すると5倍以上にも増加した。

ビジネスだけではない。日本政府では、社会のより急速な発展を実施していくうえでも、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」等の世界的な目標とも絡めて政府が支援していくことを表明している*。今後は政府と企業が連携して一段とFoodTechが進展することを期待したい。

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