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気象災害を例に

気候変動の影響に「適応」する社会の実現に向けて

2019年12月20日 環境エネルギー第1部 大澤 慎吾

はじめに

自然の猛威と災害の激甚化が強く印象に残る平成が終わり、令和という新たな時代が始まった。しかし、災害激甚化の傾向は止まらない。それどころか、今後は地球温暖化の進行により、過去に例のない気象災害が多発するなど、災害の規模が拡大し、頻度も増していく可能性が高い*。国民一人ひとりが、これまでの知見や経験に基づく備えだけでは十分に対応できない災害に遭遇する確率が高まってきている。

本稿を通じて、気候変動の影響への「適応」について考え、意識や行動の変化や、気象災害に対する備えの向上に貢献できれば幸いである。

気象災害への備え

今年の9月から10月にかけて、台風や前線に伴う激しい気象災害が各地で発生した。その中でも台風19号は、過去の被害と比較しても著しいものであった。台風の接近・通過に伴い、関東・甲信越地方や東北地方では各地で観測史上1位を更新する記録的な大雨となり、広範囲で河川の氾濫や土砂災害、浸水の被害が発生した。人的被害および住居被害、インフラへの影響も甚大であり、激甚災害および非常災害にも指定されるなど、被害は極めて大きいものとなった。

これらの気象災害に対してどのような備えがあるのだろうか。

ハード対策として堤防や護岸の強化、公園を利用した遊水地等による治水対策などをはじめ、近年では都市部の地下空間に大きな貯水能力を持たせた施設の整備も実施されている。ソフト対策としては、ハザードマップが多くの自治体で整備されており、我々はインターネットを通じてアクセスし、容易にその情報を入手することができる。また、我々の生活に身近な天気予報は、台風などの極端現象に対する予測の精度向上とともに、予報の伝え方の改善や対応策としての活用が確実に進み、災害への備えとして我々の生活に欠かせないものとなっている。

このように官民でさまざまなハード対策やソフト対策の取り組みが進む一方、いくつかの課題も見られる。その中でも特に気になるのは、被害の多くが浸水や土砂災害の危険性を示したハザードマップ上であらかじめ確認できる地域であるものの、避難などの防災行動に十分につながっていない面が見られたことである。課題の一因として高齢化社会の進展や居住環境の変化などの社会環境が災害リスクの増大につながっていることも露呈し、改めて、災害に対して脆弱な地域における対策がいかに重要であるかを痛感させられた。この脆弱性を減らす対策には、事前の備えに加えて、有事の際に行動を起こすための地域コミュニティ内の連携・協力(共助の視点)も検討する必要があるだろう。

気候変動の影響に「適応」する社会の実現に向けて

台風19号が温暖化による影響かは断言できないが、近年、台風や豪雨などによる大規模な気象災害が多数報告されているとともに、気候変動の進展に伴い、数十年に一度の豪雨と表現されるような激しい現象が、より発生しやすい状況になってきている。決して脅しではなく、これまで経験したことのない規模の気象現象が、身近な場所で起こり得る。

このような激甚化する気象災害に対して、ハード対策やソフト対策だけではなく、一人ひとりが自らを取り巻く環境を理解した上で対応する必要がある。災害が多発する状況下で安心・安全を得るためには、人と地域との対話やつながりを強化し、より積極的に地域社会と連携した行動を起こしていくことが不可欠となるだろう。まさに、自助・共助・公助によって社会全体の防災力を高めていくことが、気候変動の影響や災害への心強い備えとなる。このような面にも着目して、気候変動の影響に「適応」する社会が進むことを期待したい。

  • *台風をはじめとする極端現象と気候変動では空間的・時間的なスケールが違うためその因果関係は複雑になるが、地球温暖化と台風の強度には関係性があると指摘されている。
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