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廃棄物処理業におけるIT利活用の期待

2020年1月22日 環境エネルギー第1部 不破 敦

近年、さまざまな業界でAIをはじめとするIT利活用による労働環境の改善への期待が高まっている。特に廃棄物処理業は労働災害による死傷者数の発生頻度が高いなど、労働環境の改善への期待が高い業界であるが、IT利活用が必ずしも進んでいるとはいえない。そこで、本稿では廃棄物処理業が抱える課題とその課題に対するIT利活用の期待について示してみたい。

まず、廃棄物処理業が抱える課題を2つ取り上げてみたい。

1つ目は、ほかの業界と比べて労働災害の発生頻度が高いという課題である。産業廃棄物処理業に限れば死傷者数はここ数年でやや増加傾向にある*1。廃棄物処理事業者に限らず製品工場や建設現場などでも同様に生ずる問題ではあるが、事業所の敷地内ではさまざまな車両が用地内を頻繁に往来しており、接触事故なども起きやすい状況である。また、可燃物を扱うことも多く火災事故も起きやすいと聞く。近年、さまざまな製品に使用されるようになったリチウムイオン電池は、衝撃などにより発火しやすいという特性があり、破砕処理工程への投入時の発火の原因となる。こういった火災への対策に事業者は頭を悩ませている。

2つ目として、労働力不足という課題がある*2。廃棄物処理業界のイメージは各社の努力もあり、近年、向上していると考えられる。しかし、事業者はその業務の性質上、処理施設を不便な場所に設置せざるを得ないことが多いことなどから、アルバイトやパートタイマーを含めて労働力確保は決して容易ではない。また、収集・運搬業においても、ドライバー不足に悩まされている状況があり、必要なドライバー数を確保するために、賃金を上げている事業者も少なくない。

上記で示した課題の一部はITの利活用で解決できる可能性がある。すでに国内の廃棄物処理事業者で、AIを使った自動選別システムを導入することで課題解決に向かっている事例も出始めている。ただし、こうした設備を導入するには一定規模のインフラ投資が必要であり、規模の小さな廃棄物処理事業者にはハードルが高い。実際に廃棄物処理事業者の多くは規模が小さく、休業状態の事業者を含む可能性があるものの平均従業員数は30名を下回っている*2。また、事業者としての与信能力が高く金融機関からの資金調達が不利にならないような規模の大きな事業者でも、受入廃棄物の種類や物量に対する見通しが安定せず、インフラ投資を躊躇する場合もあると聞く。

しかし、安価なソフトウェアやスマートフォンのアプリ、クラウド等の利活用であれば、比較的小規模な事業者でも導入が容易である。具体例としては、既存のデータベースへの入力もしくはソフトウェア間の連携のロボティック・プロセス・オートメーション(Robotic Process Automation:RPA)導入による省人化、キャッシュレス決済を行うことのできるスマートフォンアプリなどを用いた現金の管理コスト削減、管理業務のクラウド移行などが挙げられる。すでに製造業では安価なIoTで業務効率化を実現している事例もある*3。廃棄物処理業界もちょっとした工夫で業務効率化やコスト削減を実現できる可能性がある。また、完全なオートメーション化ではないが、作業者の動きをアシストするセンサーや端末を導入する方法、敷地内限定での車両の自動運転化など簡易的にITを導入する方法も考えられる。

廃棄物処理業が抱える課題解決にITは有効な手段であると考えられており、今後、IT利活用が拡大することで廃棄物処理業界における課題解決につながることを期待したい。

  1. *1公益社団法人全国産業資源循環連合会安全衛生委員会「産業廃棄物処理業における労働災害の発生状況」(2019年5月)
  2. *2環境省「産業廃棄物処理業の振興方策 に関する提言」(2017年3月)
  3. *3経済産業省 関東経済産業局「中小ものづくり企業IoT等活用事例 概要資料」(2017年3月)
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