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フードテックで変わる未来(4)

企業がFoodTechに取り組む際の注意点とは

2020年1月31日 経営・ITコンサルティング部 吉川 日出行

2020年もブームが続くFoodTech

昨年10月から連載を開始したFoodTech(フードテック)であるが、年が明けても盛り上がりが継続している。世界最大の家電見本市CES 2020では、新しいスマート調理機やFoodTechベンチャーからの新技術の発表で大いに盛り上がったようだ。今後しばらくはFoodTechには注目が集まりそうだし、もちろんブームが終わった後も食の分野での技術開発や新規サービス・商品の創出がとどまることはもはやありえない。

食に関わる多くの企業はこうした社会全体がFoodTechに進むことからは逃れられない。この期を逃さずにFoodTechへの取り込みに着手すべきである。

FoodTechに取り組む際にはターゲット領域を明確にすべき

企業がFoodTechに取り組むにはどうすればよいのだろうか。いくつかのポイントを挙げて解説する。

まずは、自社が取り組むFoodTechの領域やターゲットを絞ることである。 連載第1回で取り上げたように、FoodTech領域の広がりは多岐にわたる。生産領域にあたる農業の高度化を目指すアグリテックから外食領域を革新するレストランテック、あるいは食に関連する事柄をインターネットというテクノロジーでこれまでと違うやり方で取り上げ、深堀りするメディア領域の取り組みもある。

企業がFoodTechに取り組む際にこれら全ての領域に対してアプローチをする必要はないし、するべきではない。まずは自社が食に関するどの領域に接点と強みを持っているかを整理するべきだ。次に自社の事業戦略に沿って、中長期的に強化していく領域を明確化する。

奇をてらう必要はない。自社が過去に蓄積してきた技術や製品、顧客基盤を改めて見つめ直し、最新の技術でそれをどのように進化させるかをじっくりと検討することこそがFoodTechの入り口である。

そうはいっても中小企業等の場合は、自社の関与が部分的すぎてわかりにくかったり、進化のさせ方が思いつかなかったりすることもあるだろう。こういった際の分析の手法をひとつ紹介する。以下は、食におけるビジネス領域をバリューチェーンで示したものである。


食におけるビジネス領域のバリューチェーン分析の例
図1

こういった流れの中で、自社が関与しているプロセスはどこか、自社の製品はどのプロセスで使われているのか、仕入先や販売先はどのプロセスに属するのか、といったことを図にマッピングする。その後に、それをさらに活かすためにはどうすればよいか、将来はどのプロセスでビジネスをしたいかなどを議論する。

議論の際のセオリーとしては、(1)現在強みとしているプロセスを更に深堀りする、(2) 現在の主要市場としているプロセスの前後に活動の幅を広げる、の二通りある。(1)の例としては、自社の既存製品を最新のセンサー技術を使って進化させた例や、スマートフォンを使って既存市場の顧客に新しい体験をもたらすといったものがある。(2)の例は、調理領域のプレーヤーが上流の食材加工や下流の配達ビジネスに乗り出すというものだ。

検討にあたっては、既存の商品や市場に詳しいメンバーとテクノロジーに詳しいメンバーの両方を集めたほうがよい。ブレーンストーミング等でアイデアを出し、その後アイデアが成功した際のイメージ作りを行う。こうしてシナジーが出るプロセスや領域を絞り込んでいく。

新しいテクノロジー活用に取り組む際には、外部の力の活用が有効

ターゲットとする領域が絞り込めたら、次は実際にどのようにFoodTechに取り組むかである。

最も手軽なのは、ターゲットとする領域にすでに取り組んで実績を持つベンチャー企業を探し出し、協業を行う方法である。協業の内容は、技術提携や共同研究、販売代理店やOEM製品化などから適したものを選択する。ベンチャー企業はその領域で先行している分、優位性を持っている。企業側はその優位性にただ乗りするのではなく、自社の持つ優位性も提供してWin-Winとなるような組み合わせを採るべきである。協業がうまく行った場合は、さらに進めて出資や買収に発展させてもよいだろう。

最近では中心となる企業がテーマを決めて複数の企業や大学・研究機関、起業家などを集めて新たな技術やアイデアを募集・集約し、革新的な新製品(商品)・サービス、またはビジネスモデルを開発するオープンイノベーションと呼ばれる新しい協業形態も出てきている。

FoodTechは新しいテーマであるので、ターゲットとする領域に目ぼしい協業先が見つからないというケースもありえるだろう。その場合は、自前でFoodTech部隊を設置・育成して開発や変革を実現させていくしかない。ただし、従来と異なって全てを自前で対応する必要はない。一部については外部の力を活用することが可能だ。

たとえば、現状の課題や改善点を見つける段階で昔からある手法として、アイデアコンテストがある。テーマを決めて広くアイデアを募集し賞金などの報酬を与えるコンテストを開催して、そこからビジネスアイデアを得ようというのである。

最近ではコンテストではなく、アイデアソン・ハッカソンといったイベント形式が取られることも増えている。アイデアソン・ハッカソンは、コンテスト方式と比較して、複数人(それも当日出会った異分野人材)でのコラボレーションによってより練られたアイデアが醸成されやすい、イベント当日にメンターやコーチングを通してアイデアの進む方向をコントロールしやすい、アイデアは当日に披露されそのまま評価・表彰されるのでその後のビジネス化への進展が早い、といった利点がある。

アイデアソン・ハッカソンで出会ったメンバーがその場で得たアイデアを使って、そのまま創業・独立したというケースも出ている。そうした場合に最初にスポンサーシップを発揮して支援できるのはイベントの主催企業の強みとなる。

FoodTechに限らず、今後は自社だけで革新的事業を起こすことはさらに難しくなっていくだろう。日本の企業もこれまでの自前主義を捨てて、広く門戸を開いて協業を行いながらビジネス創出をするべきだ。時代の変化に合わせてさまざまな手法を組み合わせながら、最新テクノロジーを自社事業に取り込んでいくことが重要である。

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