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みずほMINORI開発プロジェクトにおける品質管理の取り組み

2020年2月6日 銀行システム品質管理部 プロジェクト品質統制室 室長 田尻 修二

<みずほ>の新勘定系基幹システム(MINORI)開発は、全面再構築の決定から足かけ8年、開発規模・参加したITベンダー数ともに過去に類を見ない大プロジェクトとなった。ITガバナンス強化やプロジェクト標準化と並ぶ最重要課題である品質管理・統制においては、第三者機関等へのアカウンタビリティ(説明責任)を果たすうえでも、現場・ベンダーとは別にプロジェクト横断の横串機能としての品質管理組織を立ち上げ、経営視点・プロジェクト俯瞰の観点から取り組んだ。ここでは、当該組織の取り組みを軸に、大規模プロジェクトの品質管理についてご紹介したい。

QMD(Quality Management Desk)の取り組み

開発部隊の取りまとめ役を担った当社は、みずほフィナンシャルグループやみずほ銀行と共同で、2014年QMD(Quality Management Desk)を立ち上げ、現場目線でのプロジェクト品質確認態勢を強化した。

まず、その具体的な活動内容を、「開発現場の統制」「社内外への説明」の2軸で簡単に紹介したい。


図 MINORI開発における品質管理(QMD)体制
図1


開発現場の統制

  1. (1)開発手法・データ統制
    多領域の開発に従事する複数ベンダーに対し、開発成果物・プロセスを標準化し、整合性・開発品質を担保。
    各工程の成果物定義(開発手法・プロセス)、データ統制・サービス統制のスキームを導入した。
  2. (2)品質管理基準、管理方法の統制
    多種多様な現場(要員・組織・拠点)を一元的に統制する品質管理の枠組みを構築。
    進捗管理・課題管理、不良情報の仕組みを構築し、現場に入り、現場と一体で運営を推し進めると共に、現場のルール遵守状況を管理成果物の現物にて徹底確認し、品質を底上げした。

社内外への説明

  1. (1)プロジェクト状況、リスク状況の可視化
    並走している複数領域・システムの開発に対し、個々の品質管理の徹底に加え、プロジェクト全体の品質およびリスクを可視化・把握。
    情報収集・分析・評価・可視化・報告の品質管理PDCAサイクルを運営し、正確に評価特性や時点状況を捉え、統一的かつ同じ物差しで定量・定性分析を行った。
  2. (2)改善事項の浮き彫りと現場指示
    プロジェクト全体を俯瞰し、経営視点から工程完了時やプロジェクト完了など未来に生じうるリスクの評価を定期的に推進。現場の分析結果を評価・分析し、改善提言を浮き彫りにするとともに、対応をマネジメントレベルで協議したほか、施策提案、現場指示、実行状況のトレースと結果の刈り取り(品質向上策の実行結果・不良収束結果のモニタリング確認)までを遂行した。

このように、品質状況を体系化・可視化し、タイムリーに経営報告を行うことで、開発現場におけるリスク逓減・解決策の実行に繋げると共に、プロジェクト全体方針の検討・判断(大幅な手戻りを防ぐための工程新設、一部領域の品質強化の必要性の認識と開発完了時期の見直しなど)に大きく寄与した。

結果、MINORIは2019年7月に全面稼働。現在も安定稼働中である。

MINORI開発プロジェクトから得られたもの・学んだこと

MINORI開発プロジェクトから得られたものとしては、大規模プロジェクトの運営ノウハウ(品質管理PDCAのスキーム導入・運営に係る知見)がある。またアセットとして、大規模プロジェクトの品質管理・統制ツール(クライテリア・進捗管理・課題管理・不良管理・資産管理等の運営ルール・手順・ガイド)及び、実績を持つ品質管理手法・アウトプット(情報収集手段・分析手法・評価報告レポート)を確立することができた。

また、MINORI開発プロジェクトを通じて学んだことは、ヒト(QMD有識者)と、モノ(MINORI開発を通じて獲得したアセット)はセットで初めて有効となる、ということである。プロジェクト品質とプロジェクト推進を強くやり遂げる意思をもったメンバーによる遂行が必須であると共に、現場に入り、現場目線を踏まえつつ、経営視点で品質状況を体系化・可視化・報告することが、関係機関へのアカウンタビリティを果たすうえで極めて有効であった。

総合品質マネジメントの他プロジェクトへの活用

品質管理活動の大前提は「ツール・技術導入の前に本質レベルで品質管理手法が理解できていること」である。品質管理手法のスキームは世の中に多々あるが(FTA(Fault Tree Analysis)、QC工程表など)、これらの有効策も、「手法が社内で継承できていない」「変化に適応できていない」といった点が多くの企業・組織において共通の課題となっている。

ビッグベンダーはそれぞれ自社に品質管理・保証セクションを設置し、自社のプロジェクトに対し、検証・モニタリングを行っている。しかし、第三者としてのチェック・提言に留まるケースや、評価を分かりやすく客観的に説明する手法が確立されていないなどの課題も多いようだ。そこで、当社では、MINORI開発プロジェクトを通じて培った知見・ノウハウをベースに、社内外の大規模プロジェクトに対し、専門性と知見に立脚した、品質管理・統制活動を行っている。

例えば<みずほ>内では、みずほ銀行の海外次期システム構築やみずほ証券におけるリテール領域の基幹システム更改などグループの大規模プロジェクトに対し、QMDサービスを展開し、総合品質マネジメントを支援している。また、<みずほ>外の金融機関に対しても、PMO・QMDを組み合わせた総合サービスを提供し、品質を中心としたプロジェクト状況・リスク状況の可視化や関係機関に対するアカウンタビリティ確保のための支援サービスを展開している。

結語

現代の品質は、顧客が期待する「当たり前品質」の上に、顧客の期待を超える「新しい価値=Something New」が要求される。一方で、現場は顧客から多様な要求を突き付けられ、常に厳しい局面に晒されている。

原理原則に立ち戻って標準化を推し進め、品質管理手法を確立した先に、顧客メリットの極大化がある。

Rome was not built in a day.

QMDを司る立場にいる者として、今後も品質管理手法のさらなる浸透に向けて体制の整備・強化や、品質にかかわる組織横断プロジェクトでの実践を深め、日本の金融を中心としたプロジェクトの品質を高めていく所存である。

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